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【災厄を運ぶもの】

今更ながら、このヨーツテルン大陸には神々存在する。


神といっても直接、人間を生み出したとされる【母】たる創造神はすでにこの世界に関わることはなく、

種族としての神々が存在しているだけだ。


あらゆる種族を越える、身体能力、魔力、知性、能力――。

種族としての頂点に立つ彼らはその力をそれぞれの分野にて発揮する。


時には芸術の分野で、

時には闘いの分野で、


しかし。

人には人の不文律がある通り、神には神の不文律があり、他の種族と関わることはあまり多くはない。

例外としては、【加護】を授けた人間には時々姿を現すとされるくらいである。


だが、あまり多くはないだけで人に関わる神は少数ながら存在する。

その中でも【神の名を知るもの】ヴィエンタールマナウスの名は、人の歴史書の中にてこう記されている。



――【災厄を運ぶもの】――と。




地下道に緊張感が高まる。

誰もが知っている神の名。

その名を持つ意味。

テリアは額に汗をぬぐう余裕もなく、ただ相手を見据えるだけだった。

そんな彼女の様子を少女はほうと感心した声をあげ、

「【月の女神】ルーミスの加護持ちがいるとは、驚きじゃ。

あのおてんば娘にそんな甲斐性があったとは思わなんだ」

くっくっくっくと笑い声をあげる。

「しかし、よくもまあ面白い人材を集めたものよ。

【闇の聖母】、【零点の統治者】、【月の女神】、【裁定の賢者】……

ふむ?お主は……【加護】はないのか?

それにしては面白い方向性を持っているの」

視線を向けられ、びくっとグローリアは身体を振るわせる。

「実に面白い。

そう思わんか?弟子一号」

「彼女達が実力というのは評価しますが――。

師匠、今日はどういった用事でここにいらっしゃったんですか?」

「簡単なことよ。

あの男がやりたいことがあるとわらわに泣きついてきたのでのう。

その手伝いじゃよ」

「あの男――?」

「もしかして、彼?」

女王の言葉に、少女は笑みを浮かべ、

「そうじゃよ。

さすが【闇の聖母】。お主も久しぶりじゃの。

ディーのやつは元気にしておるか?」

「相変わらずだわ。

私の話相手になってくれないの」

「くっくっく、あやつにそんな甲斐性があるわけなかろう。

あやつにとってお主は天敵のようなものじゃ」

なごやかに話が進みこのまま井戸端会議が続くと思いきや、

「さて、小話はこの程度でよかろう。

わらわがここにいるのは、あの男の願いを叶えるためじゃ。

まあ、わらわにはあやつの最後の舞台を作ってやることしかできないからのう。

というわけでお主達の足止めをさせてもらうぞ」

鋭く見据える黄金の双眸が、一際大きく輝く。

「弟子一号。

少なくともわらわに一撃入れることができないようなら、もう一度一から修行のやり直しじゃ」

「っ、わかりました。師匠」

ざっと黒い杖を手にし構えるアーリィ。

「一対多数で問題ないかしら?」

腰に帯びていた刀の柄に手をかけるシインディーム・エル・ヴァナ・エインフィリム。

「当然じゃ。

お主達程度わらわに傷すら負わせることなどできぬ。

神殺しをする気でやらんと死ぬぞ」


ひゅんと空を裂く音ともに放たれる一矢。

少女は宙空で手を握り、力を込めて折った。

放たれた方を見ると、メイド服姿のテリアが弓をこちらに構えにらみつけている。

「ウィナ様に害なす存在は、ここで滅ぼします」

「ほう。

心地いい殺気じゃ。

思ったよりも楽しめそうじゃな。

来るがいい」

その言葉が開戦の合図となった。




「ちょっと無双しすぎたな」

廊下には刃物傷こそないが、全員気絶するぐらいの打撃を受け昏倒し倒れていた。

その数廊下を埋め尽くすほど。

これには近くにいたクロム老も目を丸くし、

「大したもんじゃ。

ここまでやるとは……」

「じいさんの名誉のためにいっておくが、弱くはなかったぞ。

ただ俺を倒せるには至らなかったってところだ」

【領域探査】上では、第一陣は終了といったところか、辺りに騎士達の気配はない。

「宰相さんは、王の間か?」

「うむ。

おそらくは。じゃがあのバカものもこの騒ぎに気づいておる。

王の間は広い。

戦力を集中させておくくらいにはのう」

「決戦は王の間か」

ウィナの断定に首を縦にふるクロム老。




人気が急に引いた廊下を歩きながらウィナはふと思ったことについて尋ねた。

「そういや、じいさん。俺達がいたところ以外の囚人を集めておく施設とかってあるか?」

「あるぞ。

じゃが突然どうした?知り合いでも投獄されておるのか?」

「知り合いっていうかな。

まあ、知り合いか。

女なんだが、偽名じゃなければシャクティ・ルフランっていうヤツで」

「シャクティ・ルフラン?

ふむ、もしかすると情報屋かの。」

「知っているのか?」

「若くして帝国は元より他国の情報もお金さえ払えば手に入れてくる凄腕の情報屋じゃよ。

わしがあったことはないがの」

「そんなに凄腕だったとはね」

少し驚きの表情を浮かべているウィナに、クロム老は続けた。

「噂によると、元帝国の貴族だったらしいがの。」

「へえ、元ってことはつぶれたのか、つぶされたのか」

「つぶされたようなことは聞いておる。

真実はわからんがのう」

どこか遠くを見つめるクロム老。

「あやつほどの人間が捕まったのだと、もしかすると地下につれていかれているかもしれんのう」

「地下?」

「そう地下じゃよ。

帝国の暗部といってもいいところじゃ。

わしは立場上、その場所で何をやっているか知っているがのう」

「……その言葉からするとあまりよくないことか?」

「……地獄じゃよ。おそらくこの世の」

ぽつりと何の感情も込めずそれだけつぶやいた。

しばらく2人の歩く音だけが響いた。

「……ところでじいさん、騎士の名前ってわかるか?」

「ん?

騎士じゃと?」

「ああ、帝国の騎士なんだが」

「ふむ。わしの退役した後の騎士ならわからんが、そうじゃないならわかるぞ」

「そうか。

ガイラルディア・エネス・シュトゥーリエっていうヤツなんだが――」

ウィナの出した名前に、クロム老はその場で足を止めた。

「ガイラルディア・エネス・シュトゥーリエ……じゃと?」

「ああ、任務中でゴルトスの丘で謎の死を遂げた騎士らしいんだが」

「おまえさん、どこでその名前と事件を……?」

明らかに顔色が変わった様子で尋ねてくるクロム老に、

ウィナは簡単に説明した。

「【禁書】を盗みだしたか。

ふっふふふふふ、笑わせてくれるわ」

「じいさん?」

ぎらっと刃物のような鋭い双眸をウィナに向け、

「盗んだのは別人じゃ。

あやつはあの時死んだ。死人がそんなことできるわけなかろう。

それにあやつが生きていたとしてもやらんぞ」

きっぱりと否定する彼に、ウィナはふむと間をおき、

「つまりじいさんとガイラルディアという男は知り合いだったのか?」

「そうじゃよ。

実力も、人柄も申し分がない男じゃった。

おそらく今も生きておれば、わしの後を継ぎあやつが騎士団を統括しておったじゃろう」

「へえ、ベタぼめだな。じいさん。

そんなにいうならあってみたくなった」

「おまえさんのような凄腕のべっぴんさんなら、わしも大歓迎じゃ。」

と賞賛するクロム老に、ウィナは少しばかりむっとし――すぐにため息をついた。

「どうしたんじゃ?」

「……いや、そろそろ慣れないとダメなんだろうなって思ってな」

「ふむ。

何を慣れぬといけないのかはわからんが、人間、意外にどんな環境でも慣れるぞ。」

「ああ、わかるよ。

実体験している最中だからな」

はあ、と深く深くウィナはため息をついた。

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