帝国首都探索(ウィナ編)2
露天のおばちゃんとたわいもない話をした後、ウィナはその場から離れ再び裏道を歩き始める。
「…………」
先ほどの露天が見えなくなるくらい歩いた後、つけられていることに気づいた。
(――もう気づかれたか、それとも別件か)
幸い気配は1つ。
実際は複数いたということもあるかもしれないが、今の自分の能力ならそんな間違いは犯さないだろう。
【領域探査】
これは自身の精神世界で第一の扉を開けた時に得られた能力の1つ。
言ってみれば、脳内に地図を広げて人などを光点として抽出し視覚化する能力。
めんどくさいので脳内ナビマップと言うことにしておく。
これがあればいくら気配を消そうが、一発でどこにいるかわかる。
今は、単に人もしくは人っぽいものとか魔物とかそういう大きな類でいるかいないかくらいのことしかわからない。
能力の発展などしていけば将来的にはもっと便利になるかもしれないが。
(情報屋を捜したいんだが……)
今のところ追跡者はある一定距離を取ってそれ以上は近寄ってこない。
あくまで偵察だけが目的なのか。
それとも拉致し、捕縛もしくは殺人が目的なのか。
(注意だけはしておくか)
方針を決め、近くの酒場に入った。
からんころん。
ベルの音を背に入ると、バーのところにいるごっつい親父さんがちらりとこっちを見、
「開店は夜からだ」
無愛想かつ余計なことは一切言わず、そう言い放った。
確かに、店の中は閑散としていてやっているような気配はない。
「いや、ちょっと聞きたいことがあってきたんだが」
「なんだ?」
どうやら聞いてはくれるらしい。
無視されると思ったが。
「ここら辺で情報屋とかやっているところはないか?」
ごとりと、きれいに磨いたグラスを棚に入れる親父さん。
「情報屋だと?」
「ああ、手癖の悪い連中に絡まれて大事なものが盗まれたんだ。そいつらの情報が欲しい」
「……ふむ。」
言って男は何かをこっちに投げた。
殺意を感じられなかったので、さっと飛んできたものを取る。
それは一枚のカード。
「…………情報屋もやっております……?親父さんが?」
「仲介屋だ」
「なるほど。当たりか。早速で悪いが仲介してもらえないか?」
「いいだろう。その辺に座って待っていろ」
むすっとした顔の親父さんは、奥の方へと姿を消した。
ウィナは入り口に近い席に座り、片目をつぶる。
【領域探査】発動――
周囲の人の動向をみられるようにしておく。
ここの親父さんが敵側でないという保証はないからだ。
だが、それは杞憂だったらしい。
緑色という特殊な髪の女性がこっちに向かって歩いてきたからだ。
「情報屋か?」
「ええ、そういうことですわ」
なんだか偉そうな雰囲気を醸し出している女性。
やはりカードをこちらに提示する。
(名刺……みたいなものなのか?)
ありがたくちょうだいし、カードにざっと目を通す。
「情報屋シャクティ・ルフラン…………?」
(あれ、どこかで聞いたような……?)
小首をかしげるその仕草に、何故かその女性は顔を真っ赤にしていた。
しかも唇はわなわな揺れている。
もしも、ウィナがもう少し彼女に注視していればこう読めただろう。
『かわいいいっっっう!!お持ち帰りぃぃぃぃぃっぃぃっ!!』
某ひぐらしもびっくりである。
そんな女性の心の内は全く気づかず、ウィナは話を進めることにした。
「早速仕事の話をしたいがいいかな?」
「え、ええかまいませんわ」
ウィナはすっと例のバッヂをテーブルの上に出した。
シャクティと呼ばれた彼女の視線も自然に鋭くなる。
「これは、【真なる皇帝の紋章】(カイザーエンブレム)ですわね」
「【真なる皇帝の紋章】(カイザーエンブレム)?」
「ええ。
帝国エインフィリムにおいて過去から現在にかけて優秀な業績を残している者に与えられる称号のようなものですわ。
……ただし表向きは」
「表向き、ね。
ということは本当のところは違うっていうところか」
と、親父さんがこっちにオレンジジュース2つをもってきて置いていった。
「代金は?」
ウィナの問いにくいっと親指をシャクティに向ける。
「私が支払いますわ。
といいましても、あなたへの情報料からさっ引くことになりますけど」
「それなら構わないけどな。で、続きを聞かせてくれ」
すとろーちゅ~とオレンジジュースを飲むその姿に、シャクティの目は潤んだ。
(なにこの可愛い生物ぅううぅうううううっ!!?
さては私を萌え死にさせる気ですわねっ!!)
というようなことを考えていたとは、さすがのウィナも想像だにしていなかった。
「こほん。
さて、お話を戻しますわ。
【真なる皇帝の紋章】(カイザーエンブレム)の本当の目的は1つ。
反乱分子の抹殺それにつきますわ」
「――なるほど。
つまり、優秀な人間ほどこの帝国に対し異を唱える可能性が高い。
一人の人間の異なる意見など多数の中に紛れてしまうものだが、それは多数に取って代わってしまえば現政権の交代劇ともなる」
「ええ、そうですわ。
技術や思想そういった方面にて優秀な者に贈るものと表向きには言っておき、真の意味では監視。国に対して害となるようなことを言うものには、
それなりの罪をなすりつけ社会的に抹殺。
言うなれば地獄への片道切符のようなものですわ」
「悪趣味なこの上ないが、永遠に続く国家のようなものを維持するにはまあ愚策だが及第点はあげられるな」
ウィナの意見に、シャクティが驚きを示す。
「あなたは賛成なのですか?」
「いや、中庸だ。
個人的には国が何をやろうが知ったことじゃない。
俺や俺の親しい人間に害を及ぼさない限りは、何をやろうが基本は傍観だな」
「傲慢ですわね」
少し、彼女の言葉に険がこもる。
「気に障ったのなら謝るよ。
だが、今は仕事の話だ。個人的な感情は抜きでお願いしたいな。」
「わかっていますわ。
私情を仕事に持ち込ませるのは2流、3流のやること。
私は1流の情報屋です。仕事はきっちりこなしますのでご安心くださいませですわ」
「それなら安心だ。
で、この【真なる皇帝の紋章】(カイザーエンブレム)についての概要はわかった。
これの持ち主を捜すことはできるか?」
試すようなウィナのアメジストの双眸が、彼女を貫く。
ふっと微笑を浮かべシャクティは答える。
「ふっ。それこそ愚問ですわ。
お金さえいただけるならそれこそ相手の髪の毛の本数までも情報として提示できますわよ」
「ヘンな趣味だな。まあ、人の価値観はそれぞれだから文句は言わないが」
「違いますわっ!!」
肩を怒らせ、バンとテーブルを手でたたき付ける。
「……実は痛かっただろう」
「……ええ」
ぷるぷると腕を振るわせ、少し涙目になっている彼女に萌えた。
その後情報料や規約などといった内容を相互に確認しあい、3日後またこの場所で会うことを約束して別れた。