帝国首都探索(リティ編)1
ウィナが酒場にて情報屋に接触していた頃。
リティ・A・シルヴァンスタインはイカ焼きを咥えながら大通りを歩いていた。
「闘技大会中とはついてますねー。
おいしい食べ物は沢山あるし。
こういう時、この騎士団に入って良かったって思いますねー」
【蒼の大鷹】の時は、団長のアルバがそういうところは割とうるさかったので任務中の買い食いはできなかったのだ。
「次は、揚げイモでも食べましょうかー」
とひょうひょうと食べ歩きしているリティの手がすっと宙に伸びる。
そして何かを掴んだのかそれをすっと目を鋭くして確認すると人気のない方へと歩いて行った。
裏道を過ぎ、人気のない広場に出ると黒ずくめの男女が姿を現した。
「貴様。何のマネだ」
中央にいる男がそんなことを言ってきた。
「何のマネとは?
わたしはただ食べ歩きをしていただけですけど」
「ならば、その手に持っているのはなんだ」
「これですか?」
リティは、先ほど掴んだものを彼らに見せる。
それはクナイと呼ばれるもので刃の方には紫色の液体が付着していた。
「こんなもの投げるなんて危ないじゃないですか。
今はお祭り期間中ですよー。
あまり先走ったことはしない方がいいと思いますけど」
「――消せ」
リーダーだろう男の号令で一斉に黒ずくめの男女が襲ってきた。
リティは身動き1つせず、彼らが襲いかかるのを待ち。
「!」
「いきなり人を襲うのはどうかと思いますよ」
リティは、リーダーの隣にいた。
口にはイカ焼きをくわえたままで。
「な、なにっ!?」
男はさっきまで彼女がいた場所を見ると、そこにはさっきまでないものが存在していた。
それは大きな氷塊。
よく見てみれば透き通った氷塊の中に幾つもの黒い塊がある。
それが自身の仲間であると認識したとき、背中に寒いものがはしるのを感じた。
「ば、バカな……っ。あの一瞬で氷付けにした――だと?」
「まあ、暑いと人間怒りっぽくなっちゃいますからねー。
ちょっと冷やしてみました」
「っく」
少女から距離を取り、エモノの短刀を構える。
「んー、お兄さんもちょっと冷やした方がいいですかね」
すっとリティは手を背中側へと回す。
そして再び正面に出てきた時には一本の槍を手にしていた。
男にさらに緊張緊張がはしる。
「……貴様、何者だ」
「わたしですか?
リティですよ。
リティ・A・シルヴァンスタイン」
「……リティ?」
怪訝な表情を浮かべる男。
だが、次の瞬間、男は驚愕の表情で彼女を見た。
「リティっ!?
リティ・A・シルヴァンスタインだとっ!?あの【零点の統治者】が、何故ここにいるっ!?」
「我ながら中2病っぽい通り名ですねー。
それとわたしの名前を知っているとは思わなかったですねー。
知っている人はそれなりに限られるんですけど」
「っ」
失言だったと顔を青ざめさせる男。
「まあ、月並みですけどわたしの名前を知っている人はもれなくひえひえにしよう大作戦を決行中ですので――」
「!」
男は、とっさに後ろを振り返る。
もし、ここで振り返るなどといったわざわざ回避を遅らせる動作を取らずに、すぐ回避していたら男の未来は変わっていたかもしれない。
男が最後に見たのはイカ焼きを口にくわえたままにやりと笑う少女の顔だった――。
キィン。
「無事ひえひえをもれなくプレゼントしましたし、情報も手に入れましたしもう少し遊んでいましょうかねー」
リティは食べ終わった串を氷りづけにしゴミ箱に捨てる。
ゴミ箱全体がそのまま凍り付いてしまったが気にしない。
広場に残った氷像をそのままに、彼女はその場を去っていった。
「………………」
広場での一部始終を目撃していた黒い影は、屋根の上からすっと姿を消した。