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エピローグ(第2部)

ひゅうぅぅぅ。

風が巻き起こるたびに土砂や粒子の細かい砂が風に運ばれるこの荒れ果てた地域。

黒いローブを被った男は、持ち前の知識からその厳しい環境の中歩いていた。

そして、薄汚れた黄色系の色彩で彩られた革張りのメモ帳を取り出し、なにやらメモをしていた。

「……ここまで同じとは驚きだね」

そういう男の顔はある種喜悦を隠しきれない。

そして、調査という彼の冒険はまた新たなアクシデントを向かえた。

「……人?」

この地域が荒れ果てているのは見ての通り。

何もないゆえに四方への見通しもすばらしくよく、ここでは盗賊達も仕事をしようとしないほどだ。

そんな中、のっそりとゆうか、もくっというか何か固まりが10歩も満たないところにあるのを発見した。

しかも複数。

自身は研究者ではあるが、盗賊や、山賊といった無頼に対抗できるだけの戦力は持っていた。

そのため彼は、まあ罠だったら破ればいいか。

と気楽な考えで近づいてく。

「!」

彼は今度こそ本気で驚いた。

固まりはやはり人間。

そこまでは予想はついていた。


しかしこんなに美人がいるとは思ってもみなかった。

何人も倒れている中、彼の目にとまったのは一人の女性。

瞳は閉じられているものの、すっと伸びたそのまつげ。

少し標準よりも高い鼻。

女性というよりはまだ少女といったくらいの風貌で、それゆえか不安定なイメージを相手に抱かせる。

黒く長い髪は砂や土砂で汚れているものの、艶がありまるで生きているかのようだ。

「うっ……」

と、少女が小さな声を漏らす。

びくっと彼は慌てて一歩後ろに下がった。


ゆっくりと身体を起こしながら、2、3度瞬きをする少女。

その仕草にまたも胸が高鳴るが、それ以上に少女の目の色に驚いた。


紫。

アメジストというべきか。

宝石のようにきらきらと輝いている少女の双眸に、彼は全てを忘れて見入ってしまう。

そして、少女が完全に意識を覚醒し自分を見ている男に気づくと一瞬にしてその双眸が鋭くなる。

「ま、待ってくれ」

慌てたのは男。

彼もまたそれなりに戦ってきたものである。

今の少女の動作だけで自身よりも上の技術を持っていると確信したのだ。

両手を挙げて降参のポーズに、少女は少し警戒を緩めながらも口を開いた。


「ここはどこだ?」

「シャンパーナ地方だよ。」

「……シャンパーナ?

ということはそれほど変なところに飛ばされたわけじゃないのか?」

怪訝な表情を浮かべる少女に、彼もまた興味と疑問を持ちながら胸中で思った。

(ずいぶんと女の子なのに変なしゃべり方するな、この子)

男まさりというか。

とびっきりの美少女だから、それがギャップになっていいのかもしれない。

そう彼は結論づけた。

「何か事情がありそうだけど、その辺に倒れているのもひょっとしてキミの仲間かい?」

「っ!ああ、そうだ。

事情は今はお互い聞かない方がいいだろう。

俺もおまえを完全に信用しているわけじゃないしな」

「キツイね」

肩をすくめた男を無視し、少女は倒れている人達に近づき、脈や呼吸の有無、意識があるかどうか確認していく。

その行動は彼のよく知る知識でもあり素直に驚いた。

もっともその驚いている内容は、常人が思っているのはいささか違う方向ではある。

「仲間は大丈夫そうかい?」

一段落をしたところを見計らって声をかける。

少女は腰に手をあて一呼吸おくと、

「思ってたよりもな。やれやれ」

「なんだか疲れているね」

「いろいろとあったんだ。

聞かないでくれると有り難い」

「そうか。これからどうするつもり?」

「そうだな……。

とりあえず全員が気づくのを待って、とりあえずシルヴァニアに戻るというところ――」

「シルヴァニアっ!?」

彼はいきなり声を上げた。

それにびっくりしたのか、少女の目が細まる。

「そんなに驚くことか?」

「いいや、驚くもなにも……シルヴァニアって、シルヴァニア王国のことだよね?」

「?当然だが、もしかしてそれ以外のシルヴァニアがあるのか?」

「いや、ないよ。

……でも、なんでその名前を知っているんだ、キミが」

「?当然だろう。

俺の今の帰る場所だ」

なんともいえない沈黙があたりを支配する。

彼は未だ混乱している中で、

少女は、男が何故こうもつっかかってくるのかわからないのか、首をかしげている。

その姿はMOEで――じゃない。

男はがしがしとローブの上から頭をかき、言った。

「キミはたぶん、悪い子じゃないと思うから信じるけど。

この世界にまだシルヴァニア王国は存在していないよ。

建国されるのはこれから100年後。

このシャンパーナ地方にある旧アスカード遺跡を埋めて造られる。

今は存在すらしていない。

なんでキミが知っているんだい?」

その言葉に。

少女は絶句した。



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