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終わりを望む者

静かだった。

ウィナにはそう感じられた。


空を見上げれば白い雲が形を変えながら広がっていく。

凪ぐ風をその身に受けながら、ウィナは村外れの丘でその来訪者を迎えた。


「お別れだな。ガイラル」

「……気づいていたのか」

そこには、黒髪、黒目と言ったごくごく普通の青年がいた。

ただ今はその手には手錠と呼ばれるものがされているが。

「監視は?」

「あそこにいる」

彼が目で指す先には、くえない中年の騎士がにやりと笑っていた。

その様子にウィナは腰に手をあて大きくため息をつき、

「あのおっさん、自分が騎士だって忘れているんじゃないのか?

容疑者をこうもあっさりと放っておくか?普通」

「同感だ」

ぽつりとつぶやくガイラルにウィナは、

「……ニィナ・レディベールだったか、彼女の名前は」

「ああ」

「本当にいいのか?俺なんかにあずけて」

「おまえ以外にあずけられる人間に心当たりがない」

「そこまで信頼されているのはうれしいが、

そこまで信頼してくれる理由ってなんなんだ?

あって半日くらいしか経っていないだろう?」

ウィナの疑問に、彼はしっかりとこちらを見据えて答えた。

「おまえが俺を動かしてくれた。

それで十分だ」

「……そうか。

責任もって彼女はあずかる」

「よろしく頼む」

それで彼の用件は終わったのか、くるりと背中を向けた。

「……ガイラル」

「なんだ――っ!」

ガイラルの表情がこわばる。

なぜならウィナが勢いよく振りかぶってストレートをくりだしてきたからだ。

「歯くいしばれっ!!」


ガン。

それなりにいい音がして大地に倒れるガイラル。

きっとすぐさまこっちをにらみつけ、

「何をするっ!!」

急傾斜に眉をあげながら言ってくる彼に、ウィナは半眼で、

「胸。前にもんだろ。それの返却代だ」

「っ!……今更か」

「今更じゃない。

言っただろ?後でかえすって。利子をつけて返したけど、これで終わりだ」

ほれっと倒れた彼に手を差し出す。

ガイラルは憮然とした表情で、

「本当におまえはよくわからん」

などと言ったので、ウィナはにやりと人の悪い笑みを浮かべ、

「よくいうだろ。

女心はよくわからないものだってな」

一瞬、彼はきょとんとし、その言葉の意味を斟酌すると呆れた顔で、

「……おまえがそれを言うとはな」

「少し前までは考えられなかったけどな」

あっはっはと笑うウィナに、ガイラルも苦笑いで答えた――。




あれから数ヶ月。

今2人は別の国の城内――王の間にて対峙していた。




覇気を持ってにらみつけるウィナに対して、顔をさらしたガイラルは涼しい顔で彼女を見ていた。

「――どういうことだ?」

「……もともと俺の役目は、おまえという人間を制御する駒にしか過ぎない。

盤上の駒にその差し手の意味を聞いてもわかるわけがないだろう」

「まあ、そうだな」

とウィナは納得したが、隣にいるクロム老はそういうわけにはいかなかった。

額に血管を浮かび上がらせながら、ガイラルに問いた。

「何故じゃ、何故こんなところでこんなことをしているお主はっ!!」

「答えるも何も、答えるだけのモノは今の俺にはないんです。

クロム・アルバート殿」

「っく、イグリスっ!!」

「私に問われも無意味だ。

アルバート。

私にもなぜ死者かれがここにいるのかわからない」

「死者?」

腕を組みながらウィナはイグリス、ガイラルへと視線を向ける。

「……もともと俺は、ゴルトスの丘で死んでいる。

今ここにいるのは亡霊のようなものだ」

「亡霊……か。

その割には実体がはっきりしているけどな」

「それは、俺に何かをさせたいものの目的のためだろう」

「――おまえはそれでいいのか?」

「心残りはない。

最後の懸念も解決した。

ならば、最期くらい俺を蘇らせたもののために答えてもいいと思ったのだ。

といっても俺に逆らう事はできないが」


――最後の懸念。

その時に、彼は自分の方を見た。

それはつまり、【彼女】のことだろう。


「村でのことはどこまで本当だったんだ?」

「全てだ。

俺の記憶と力はあのとき封じられていた。

封じられてはいたが、俺を蘇生させたものは、一つの命令を下していた。

ジルダの研究を監視すること。

もしも余計なマネをするならば、外的要因を持って消せ。

それがあのとき俺の深層に刻まれた命令だ。

ただ、その命令は本人にはわからないように細工はされていた。

――そうでなければ、とうの昔にあの男を滅殺している」

事実をただ述べているだけなのだろうが、以前と比べて明らかに雰囲気が違う。

確かに、これだけのプレッシャーを与えられるならあんな小物ジルダ程度、消すのは造作にないだろう。

「【彼女】はおまえにとって本当はなんだったんだ?」

「知り合いだ。

結果的には、任務のため数ヶ月程度親しくなった程度の人間にしかすぎない」

「親しくなった程度……か」

双眸を細め、彼を射貫く。

(親しい程度に思っていた人間にしては、感情がずいぶんとこもっていたけどな……。

催眠術のせいと言われればそれまでだが)

ため息を漏らし、ウィナは問いた。

「――俺に何をさせたい?」

「簡単なことだ」

斬!!

と前方の空間を切り裂く動作をし、構えをとる。

「俺との勝負を受けること。

勝敗はどちらに上がっても問題ない。

俺が勝てば、おまえを殺し、イグリス宰相殿を殺し、アルバート殿を殺し、この帝国に住む人間に地獄を与える。

それが今の俺に与えられた契約だ。」

「何を言っているのじゃっ!!ガイラルディアっ!!」

声を張り上げるクロム老。

それを彼は無視し、こっちをしっかりと見ている。

黒いその双眸は驚くほど、透き通っていて――操られているとは思えないほど。

「――そしておまえが勝ったなら」






「俺に終わりを与えてくれ」







「……わかった。受けて立つ」

ウィナはそれ以上何も口にすることなく、刀を構えた。

赤く錆びた刀身があらわになる。

そして、

赤い雪がぱらぱらとウィナの周囲に舞った。


まるでそれはどちらか二人の未来を占うかのように思えた。







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