リーダーはメイドさん
ウィナ・ルーシュが牢屋へ投獄されていた頃、地下道では――
「――ウィナ様がどうやら捕まったようです」
テリアの言葉に、グローリアは仰天した。
「ええ!?
どういうことですか!?」
「情報屋に売られたといったところではないですか?」
棍のような漆黒の杖を持ったアーリィがそう問い返す。
テリアは一瞬だけ躊躇して彼の推測を肯定した。
「ええ、どうやらそのようです。
しかし、彼女もまただまされたいたみたいですね。
ウィナ様と一緒にどこかに連れていかれるところです」
「ふむ。
地下への搬送はおそらくないでしょう。
ここからだと王城内にある施設に運ばれるのが普通ですね。」
「約束を破る騎士というと、ガーデナー?」
自身の主君と同じ双眸でこちらを見つめるシインディーム・エル・ヴァナ・エインフィリム。
「――そのようですね。」
「やれやれ。
こんなことになるならさっさと始末をしておくべきでしたか、陛下」
「あらあら、過ぎたこと言っても仕方ないわ。
私もこんなことになるなんて思ってもいなかったもの」
朗らかに笑いあう主従。
それに若干、めまいを感じながらテリアは問いた。
「それで――どうしますか?」
昨晩、長い話し合いの中以下のことが決まっていた。
ひとつ、【禁書】を持ち出した者と【禁書】両方を無条件でこちらに渡す。
ふたつ、上記の条件を満たすために、今回の事態の沈静化することを約束する。
みっつ、ウィナ・ルーシュの実験に付き合う。
こちら側――シルヴァニア側としては、所詮他国のイザコザ。
巻き込まれる筋合いないし、下手に手を出して干渉問題などとやり玉をあげられてはたまったものではないので、
本来であれば無視するのがベスト。
しかし、現在帝国領は封鎖され、他国の人間は出国も入国もできない状態であること。
表だっての反乱ではないため、以前普通にお祭りは続いているし、ほとんどの人間が今の状況に気づいていないため、他の国は干渉ができない。
強制的に突破することもできないわけではないが、
自分達の主君であるウィナ・ルーシュは女王に実験に付き合ってもらえればやるという、ある意味国際問題になる条件をつけ、
しかも女王と側近がそれにOKを出してしまったからに引くに引けない状況になってしまったのだ。
人体実験に協力してね――OK。
こんなやり取りが存在すること事態、テリアは持病である偏頭痛が悪化するのを覚えた。
――以上のようなことがあり、まずは帝国に起きているこの事態の収拾を速やかにするべく動きだそうというところでウィナが捕縛という事態。
ちょっと行って聞いてくる。
ご飯を食べに行くような気軽さで外へ出て行った主を止めておくべきだったか――。
さすがのテリアも今更ながら少し後悔していた。
「ウィナさんならそのまま放っておいても大丈夫ですよー」
いつものように紅髪をポニーテールにしている彼女は、危機意識などまるでないようにあっさりと言い放つ。
「で、でもウィナさんだって人間ですよっ」
グローリアの抗議はちょっと失礼な気がする。
テリアは内心でツッコミをいれた。
「【闘神】の加護を受けている女性ですよ?そう簡単にはやられませんよー。」
と今更周知の事実をあえてリティは口にする。
そのことにテリアは少し怪訝に思った。
同時に何か別の意味を彼女は言っているのではないか――
そう思考を深めようとしたとき、
彼が言葉を口にした。
「私も彼女なら問題ないと思います。
私のアレを破った人間は今までいなかったですので、彼女の実力があれば問題ないでしょう」
「…………テリアさん」
上目つかいでどうするのか聞いてくるグローリア。
ちょっとだけハグしたくなったのは心の内に秘めておきましょう。
いつだって女性は秘密を着飾ることで美しくなれるのですから。
(確かウィナ様の格言でしたか。)
テリアは、ひとときだけまぶたを降ろしあらゆる状況をシュミレーションし、
「こちらはこちらで動きましょう。
ウィナ様はおそらく騒ぎを起こします。
同時にこちらも動けば、相手にとっては迷いを働かせることになるでしょう。」
全員の視線がテリアに集中する。
薄暗い地下道にてテリアの漆黒の双眸が光る。
「ミッションクリア条件は、いかがいたしますか?女王様」
「そうね。
元凶になっている宰相イグリスの捕縛、もしくは抹殺。
あとは彼に付き従っているものの殲滅。
でいいわ。
あとのことはアーリィにまかせてしまうから」
それでいいかしら?とアメジストの双眸を彼に向けるシインディーム・エル・ヴァナ・エインフィリム。
「それでよろしいかと。
今回の事は私の落ち度でもありますので。
――宰相は王城にいるでしょう。
このまま地下から向かいましょう」
「ではミッションスタートです」
テリアの号令に全員がうなずいた。