外伝2特別講義1
がやがやと騒がしい教室内。
教室ということで中にいるのは当然生徒ということになるのだろう。
しかし、
ただの生徒いうには少しばかり訂正が入るだろう。
教室の本来であればコートのような外着をかけておくところには、弓や、槍、剣といったものが立てかけられていて、
黒板の近くにある本棚には、『正しい騎士のあり方』『正騎士団その業務と日常』『剣の使い方』『シルヴァニア王国の歴史』
などといった普通の学校とは明らかに違うラインナップの書物がそろえられているのが目につく。
そして生徒達がおしゃべりしている内容も聞いていると――。
「今日、週刊ナイツの発売日だよな。買ってくるの忘れちまった。誰かもってね?」
「やっぱり、ミーディ女王陛下はきれいよね」
「あたしは、ヘル様がいい-。」
「シルヴィス様のあのミステリアス加減は良くない?」
「おまえ、どこに就職するんだ?」
「本命は、『黒の狼』かな。
次点で『蒼の大鷹』」
「『黒の狼』って、あそこ第2位だぞ?相当優秀がじゃないと入れなくないか?」
「あそこの隊長のマクドゥーガル様にあこがれて騎士になろうと思ったんだ。
入団試験だけでも受けてみるさ」
「俺は、最近できたドキっ女だらけの花園騎士団かな-。
キレイどころがそろってるし」
「サイテー。あそこは女性じゃないとはいれないって噂よ。残念」
「名前は微妙だけど、騎士の実力だけなら第1位を張れるっていう噂だけど、誰か知ってる?」
「あ、うん、それ聞いた。
確かミーディ女王陛下直属の騎士団で、シークレットミッション任務が多いらしいよ」
「あそこの団長さん、美人だよねー。一度あったことがあるけど、同姓ながら顔をまじまじ見ちゃったわよ~。
ヘンな子とか思われていないかな」
「そういや、逆指名された子いなかった?」
「あ、うん。いたいた。
成績は並みで、完全後衛型の子。それが逆によかったらしいわね」
「確かに、そういうのってあるよなー。
いくら行きたい騎士団でも前衛、後衛とか合わなきゃなー」
「闘うしかできないんじゃ、上位にいる騎士団の入団試験で落ちるしな」
…………。
「……賑やかだな」
ため息をつくのは、生徒の話題にもでてきた【ドキっ女だけらの花園騎士団】団長(隊長?)ウィナ・ルーシュ。
「そーいえば、【蒼の大鷹】の副団長の子、ノイローゼでやめたらしいですよ」
同じく副団長のリティ・A・シルヴァンスタイン。
「あ、あのそこってリティさんが前いたところですよね?
いいんですか?」
相変わらずエルフ耳をぴょこぴょこ動かしているのは、回復、防御の魔法に特化したエルフっ子グローリア・ハウンティーゼ。
「いいですよー。グロちゃん。
隊長はナマエモノですから、たまには苦労した方が。そう思いますよね、テリアさん」
リティにそう言われ、片眉をピンとはねらせるのは、ウィナ・ルーシュに従うメイドさんテリア・ローゼル。
「リティ様。それはどういう意味ですか?」
「ほら、家事全般を風の精霊にまかせっぱなしだし」
「……ウィナ様、そろそろ中に入る頃合いではないでしょうか」
思いっきり無視するテリア。
ウィナは苦笑を浮かべ、側に立つ教師に声をかけた。
「そろそろ時間ですか?」
「ウィナさんが敬語っ!?」
身体をのけぞらせながら驚くリティに、【赤錆の魔刀】を呼び出しゴンと頭に一撃。
「あ、危ないじゃないですか!?
何でも斬れる武器で頭叩かないでくださいっ!!
暴力反対ですっ」
「鞘だから大丈夫だ。あと暴力じゃなくて、愛のムチだ」
「なら仕方ないですねー」
「仕方ないんですかっ!?」
グローリアがツッコミを入れた。
「……賑やかっすね」
呆れたように言う教師。
教師といってもその青年は若い。
前情報によると正騎士団第一位【聖剣】に所属していたこともあるらしい。
教師になったのは、任務で身体を損傷し退役したからとの話だ。
「すまない」
「いや、かまわないっすよ。
それよりウィナさん。あなたと俺そんなに年齢変わらないっすから、敬語なんて使わなくていいっすよ」
「……じゃあ、そうさせてもらうか」
「そうっす、その調子っす。
ついでに、それでののしってくれると俺の魂がMOEMOEっす」
「お、ここにも新たな同士がいたんですねー。よかったですね、ウィナさん」
「いや、何がいいのかわからないんだが」
「そろそろ時間っすから、教室に入るっすよ」
「って、おまえかっ!?」
教室に入るとさっきまで騒がしかったのに一斉に静かになる。
全員が教壇に注目している中、教師が朝の挨拶を述べる。
「おはようっす。
今日は、みなさんに朗報があるっす。
現役の騎士団の方に来てもらったっすよ。
なので今日は特別講義になるっす」
ざわ。
現役騎士団という言葉に反応する生徒達。
「じゃあ、入って来て下さいっす」
「っ!?」
そうしてウィナ達が教室に入ると、数人の生徒が思わず立ち上がって口元に手をあてて驚いた。
「【ドキっ女だらけの花園騎士団】のみなさんっす。
拍手で迎えてくださいっす」
一瞬、沈黙したが生徒達から次第に巻き起こる拍手にウィナは微笑で返した。
ずきゅん。
そんな音をたてて、生徒の何人かがその場に倒れた。
「魅力でイチコロですねー」
「……魅力なのか?」
こうして波乱の特別講義が始まりをつげたのだった。