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帝国の騎士

起きている人間の方が少ないこの時間――。


まるで昼間のような明るさがある建物から発せられる。

それをまるで他人事のように見ている男がいた。


男にしては長い黒髪。

冷徹な光を宿す黒い双眸。

騎士の鎧に身を包み、ただ今なお炎上する建物を凝視している。

男の周りにも同じ姿をした男達が、少し後ろからやはり様子を見守っている。


「……破られましたか」

男はぽつりとつぶやく。

同時に天を突くほどの炎の柱は霧散し、雪のように紅い粒子が空から降ってきた。

ざわっと彼の後ろにいた者達がざわめく。


無理もない。

彼の【力】で狙われたもので今まで生きていたものはいなかったからだ。

彼らの狼狽とは裏腹に、彼は全く動揺を見せず無造作に手を前方に出す。

瞬間、

カンっ!!

と甲高い音を立てて金属音が鳴り響く。


またも彼らは驚愕の声を上げる。

彼の前にいつのまにか少女がいて、鞘のままの刀で彼を叩こうとしていたからだ。


いつのまに?

彼らの思考能力が追いつかないまま、2人の闘いが始まる。

「なかなかエゲつないことをやるな。帝国の騎士」

「そういう貴女もなかなか思い切ったことをしますね。

まさか私に剣を向けるとは」

少女は面白そうにアメジストの双眸を輝かせる。

「自信過剰だな。

人間、どんな強大な力を得ようとも油断すればあっさりその命を終えることになる。」

「至極当然な解答です。

しかし、それは貴女も同じこと」

ヴァンっ!!

と爆発音が少女と彼を中心に響く。

「エスメラルダ卿っ!!」

仲間であろう騎士達の声に、彼は応じず爆煙の中へと姿を消す。


刹那、彼の後ろから気配が生まれる。

――が。

カンっ!!

やはり金属音が響くのみで背中から斬りかかった少女の刀の一撃は受け止められる。

少女は怪訝な表情を浮かべつつ、見えない何かに蹴りを放ち、そのままくるりと回って地面に着地する。

それを見て彼は、少しばかり感心する。

「ずいぶん軽い身のこなしですね。貴女は」

「そういうあんたもヘンな力使っているな。

全く斬れないっていうのはどういうことだ?」

片眉をあげ、不思議そうにこちらをにらんでくる少女に、彼は。

「教えるとでも思っていますか?」

「いや、全然」

肩をすくめて全くくやしがらずに答える少女。

「私、個人としては貴女は大変好ましいですが……こちらも仕事ですので1つだけ」

「なんだ?」

「女王をどこへ連れて行きましたか?」

「?」

少女は、きょとんとした表情でこちらを見る。

彼はその態度で、少女には今回のことは関係ないと断定した。


(つまり、これは私を女王殿下から離させるための陽動ですか。

ふふっ。やってくれますね……)


(ですが甘い。

これくらいのことで策を為したと思われては甚だ困りますね)


そして彼の手にはいつのまにか杖が握られていた。

杖といっても装飾はほとんどなく。

黒い漆のような質感で、彼の肩くらいまでの長さを持ち、下から上にむかって円の直径が大きくなっていっている。

どちらかといえば杖というよりは棍に近い。


突然出現した武器に少女のアメジストの目が細まる。

あいかわらず鞘に入ったままの刀を肩にかけているが、そこから神速の斬撃がこちらに放たれることはわかっていたので、

彼もまた彼女の挙動に注視したまま告げた。

「残念ですが、どうやら私と貴女は第三者にはめられたようです」

ぴくんと少女の表情が揺れる。

しかし、動揺は押し殺しこちらの真意を見るようにまばたきせずにこっちを見据えてくる。


「どういうことだ?」

「私の今回の任務は女王陛下を誘拐した人間を殺すこと。

そして、その人間は宿に泊まっているらしいとのことでしたので」

「なるほど……。どうやらそのはめた人間とやらはケンカを売ってはいけない相手に売ったみたいだな」

「ええ、そうですね。

全くもって愚かしい。ですが今からいくら懺悔をしたところで――」




一方その頃王宮内にて。

「くっくっく。今頃あの若造め、ワシの策に見事にはまりよった。

これでヤツは無関係な人間ごと殺し尽くすという暴挙に出る。」

「それを我々が、糾弾しヤツの地位を降格するよう女王を操ることでヤツの評価を多いに下げることができますな。シャーウッド卿」

「当然だ。オルスマン卿。

貴族ではないあの若造が女王殿下の付き人になれたのも全ては女王殿下に気にいられたことに他ならない。」

「そうですな。

その女王殿下はすでに我々の手の内にあります。

意のままに操るにはまだまだ時間がかかりますが、それまでには女王殿下の守護者達は皆、いなくなる予定ですし」

「ふははっははははは。

最初、この計画を持ってきたヤツには驚いたが実にうまくいったものだ。

これで女王殿下にワシを筆頭貴族院の長に任命させることでこの帝国の権限はすべてワシのものになる。

その暁にはオルスマン卿。おまえにはワシの補佐をやってもらうぞ」

「ありがたき幸せ。

いやまさに、笑いが止まらぬとはこのことをいうのですな」

中年の華美な格好をした男達が、王宮内の一室にて酒宴を開いていた。

彼らはすでに美酒に酔っていた。

そのために彼らは背後に現れた気配にまるで気づかなかった。


そしてその結果。

ばしゅ。

一際紅い華が、その一室に咲くことになる。

血のように紅い華が、真っ赤に部屋を色どった。


こうして男達の人生は幕引きとなる――


部屋に残ったのは銀色の髪をした少女のみとなった。




「無事、下手人は始末できたようです。

さて私は王宮にと戻りますが貴女はどうしますか?」

「そっちがやる気がないなら、俺の方もあんたとやろうとは思わないな。」

「そうですか。

私としても貴女のような人とやり合うのは正直避けたいところです。

アレを破る人など始めて見ました」

「それを言うならこっちもだ。

俺の刀で斬れないなんてヤツは始めてみた」

アメジストの双眸と、漆黒の双眸が一瞬だけ絡み合う。

「名前を聞いていいですか?お嬢さん」

「お嬢さんはやめてもらいたいな。

俺はウィナ・ルーシュ。あんたは?」

「私はアーリィ・エスメラルダ。ではルーシュ。機会があればまた逢いましょう」

こん。

彼が棍を軽く大地に突くと、蒼い炎が吹き上がり――

次の瞬間には仲間達とともに姿を消していた。


「……やれやれ、全く相手の能力がわからないとはな――。」

「できることなら相手にしたくないですね~」

「そうだなー……って、いたのかタダ飯くらい(リティ)」

いつのまにか横に紅いポニーテールをぶんぶん縦に揺らしているリティがいた。

「いましたよー。ってウィナさん、今わたしの名前ヘンじゃなかったですか?」

「ヘンじゃないさ。

なあアホのリティ

そろそろ俺達もテリアとグローリア達のところへ行くぞ。空気の読めない痛いリティ

「って、絶対なんかヘンな名称つけていますよねっ!?」

「さて、犯人を早く捕まえて帰りたいなー」

「ウィナさーん。

無視しないでくださいってばっ!!!」

リティを無視して歩き出すウィナに、リティは追って走る。



彼らが過ぎ去った後、何事もなかったかのように【白雲京】はたたずんでいた。

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