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お城へようこそっ!!

翌朝中央図書館の調査の結果を報告しにウィナは1人王城へと脚を運んでいた。


「……大きいな」

いわゆる典型的なお城というイメージ通りのそれがそこにはあった。

白亜の巨大な建築物。

その外観の中で、もっとも装飾やら何やらと豪華な作りをしている南門の前まで来ると、

門番に歩みを止められた。

「失礼ですが、身分を示すものをご掲示願えないでしょうか?」

言葉は丁寧だが、門を閉鎖するような大きいハルバードが、無言の威圧をこちらに与えてくる。

ウィナは胸元から硬質な素材で作られたカードを提示した。

「!はっ、失礼いたしました。

中へどうぞ」



「中も広いし……。

せめて案内板とか用意してくれてもいいんじゃなかろーか」

シルヴァニア城の中は、今人気がほとんどない。

なぜなら王権を持つ3人組が、特別休暇を兵士に与えたかららしい。

そのため、今王宮内には分母が少ない王室近衛兵団という事実上トップクラスの猛者達によって、警戒されている。


一見、人気がなくセキュリティが甘く見えるかも知れないが、あちらこちらに監視の魔法や、道具がしかけられているため

何かあればすぐ捕縛されてしまうのだ。

それはあくまでセキュリティ上での話。

人気がほとんどない=部屋を聞く相手すら捕まえることができない状態なのが現在進行形で続いている。


「統括騎士団長の部屋なんかわからんぞ……」

眉を寄せ困った表情であっちこっち言っていると、


「あら、迷子?」

と女性の声がウィナを呼び止める。


「ん?」

呼ばれた方を振り向くと、そこには長い黒髪を風に遊ばせる"彼女"がいた。

「あら、貴女は」

「――ウィナ・ルーシュ。

此度、貴女の加護を受けることになった者です」

一応、軽く一礼し、丁寧な言葉遣いで自己紹介する。

しかし、

その対応に何故か"彼女"――ミーディ・エイムワードは爆笑だった。


「あはははははっ。今更敬語なんて使わなくてもいいわ。

似合わない、似合わない」

目尻に浮かぶ涙を指先でからめとりながら、笑う彼女。

ウィナはややぶすっとした表情で、

「悪かったな。

俺もヘンだとは思っていた」

「そうそう。元男の子なんだから、無理にしなくてもいいのよ。

でも可愛いわね。さすがわたしってところかしら」

じろじろとこっちの容姿を眺める。

「うんうん。紫の目もいいわねー。容姿もかなり上等だし、男の子にモテモテでしょ」

「……残念だが、心は男なんで生涯男と仲むつまじく――なんてことはならないぞ」

「あら、それは残念。

それで、どうしたの?こんなところに」

不思議そうに聞いてくる彼女に、ウィナは事情を説明した。


「なるほどね。

帝国のせい、か。

それならちょっと対策を考えないとマズいわね。

統括騎士団長は――今の時間はあそこね」

肘に手をあて、あごに手を置き、考えているポーズのミーディ。

「いいわ。来なさい。わたしが案内してあげる」

言うやいなや、彼女はさっさときびす返して歩き始める。

ウィナは肩をすくめ、彼女の後を追った。



「騎士団長の仕事は忙しい?」

「それなり。

集団で事を行う分、1人でやるよりは簡単な事が多いか」

「へえ。

ええっと貴女達の騎士団名、【ドキっ女だらけの花園騎士団】だったっけ?

このままだと正式名になっちゃうけどいいの?」

「是非とも勘弁して欲しいな」

「なら、早く名前を考えて出しなさいよ。

こっちもいろいろ決済しないといけない書類が多いんだから」

「……なら仮でも登録させるな」

「知らないわよ。

いつのまにか、登録されていたのよ。おかしいわね……。

その話をしたら、ヘラのやつ大笑いしていたし――そういえば、貴女のところの人員はあれ以上増やすつもりはないの?」

「確か、5人だったか。

いや増やさないっていうわけじゃなく、単に入団してくれる人間がいないだけだ」

「そう、もしも決めたいって思っているならわたしの名前を使ってくれてもいいわよ」

「恐れ多くて使えない」

「そんな大した名前じゃないんだけどね」

ふっと自嘲気味な笑みを浮かべるミーディ。

「部屋はまだ着かないのか?」

「もうすぐよ。

あいつじゃないやつが統括騎士団なら、ここまでやってくることはなかったんだけど、」

「……そういえば、統括騎士団長と実際会ったことないんだが、どんなヤツなんだ?」

「一言でいえば、変人。誰も推薦していないのにいつのまにか統括騎士団長の位にいた子よ」

「変人か。

俺達の上に立つ人間が変人か……」

「実力があればそのあたりはささいなことだとわたしは考えているわ」

「ささいなこと……ね」

ウィナはいまいち同意ができなかったが。


「ここよ」

そうしてやってきたのが1つの部屋。

「物置?」

「そう。仕分けができないものを一括管理している部屋よ。

ここの管理者もやっているの。その子」

彼女は、ノックをしてドアを開ける。

中に入ると、ひんやりとした空気が漂う。

「……冷気?」

外の空気よりも5度くらい低い室温が保たれているのだが、何故かはわからない。

それ以外は、棚が規則正しく整列していて、様々なものが陳列していた。

「アリステイルー!!いるかしら?」

「はい。なんですか?」

とひょこっと棚の影から現れたのは、赤髪ポニーの女の子……っ。

「って、待ってくれ」

めまいを覚える。

2、3度まばたきをして虚空を見つめ、頭を何度か振る。

(おしっ)

もう一度、出てきた少女を見る。

自分よりも背が高く、猛獣のような危ない輝きを持つ朱の瞳。

手には何故か槍を持ち、どうやらそこから冷気が漏れているようだ。

そして、その表情はいつもほとんど見ているような顔で――

「おまえかっ!?」

「その台詞は白髪のおじいちゃんが親友へ言った言葉だねー」

あっさりとこちらの言葉にツッコミを入れるこの少女は、間違い無くリティ――。

「リティ・A・シルヴァンスタインではないわよ」

とミーディが即否定する。

「は?」

さすがのウィナも頭が回らず、間抜けな声を漏らす。

「アリステイル。

悪ふざけもそこまでにしなさい」

「はいはーい。

じゃあノーマルモードで」

右手を挙げてそう言うと、彼女から強い光が放たれる。

「っ」

目をつむり、再び目を開けた後にいたのは自分よりも身長の低い少女(幼女?)。

黒よりも漆黒な髪に、ぎらぎらと輝く紅い瞳。

それがどこかで会ったような覚えにさせる。


服装は統括騎士ということもあってか、高い生地で作られたゆったりとしたもので腰には短剣が帯びてあった。

どこからどう見ても、シルヴァニア王国全ての騎士の頂点に立つものとは思えなかった。

「見てくれはこんなのだけど、優秀な子よ」

と、ミーディがフォローを入れるが、あまりフォローになっていない気がする。

「まあ、あたしの事が不服ならいつでも言ってくれるとうれしいな。

殺し合いならいつでも受けて立つよ」

「……1つ聞いていいか?」

「なにかな」

「もしかして人じゃないな?この感覚、以前シャドウレナプスに似た魔物と闘った時と似ている気がする」

ウィナの言葉にアリステイルの真ん丸な目がさらに真ん丸に見開かれる。

「!さすが、ミーディの加護をもらっているだけあってすごいね。あたしのこと初見で見破ったのは、君が初めてだよ」

手をぱちぱちと叩くアリステイル。

女王も少々驚いた顔で、

「思ったよりもやるわね。

そうよ。この子は夜の眷属【シャドウレナプス】。ただし、魔物から力と存在を分別することに成功した最初の子よ」

「……分別?」

「言うなれば、シャドウレナプスの持つ力や特性を結晶化させ、魔物という器から分離し、魔物を魔物とたらしめる本能を弱体化させることで

極めて人に近い感性を持つ存在にしたもの――というところかしら」

その説明に、何かひっかかりを覚えるウィナ。

「力を結晶化といったが、それをする必要性はあるのか?どのみち、魔物を魔物とたらしめる本能を弱体化できるなら、

わざわざ力を分離させる意味がわからないんだが」

「それは、魔物の心と力の2つが、【精神】に混ざっているためどちらかを切り離してから浄化しないと残すことができないからよ」

「そうか……」

(どこかで聞いた話だな……。

しかもつい最近――)

もやもやしていた脳裏がぱあっと晴れる。

晴れて、該当事項がなんなのかを思い出し――

ウィナは苦い表情を浮かべる。

「あらどうかした?」

「いや、思ったよりもこの部屋が寒くて少しあたったようだ」

「それはいけないね。

じゃあさっさと用件を聞きましょうか。」

アリステイルに、今までの調査結果を伝える。


「なるほど……帝国ですか。

あたしとしては傍観したいところですがそうも言ってられないかな。

……いいでしょう。

ウィナさん。君達には潜入捜査を行ってもらいます」

アリステイルの指示に、顔をしかめるウィナ。

「さすがにバックアップがないと無理だ」

「わかっています。

転送系の魔法式や道具をこちらで用意しちゃいますので、それを保険にしてください。

物資などは、別の人達を使いにいかせます」

「期間はどうする?

あそこの今の皇帝は、かなりのやり手と聞くが」

「……シインディーム・エル・ヴァナ・エインフィリム帝ですか。

こっちはあたしの方で牽制をするかな。

……それしかないし。やだなあ、戦闘狂とヤるのは疲れるよ」

といいつつも、ぎらっと輝く朱色の瞳はすでに臨戦体勢。

「とりあえず、期間は最低で1週間。最高でも1ヵ月。

それまでに何も成果がない場合は、素直に引いちゃいます。

帝国はこっちと戦争したがっていますから、余計なところをつつかれるのは困りますので」

「わかった。

俺達、騎士団は盗んだ人間の詳細や現物の追跡を。

実際取り戻すのは、【黒の狼】の連中にまかせるんだろう?」

「ええ。

彼らにやってもらっちゃいます。

当初の予定だからね。

こんなところでどうです?女王陛下」

「いいんじゃないかしら?

わたしが口をはさむまでもないでしょ?」

「そですね。

じゃあ、これで決まり。

ウィナちゃん、あとお願い」

にっこりと微笑む少女。


「……ちゃん?」

「ちなみに、あたしは君よりも数百倍長く生きてますから。当然ですよ」

なんとも納得いかなかったが、とりあえずそのことを突っ込むのはやめた。




そしてウィナが退出した後、残された2人は互いに顔を見合わせた。

「あの子が、女王陛下の?」

「そ。切り札……かしら。

切らなくてもよければその方がいいんだけど」

「……うーん。」

「なに?問題でもある?」

「……問題。

問題かなあ。

あの子、たぶん無理だと思うよ。女王陛下には」

「その心は?」

「ブレなさすぎるもん。

普通、あたしのような魔物が統括騎士団長なんていう役職にいて、それを女王が認識しているなんて知ったら大抵の人は、

心がブレるよ。

受け入れる、入れないは別として。

だって、今まで信じていた基盤が少しでも揺さぶられたんだよ?

それなのに、驚いたのは一瞬ですぐに受け入れた。

正直、異常だよ」

「さすが、元【シャドウレナプス】。人の心を覗くのは得意ね」

「女王陛下も気づいているんでしょ?」

「まあね。

けど、わたしは止まれない。

なら前へ進むしかないでしょう?」

「……吉報は祈るよ。

あたしは、今でも反対だよ。でも女王陛下達のことを否定でもできないし」

少しうつむいたアリステイルの頭にぽんとミーディの手がおかれる。

「それでいいのよ。

わたし達は、ただ走るだけ。

その道が、アリステイルとは違うだけだから」

「……道の向こうに道は続いているの?」

潤んだ瞳を向けられた彼女は、ふっと柔らかな笑みを浮かべ、その問いに答えることはしなかった――。

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