終わりを望む者ゆえにその結論は
(腕が痛む……)
さっきの衝突で右腕をおかしくしたのかひどくいたんだ。
右利きであるため、左手に持ち替える――というのは彼相手では無謀以外何者でもないだろう。
そんな自身の状況からとれる手段は一つ。
短期決戦。
それしかない。
そしてそれは向こうもそのようではある。
依然としてプレッシャーは感じるものの、明らかに魔力の気配が徐々に薄くなっているのは気配で感じ取れた。
どういった手段で復活したのかはわからないが、完全復活――というわけにはいかなったようである。
もっとも。
(……もっとも、やった相手からしたら造反防止のため――っていいそうだがな)
胸悪くなるのを覚えたが、今は黒幕のことを考える時ではない。
意識を集中させる。
自身の身体を一つの武器として構成し直す。
思考経路を再構築。
余分なことは考えない。
今はただ目の前の男を止めることだけに気持ちを収束させる。
(戦いは一瞬で決まる。)
ざっと腰を落とし、重心を前方へ流れるように移動させる。
ガイラルもまた持っている剣を両手で握り、正眼で構えをとった。
「先の闘いで先手を決めたのはおまえの方だったか」
構えを崩さず、ガイラルはこちらに聞いてくる。
「ああ。」
「なら、今回はこちらから行くっ!!」
がしゃんっ。
鎧が大きく鳴る。
全身を覆う重装備にも関わらず、ガイラルは一呼吸も満たない時間でウィナの目前にまで移動した。
ぐぅんと振りかぶられる大剣。
引き絞られた一撃は、たとえ武器で防御をしようとも粉砕するほどの力が込められている――っ!!!
ウィナとガイラルの目が一瞬交錯した。
「……バカが」
あざけりではない表情をウィナは浮かべ、刀を一文字に振るった。
バンっ!!
広間の大扉が勢いよく開かれる。
「なんじゃっ!?」
「むっ」
イグリス、クロム老は共に扉の先に注意を向ける。
そこには見知った顔の男女と、見知らぬ女性達がいた。
「女王殿下っ!ご無事じゃったのかっ!!」
驚きながらもクロム老は、自身の主君に歩み寄る。
「クロムも無事だったのね。」
「生きていたか」
「あれくらいのことで我が主を傷つけられるとでも?」
女王の腹心アーリィ・エスメラルダは鋭い眼差しをイグリスに向ける。
「て、テリアさん、ウィナさんがっ!!」
グローリアの声が王の間に響く。
「っ!ウィナ様……」
テリアの視線の先、自身の主君である彼女が黒い騎士に頭を垂れるように大地に膝をつく。
そして、
「ごほっ」
黒い鎧に包まれた男もまた大きく身体を揺らし、そのまま背中から大地へ倒れたのだった。
「痛みはありませんか?」
テリアによたれかかるように座りながら、ウィナはグローリアの治癒魔法を受けていた。
「ああ、随分とラクになった。ありがとう、グローリア」
側の彼女に感謝を述べると、ウィナはそのまま危なげに立ち上がり、仰向けになったまま動かない男の元へ歩いて行った。
彼の側にいたクロム老は、彼女が近づいてきたのをみとめると首を被り振った。
「最後、なんでわざわざ隙を見せた?
おまえの実力なら俺を殺せただろう」
「……正直、なんでかわからない。
ただ自然と大上段で構えていた」
そういうガイラルの表情はすっきりとしていた。
「そういうことにしておくか。
――それで?」
「――このままだと、俺はまた蘇生させられることになる。
だから、頼む」
紳士に願い出る彼に、ウィナはまぶたを閉じ。
「……わかった。」
彼女にしては力なくそう応じた。
「ウィナさん!?」
「下がってくれ。グローリア――テリア頼む」
「……わかりました」
飛び出してこようとするグローリアを抑えるテリア。
「何か言うこと、言いたいことはあるか?」
周囲を見回して彼女は言った。
アーリィは静かに首を横に振り、
シインディームは表情を変えず、
イグリスは目を閉じ、まるで何かを祈っているように、
クロム老は、ぎりっと歯をくいしばっていた。
「ガイラル……おまえは何かあるか?」
「――ない。
俺の懸念はすべておまえに託した」
「……そうか」
抜き放つは、赤錆の魔刀。
今の彼にこの刀を防ぐ手段はない。
ウィナは静かに彼の心臓がある部分に刀の先を持っていき、
「――」
無言のまま突き立てた。
「ウィナさん……」
すでに事は為された。
刀を突き立てられた男は、もう動くことはない。
彼女は、無言で刀を引き抜き、鞘へと納刀する。
と、
男の身体がまるで粉雪のように崩れ始めた。
「これは……」
「おそらく肉体はすでになかったのでしょう」
アーリィが沈痛な面持ちで顔を振る。
「テリアだったかしら?」
「はい。何か?」
唐突に声をかけられ、思わず眉をひそめてしまうテリア・ローゼルに、
シインディーム・エル・ヴァナ・エインフィリウムは願いを口にした。
「はなむけをお願いできる?」
「っ――かしこまりました」
女王の願いを受け、テリアはすっと右手を前へ差し出す。
そして、高らかに唱う。
「風よ、遠き地より巡礼の旅赴く旅人よ、聖なる調と旋律を奏でる天の使者よ。
今ここに誇り高き魂が、天の階を進む。
祝福を、祝福を。
我は、この御霊を導く地の使者なり。
高らかに彼の魂の位を述べるものなり。
聖なる乙女の御名に冠して、我が言霊。
聞きとげ願えるならば、天へと導く一迅をここに【天蓋聖霊】」
「その魔法っ!?」
アーリィの目が大きく見開かれる。
そして――
王の間に純白の光に満ちた。