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第4話 お買い物

お買い物

「ウィナさーん」

騎士の詰め所の前で待っていると、リティと呼ばれた少女が紅い髪のポニーテールを忙しく右へ左へと動しながらやってくる。

どこの青春恋愛ドラマだろうな、これ。

と胸中でウィナはつぶやく。

そうして目の前にやってきたリティから、女性らしいいいにおいが鼻孔をくすぐる。

これで少し息を荒げていたら完全に恋愛ドラマが始まりそうである。

「待ちました?」

「いや、それほど待ってない。

……その服は?」

「あ、これですか?」

とリティは白地のスカートの端をつかみながらくるりと回って見せる。

「騎士服のままだと、いろいろ注目されちゃうんで私服に着替えてきたんです。

似合いますか?」

リティの着ていたのは、白のブラウスにピンク色の上着といった普通の町娘のような格好だった。

ウィナとしてはもう少し、パンチの効いた格好でくると思っていたので少々つまらなく、

つい本音が漏れた。

「たぶん」

「たぶん!?

いきなりフラグ砕け散りましたよっ!?」

「いや、似合っていると思う。……たぶん」

「微妙に優柔不断ですね~。

まあ、それはともかく早速いきましょうか」

「その前にちょっと聞きたいんだが」

「なんですか?」

「……俺はこのままでいいのか?」

その言葉にリティは、ウィナを上から下まで見回し、

「ゴスロリ服を持ってきた方が良かったですね」

「何の話だっ!?」

「え、これから街に出るのに白いロープじゃイマイチだよね?という話じゃなかったんですか?」

不思議そうに聞いてくるリティに、ウィナは深くため息をつく。

「どういう曲解をしたらそんな答えにたどり着くんだ?」

「1+1=11並みにストレートな答えだと思いますけど……」

「なんとなく、おまえの性格がわかった」

「おまえじゃなくて、リティって呼んでください。短いつきあいになるんですから」

「短いのかっ!?」


とそんなバカなことを言いつつ、商店が立ち並ぶ通りの方へ足を進める。

ウィナは眉間に眉を寄せながら、

「いきなり疲れたな……」

不満を口にした。

それを聞いたリティは、もうダメですねーと言いながら、

「若くて可愛いのに、歳だなんて言っていたら後ろから刺されますよ」

「あいにく殺気とかには敏感だから、そうそう後ろをとられることなんてないさ」

一応、今は女性ではあるが男性である時は冒険者らしきこともやっていた。

そのため自身に害を与えそうな気配をある程度なら感じることができる。

と真剣な話だと思っていたが、どうやら彼女はそうではないらしい。

「でも、夜は後ろから攻められる方が好きなんですよね、わかります」

いきなりセクハラ発言をかますリティ。

確か、こいつ騎士だったぞ、たぶん。

今まで会った事の騎士は、大抵義を重んじ、規則を守り、

現代で言う委員長的な性格をしているものが多かった。

斬新といえば斬新だが。

そういえば、こいつの上司も騎士っぽくなかったなとウィナは思いながら、

「いや、わかってないだろ。つうか、地味にセクハラ発言じゃないか、それ」

「ウィナさんが可愛いから問題ないです」

なんだろう。

この唯我独尊ぶりな意見。

ツッコミどころが満載だが、それに答えていると話がとんでもなくズレるような予感がし、

適当に促しながら話を切り替えることにした。

「いや、あるから。……まあ、それはともかくずいぶんと平和なところだな。この国は」

「へ?そうですか?」

意外そうに目を丸くするリティ。

今まで冒険者っぽいことをして、大陸各地をまわっていた。

そこであった様々な出来事などを顧みても、このシルヴァニア王国に自身の故郷を思い出す。

つまり、平和ということだ。

「そうだ。

俺はこれでも器物破損――はともかく殺人未遂なんだぞ?普通手錠の一つもつけないと、まずくないか?」

少なくとも、帝国じゃあ犯罪者は即刻牢屋行き、獄門張り付け――みたいなことになる。

シルヴァニアの法体制、犯罪者の扱いはどうなんだ?と尋ねたつもりだったのだが、

やはりリティの答えは斜め上にいくようで、

「そんなにSMプレーが好きなんですか?」

「どうしてそうなるっ!!おまえの頭はうじでもわいているのかっ!?」

まだあって間もないというのに、ついそんなツッコミをいれてしまった。

このとき、手にハリセンを持っていたなら思いっきり後頭部を叩いていただろう。

「ヒドっ!?わたしはいつだって真摯に人と向き合うことを生き甲斐にしているのにっ!!」

「微妙な生き甲斐だな。

――じゃなくて、話がそれたから戻るがこの国は犯罪者には優しいのか?」

「そんなことないですよ。

基本死刑OKな国ですし。罪を犯したものに対する罰は他のどの国よりも厳しいくらいです」

「なら、殺人未遂の俺が普通にこうして歩いているのは問題なんじゃないか?このまま、逃げる可能性もある」

「でもウィナさんは逃げる予定はないですよね?」

「……まあ、そうだな」

「きっとウィナさん、今は情報収集しているところなんじゃないですか?

自分にとって不利な自体なら逃げるかもしれませんが、まだ何もわかっていないのに迂闊に動くなんてしないと思いますけど」

「――おまえ」

いつのまにかリティの紅い双眸は鋭利な刃物のように鋭くこちらを観察していた。

(どうやらあなどっていたのはこちらだったか)

言動が妙で、どうも自身よりも格下と思っていたが、そんなことはなさそうだ。

ウィナは一瞬にて確信に至ると、改めて彼女を見直した。


背は今の自分よりも高い。

紅い髪は、ポニーテールにしていてそれが活発な彼女の姿を象徴しているよう。

服装も白いスカートに、ブラウス。ピンクの上着といったいかにもおとなしそうなイメージをさせる衣服を身につけているが。


紅く透き通った双眸が彼女を被捕食者ではなく捕食者だと主張する。

そう彼女は、捕食者なのだ。

隙だらけの言動とは裏腹に、その身のこなしには隙がない。

以前の自分であれば、もしかすると――。


「名前は、なんていうんだ?」

「リティです。

リティ・A・シルヴァンスタイン。」

「……ずいぶんと立派な名前だな」

「これでも、正騎士団【蒼の大鷹】の副団長ですから」

そう歳の割に育った胸を突きつけるように彼女は、自信満々に言ったのだった。



「まずは衣服ですね」

王室御用達と書かれた金縁の看板が、なんとも財布の中身を心細くさせる。

「高そうな店だが……」

「あ、大丈夫です。

隊長がこれくれましたし」

といって、ショルダーバッグからリティが取り出したのは――

「……金塊?」

そう金塊だ。

元の世界でもテレビの中でしか見たことのないシロモノを彼女はあっさりと取り出した。

「おばさーん。これ半分くらいで買えるだけ服選んでいいですか?」

「おや、リティじゃないかい。

久しぶりだね」

「はい、お久しぶりですー。それで、いいですか?」

「うん、ホンモノの用だし。かまわないよ。それで――」

じろりとウィナを見、

「このお嬢ちゃんの服を選ぶのかい?」

「そうです。

ある程度見栄えがして、動くのに苦労しないような――」

とそこまで言って、リティはあれ?と首を傾げ、

「そういえば、ウィナさんって元々何をしていた人なんですか?」

「今更だな……おい」

半眼でにらみながら、

「冒険者だ。一応な」

「じゃあ、他の国とかも行ったことがあるんです?」

「まあ、そういうことになるかな」

「それはそれは……。じゃあ戦闘スタイルは武器重視なんですか?それとも魔法?」

「どちらかといえば、武器だな。魔法も使えないわけじゃないが」

「エモノ持っています?」

その言葉に、ウィナの顔をしかめる。

「……持っていない。壊されたんだ。ここに来るときに」

「へえ、そんなことがあったんですねー。大変です」

「おまえが言うと全然大変そうに聞こえないな。

……まあ、いいけどな」

「じゃあ、おばさん。やっぱり軽装系の動きやすい服にしてもらった方がいいかもです。

それとこの人、祝福で女の子になっちゃった子です」

「へえ、それはそれは……」

おばちゃんの目が鋭く光る。

「……お手柔らかに頼む」


ウィナの願いとは裏腹にこの後2時間、2人の着せ替え人形になった。




「これで衣服はOKですね。じゃあ次は武器屋?」

「ああ、しかし……」

ウィナは、先ほど買ったブレストプレートの前で腕を組み、

「俺はまだ身体能力がどれだけあがっているのか、把握していない。」

「なるほど。それは困りましたね」

うーんとリティも一緒に腕を組んで考え込む。

「……たぶん、隊長のことだからすぐに決行することになると思うし……

そうなると、いくら加護持ちだからといってエモノがないとつらいかー……」

「?なんだ?」

ぶつぶつ言うリティ。

「なんでもないです。

うーん、そうだ。もしかすると――」

何か思いついたのか、リティは手をぽんと打ち、

「ウィナさん、特殊能力は?」

「?加護の話か?」

「そうそう。加護を持っている人は、身体能力の向上以外にも特殊能力が身につくこともあるんですけど、

中には武器も【登録】される場合があるんですよ」

「【登録】?」

「あー、本当に担当者の話を聞いてなかったんですね」

「……悪かったな。」

「ええっと、じゃあ説明しますね。

【登録】というのは――」



【登録】

高位存在を象徴する武具や、品物の構成要素が【情報】として魂に刻まれることがある。

これを【登録】という。

【登録】されたものは、自分の意志で具現化させたり、消したりできるらしい。



「便利な機能だな」

「ですよね-。

というわけで何か出せるかもしれないんで試しにやってみてください」

「試しにといわれても」

眉根を寄せて口をへの字にするウィナ。

その姿にリティは思う。

やっぱり可愛いは正義だよね。と。


「目を閉じて、加護者に声を掛けるようにしてみて下さい。」

そうリティのアドバイスの元、まぶたを降ろし呼吸を深いリズムにへとかえる。





「……ここは」

目を開けると、そこは真っ白な世界。

「ようやく来たわね」

後ろから声をかけられ、ばっと振り返る。

そこには、装飾の少ない椅子に足を組んで座っていた女性がいた。

「誰だ?」

「わからない?」

「……ミーディ・エイムワードか?」

その言葉に、女性は満足げに笑みをこぼす。

「そうよ。

といってもここにいるわたしは本体じゃないけどね」

「本体じゃない?」

「まあ、その話はまた後で。今はやることがあるんでしょう?」

「……ああ、武器が欲しい。あるのか?」


ミーディにはいろいろ言いたいことがあった。

なんで、自分に加護を与えたのか、女性にしたのか。

だが、そんなことよりもウィナは【力】を何よりも求めていた。


まっすぐなウィナの双眸を真正面からミーディは受け止め、

「いい目ね。

昔のわたしを見ているみたい。もちろん容姿も可愛いし」

「……今更だが、なんで俺を女にした?」

「男よりも女の子の方がわたしは好きだからよ」

「――あー、なるほど」

「半分冗談だけど」

「半分は本気なんだな」

「まあね。さてと」

ミーディが指をパチンと鳴らした瞬間、白い世界が脈動する。

「――っ!?」

そして、上から何かが降りてくる――。


「家……?」

そう家だ。

二階建てのベランダが広いのが特徴的な家がどどんと地面?にぶつかり、

スライムのようにうにょうにょ揺れ動きながら、やがて動きを静止した。

「驚いた?」

「……この家はなんなんだ?」

「これは、貴女の世界。

貴女がこの家の扉を開けて、部屋を開放することで【力】を目覚めさせることができるものよ」

「心象世界の具現化か……ゲームじゃあるまいし」

「でも、意味はあっていると思うけど」

「この中に俺の武器はあるのか?」

「いいえ。貴女の武器はここ」

言って、ミーディは胸の前で手を合わせる。

「!」

合わせた手を離していくと、そこに一つの【剣】が現れた。

「それは……」

「これは貴女の武器で、【家】に入るための最初の扉の鍵でもあるわ」

ミーディは、【剣】をウィナへと投げ渡す。


【剣】は、ウィナの知っている刀という武器に似ていた。

刀身を確認しようと柄を持つ手に力を込める――が。

「抜けない?」

「まだ、貴女には最初の扉を開けるだけの資格がないってことね。ま、鞘に入ったままでも問題なく使えるから」

「斬れないのにか」

棍棒のように殴って、夜盗や魔物に立ち向かえということか。

ミーディは、椅子から勢いよく立ち上がると、ウィナの目の前に立ち、

「いい?

これは例え鞘に入っていても関係がないの。

貴女が斬れると思えば、斬れる。

常識を疑いなさい。それができなければこの剣も抜くことはできないし、貴女は何もわからないままこのまま死ぬことになる」

「っどういうことだ」

「貴女は、すでに盤上に立っているということ。

早く力を手にしなさい。

じゃないとわたしの本体は、きっと――」


白の世界が脈動する。

今度は視界にノイズが走った。

「……もう時間ね。

いい?もう貴女がこの世界に来た時点で、賽は振られてしまったの。逃げることはできないわ。どこに貴女がいても彼女の目からは逃れられない」

「何を言っているっ!!」

「覚悟を決めなさい。

貴女は力を望んでいた。そして、わたしは貴女の望みにふさわしい力を与えた。貴女は、ただそれを利用して生き続けなさい。

それができなければ、貴女はこの見知らぬ地で死ぬことになるわ」

その言葉を最後に白い世界は消えた。



「ウィナさんっ!!」

「あっ……?」

気がつくと、鼻と鼻がぶつかるくらい近い位置にリティの顔があった。

「ここは?」

「商店通りです。

もう、びっくりしましたよ。いくら声を掛けてもウィナさん身動き一つしないんですから」

「そうか」

周囲や太陽の位置を見ても、先ほどから時間はそれほどたっていない。

おそらく1分、2分というところか。

ウィナは、いつのまにか額に浮かんでいた汗をそででぬぐうと。

「リティ。どうやらうまくいったみたいだ。」

「武器ですか?」

その彼女の問いにウィナは、武器を具現化する。

「……刀ですね。ということは女王様のアレかな?」

興味津々に現れた武器を見るリティ。

具現化された刀は、あの白い世界で見たモノと全く差異はない。

つまりは――。

ウィナは柄の部分を握り、鞘から刀身を陽光に浴びせるべく抜こうとするが、

「抜けないんですか?」

「ああ、これっぽちもな」

やはり抜けない。

まだ自分にはこの剣を抜くだけの力はないということだ。

「まあ、加護持ちの方の武器は特殊なモノが多いらしいですから、こういうこともありますけど……。

女王様のアレだとすると、問答無用で無双ができそうですよーウィナさん」

リティは、にやりと笑う。

「まだ抜けなくても、そこいらの武器よりはずっと強いですから問題ないですね」

「そうだな。とりあえずこれで俺の方の用事はほとんど終わったが」

「そうですね。

ちょっとおなかもすきましたし、食べ物屋さんで軽く軽食を食べませんか?」

「……一応、俺殺人未遂なんじゃなかったのか?」

そんなに寄り道していいのか?と目で訴える。

「おなかがふくれることと関係ないですよね?」

にっこりと微笑むリティの後ろに、黒いオーラのようなものが見えたような気がした。



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