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つかの間の休憩その1

「いい天気ですね。ウィナ様」

淡いデザインのカップを口にし、その中にたゆたう焦げ茶色の液体――つまりはコーヒーをすする。


2人がいるのは中央図書館から少し離れた(といっても1キロくらい)にあるオープンテラスで、今は少し遅めの昼食にしていた。

しばらくするとウェイトレスが料理をもってやってくる。

2人の目の前には色とりどりの素材で作られたサンドイッチが一皿に芸術的に盛られている代物であった。


ちなみに料理名は【店長のちょっとお茶目なサンドイッチ達】。

なかなかパンチが効いている。


その中の1つを口にしながら(中身はスモークサーモン)、ウィナはテリアに尋ねた。

「そっちはどうだった?」

「あまり収穫はありませんでした。

強いていうなら、【生輝石】(リヴィリス)の価値がかなり高いということでしょうか」

「……そうだろうな。

どんな宝石であろうと、人の命を結晶にしたものに遠く及ばない。

――だが、この王国では【生輝石】(リヴィリス)の製造は禁じられているはずだ」

「ええ、わたしが読んだものにもそう書かれていました。

詳細は当然、記述されていません。ただ【生輝石】(リヴィリス)というものの特性や使用についての言及があったことくらいですね」

「――特性か。それはどういったことなんだ?」

「【生輝石】(リヴィリス)は、魂を結晶化したものであるために幽霊や悪霊といった身体の大部分を【精神】によって造られたもの達を呼び寄せてしまう――というものですね」

「なるほど。

確かにアレ自体は純度の高い生命力――魔力が高純度で結晶化したモノ。悪霊達はただ存在しているだけで【精神】を消耗しているわけだから、欲しがるのも

無理はないか。

しかし、実際ヤツらは強奪できても使えるのか?」

「ほとんどの幽霊や悪霊には無理のようですね。

ただまれに理性があり、無機物からもエネルギーを吸収できるものがいるみたいです」

「習性みたいなものか。一種の」

「そうですね。ウィナ様の方は?」

話ながらももふもふとサンドイッチを食べ続けているため、すでに半分の量にまで減っている。

(スモークサーモンもいいが、生ハムのも最高だな。……って味噌カツまであるのは謎だな。どうやって作ったんだ?八丁味噌なんて)


「いろいろ見たけど……これといった収穫はないな。あったといえるのは、魔法の習得とこの国の歴史くらいか」

「魔法……。それは加護の力ですか?」

「テリアには言ってなかったか。

……俺の加護神はミーディ・エイムワードつまり【闘神】なのは、すでに知っていることだろう?」

その言葉にこくりとうなずく彼女。

「最初の扉を開けた時に、いくつかの力が使用できるようになった。その中の1つに【基礎魔法習得】というのがあったんだ」

「基礎魔法ということは、現代の魔法使いが使用している【一般魔法】のことですね。ウィナ様はそれを習得したということですか?」

「そういうこと」


この世界の人間には、【魔力】が備わっている。それを内に出すか、外に出すかで【戦士系】なのか【魔法使い系】なのかで資質が分かれる。

得意不得意もあり、両方秀でているという人間は少なく、大抵はどっちか一方に傾いているのが普通である。


ウィナの場合は、加護を受ける前は戦士系。

肉体を強化したり、気配を探る精度を上げたり、剣に属性を持たせたりといった使い方をしていた。


加護を受けてからは、外側へ放つ魔力運用【魔法】の使用が可能になった。

だが、肉体が変化したこともありカンを取り戻すため、そちらの勉強はせずに以前の肉体強化系の魔法ばっかり使っていた。


ちなみにほとんど使わない状態でも大の大人はもちろん、鍛えられた戦士と同等くらいの肉体能力はある。

【基礎魔法習得】の能力を得たことで、【一般魔法】と呼ばれるものに関しては知ってしまうか、見てしまえば使えるようになっている。

なんという便利チート

わざわざ習得するための訓練などをしなくてもいいのだ。



ちなみに【一般魔法】とは、RPGなどの魔法使いが覚える初級魔法のようなものである。

「そういえば、テリアは攻撃系の魔法は使えるのか?」

「火、風、水、土の四大属性は基本少々。光はほとんどダメで、闇が基礎から応用まで幅広く使用できます」

「【月の女神】ルーミスの加護だからか。

闇の魔法には興味があるな。今度教えてもらおうかな」

「それは構いません……が、ウィナ様の加護神は【闘神】ですのに魔法を習うのですか?」

「【闘神】の名は別に戦士のような戦いをするからつけられた名前じゃないぞ。

ありとあらゆる闘い全てを制するものがゆえに、この名を贈られたそうだ。

つまり、【闘神】ミーディ・エイムワードと呼ばれる生き神は、

闘いに打ち勝つための手段は選ばずに、あらゆるものを使いこなして勝利をもぎとってきた最強の人間だということだ」

ウィナの言い放った言葉に、

ごくりとテリアは喉を鳴らす。


「恐ろしい人ですね」

「全くだ。できることなら――」

(敵にしたくはないんだが……)

その相手が自分を狙っているのは、間違いないのだ。

今のように、お茶を飲みながら話し合い――などと言う穏便な手段で決着がつけばいいのだが。


「それはないだろうしな」

すっかり冷え切ったコーヒーを口元へ運ぶ。

口内に苦みがじんわりと広がった。


「ところで、国の歴史を調べていたのは何故です?

あまりあの人々を元に戻すのに役に立つとは思わないのですが」

「そっちは趣味。

このシルヴァニア王国の情報は外部に対して情報封鎖しているからほとんど知らなかったんだ。旅人の俺は」

「わたしは生まれも育ちもシルヴァニア王国ですが、外ではそんなに知られてないのですか?」

「全然。

そうだな。大抵の村だとシルヴァニア王国の王がまずわかっていない人間が多い。3人体制なんておかしな手法を用いているのはこの国だけだから、まず統治者がわからない。

どこの国も統治者は1人だからな。なんでだいたい聞いて返ってくるのが、ミーディ・エイムワード女王陛下が統治者という返答だ」

「半分はあっていますね。」

「半分だけな」

片目を器用につぶり、ウィナはにやりと笑う。

「ひどい人だとこの国の統括騎士団長殿の名前をあげていたな。まあ、それだけ端からみていてわからない国ということさ。

さすがに中で生活していてもわからないとは思わなかったけどな」


外で聞くのとは違って、この国の民で王の名前がわからないということはない。

3人の名前―― 

【人形遣い】シルヴィス・エイムワード

【盲目の巫女】ヘラ・エイムワード

【闘神】ミーディ・エイムワード

ちゃんと解答が返ってくる。

返ってはくるが――

「3人の統括者は、表にはほとんど出ず名前と風貌くらいしか知られていない。国民にすらその生い立ちなど謎のままにしている。

はっきりいって疑ってくれと言わんばかりだ」

「しかし、ウィナ様。

本や、掲示板などで語っていられますが」

「ま、確かに本とかに書かれていることを鵜呑みにすればそうだけどな。

あいにく俺は、その本人を見ない限りはその人物の評価はしない主義なんだ」

サンドイッチも尽きてきて、近くのウェイトレスにデザートを注文する。

「謎だらけなのに、ここの国民は別に気にせず平和に過ごしている。

結局、統治者っていうのは本来そんなものなのかもしれないな」


君臨せずとも統治せず。

彼らが一体、何の目的でこの国を建てたのか。

力が欲しかったのか。

豊かな生活がしたかったのか。

それとも――


「それとも、本当のところはただ3人で暮らしたかったのかもしれないな……」

脈絡もない事をつぶやきながら、胴体の長い銀色のヤカンの注ぎ口から琥珀色の液体をカップへと注いだ。




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