帝国首都探索(ウィナ編)1
「裏道――とは言ったものの、さてどこから探るべきか」
表の大きな通りから一本外れた通りを歩きながら辺りを探っていく。
と、露天をやっているおばちゃんと目が合ったので、近づいていく。
「ヤマルの塩焼きはどうだい?お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃん……あー、じゃあ1つくれ」
お嬢ちゃんという言葉に若干、くじけそうになったが相手は高齢のご老体ということもありあまり強くは言えない。
硬貨を3枚ほど払い、木の串にささった香ばしい焼き魚を頭からほうばった。
口の中に、適度な塩味と川魚独特の身の甘さが広がる。
「うまいな」
「そりゃそうさ。
今朝釣ってきたものだからねぇ」
「なるほど。それはおいしいに決まっているな。
そういえば、大通りの方が騒がしいが今日は何かお祭りでもあるのか?」
ここに来るまで、様々な職種や人種、年齢層の人間があちらこちらで騒いでいたりしていたのを見ている。実際どんな祭りをやっているかは事前に調査済み。
あえて素知らぬ風におばちゃんに聞く。
露天のおばちゃんは、目を丸くし、
「おや、お嬢ちゃんはこの国の人じゃなかったのかい」
「?いや旅人だが……どうしてそう思ったんだ?」
別におかしな服装は――。
顔を下の方に向けて服装を見る。
帝国エインフィリム――首都アバランティアの気温は高い。
ということもあり、情報収集をする前にいくらか服を購入しそれを着ていた。
具体的にいうと袖と裾と胸元にシフォンがついた黒のワンピース(長さは膝にかからない程度)に、
快適な温度に保ってくれる魔法品である黒のパンスト。
頭には日差しから保護するために麦わら帽子などを被っている。当然造花がついているものだ。
(……あれ?
かなりお仕事忘れているような格好してないか、自分)
女性にと変わってからか、以前であればとらない行動をとるようになっていることに最近気づくことが多々ある。
精神が肉体に影響を受けているのか、食生活や、服装1つにとってしても"女性"であることを自然に思っている自分が普通になっているのだ。
常人であればそのことに怖さを感じたりするものだが、
ウィナは「まあ、別に死ぬわけでもないし」ということであまり気にしないでいた。
(うーん。このままだといつのまにか、言葉つかいとかもそうなっていくのかね)
男であった自分が消えていくというか、溶け込んでいくそんな感覚に多少抵抗はあるが。
(死ぬわけじゃないし、まあいいか)
究極的な思考放棄の言葉を胸中でつぶやくことで、その議題はここまでとした。
「おばちゃんの言いたいことがわかったよ」
「似合ってとるよ。
エインフィリムに昔から住んでおったようじゃ」
「それは光栄……なのかな?」
「どうじゃろう。しかし旅人だったのかぇ。そうじゃったならこのお祭りはわからんくて当然じゃの」
「お祭り?」
「そうじゃよ。
年に一度の闘技大会じゃ」
「闘技大会か。通りで強そうなヤツを見かけたりすると思ったけど、そういうことか」
「腕に覚えのあるものを国内外問わず集めて、頂点を争わせるのが闘技大会じゃ。
闘技といっても、知恵の方もあるんじゃのう」
「へえー知恵。
チェスとか将棋とかでも指すのか?」
「お嬢ちゃんの言うちぇすとかしょうぎとかはわからんのぅ。
やる競技は"陣取り"というものじゃよ」
「どんなものなんだ?」
「簡単じゃよ。
駒1つ1つに意味がこめられておって、それをうまい具合に配置し、動かし、相手の旗を取れば勝ちじゃ」
(将棋っぽいな。
どっちかっていえば軍人将棋とかに近いか――ってそっちはやったことがないからわからんが)
「へえー、面白そうだ。ちなみに闘いにしても知恵の勝負にしても勝ったら何がもらえるんだ?」
「優勝者には女王陛下より王城へ働く権利が得られるの」
「実力主義国家なんだな」
とウィナが口にすると、露天のおばちゃんは渋い顔で、
「そうともいえんの」
「?どうして?
これだけの規模の催しものだ。優勝する人間がマグレということもないんじゃないのか?」
「いや、今はええ。
この闘技大会が始まったのは、今の女王陛下になってからでの。
それまでは貴族なんぞわけのわからん連中が、この国の政をしておったのじゃが……」
「かんばしくなかったっていうことか。
とすると、その女王陛下様とやらがクーデターでも起こしたのか?」
ウィナの疑問に老女は首を縦に振る。
思わずウィナは口笛を吹く。
もっとも老女の話が全て聞いたことがなかった――というわけではない。
一応前日から用意をしていたので、帝国の風習や政治といった最低限の知識は頭の中に入っている。
その中で、現在王を名乗っているのが女性であること。
それに幾つもの斬新な政策を行っていて、以前と比べて格段と帝国内の民衆が豊かになっている――。
などといったことは知っていた。
実際、露天に限らず民の顔を見てもそれなりに生活ができていることがよくわかる。
今の女王が即位する前は、軍事に見事に傾倒していて自国はもちろん、他国への戦争も行っていたらしい。
そんな旧政権を打倒したのが現政権とまでは記述されていた。
「すごい女王様なんだな」
「うむ。
……じゃが、最近よくない噂を聞くのじゃ」
ぴくんと思わず動くウィナの耳。
「良くない噂?」
「今の女王陛下を面白くなく思うとる連中が、女王を亡き者にしようと企てているという話がおる……」
「それは……きな臭いな」
「わしらは普通の生活がしたいだけじゃ。
なぜ争いを繰り返さねばならんのかのぅ」
目を細める老女に、ウィナは「……そうだな」とつぶやきを返した。