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プロローグ(第2部)

ちゅんちゅんちゅん……。


雀の鳴き声が寝室に届く。

「むぅー……」

キングサイズのベッドに相も変わらず3人の寝姿があった。


1人だけ身長の低い娘に2人が左右から抱き合うようにしているその光景は、男であるならば彼女の状況をうらやむかもしれない。

だが、

当の本人はなんだか苦しげにむーむーと唸っている。

ちなみに彼女の顔は紅い髪の女性――リティ・A・シルヴァンスタインの豊かな胸によって埋まっている状態である。

これ以上抱きしめるとおそらく、真ん中の少女は窒息死の秒読みを開始しそうな勢いだ。


そしてリティの反対側。つまり別方向から少女を抱きしめている黒髪の女性は、上品にすーすーと眠っている。

が、ただ何故か少女の腕をメリハリのきいた身体の正中に置くように抱きしめているため、少女の腕は全く自分で動かすことができない。

それが原因なのか、時折、少女の綺麗な唇から「う、腕が……」とうめくような声が発せられたりしていた。


現在進行形で苦しんでいる少女の名前はウィナ・ルーシュ。

とりあえず今日の所は、平和だと言っていいだろう。




「ううっ、死ぬかと思った……」

ウィナにしてみると珍しく弱きな発言に、従者のテリア・ローゼルは少し驚いた面持ちで、

「?何か訓練で失敗でもしたのですか?」

「……訓練じゃない。

っていうか、わかっていってるよな?」

ジト目で不満を示す彼女に、テリアは首を傾げてみせる。

「あの事件の後遺症ですか?」

「あの事件――って、どの事件か見当もつかいないほどここ一ヶ月の仕事の濃さは異常だったな」

腕を組み、うんうんとうなずく姿は、彼女の胸を暖かくした。


自分の主と認めたウィナ・ルーシュ様。

姿は大変、可愛らしく。今もスカートに、ニーソックス。ピンク色のキャミソールといった格好でまとめている。

もちろん服装のコーディネイトは自分の仕事であるのは言うまでもない。

「最初の事件のことです」

「あー、あの村のヤツか」

そういう彼女の表情に、暗い影。


あの事件は、彼女なりにあまり思い出してくないものであったのだろう。

それは自分とて同じだ。

(今では普通のメイドとして暮らしていますが、ここに来るまでいろいろなことがありましたし)

走馬燈のように思い出が脳裏に浮かぶ。


その中の悪い思い出を引っ張り出し、あの事件と比較しても遜色がないくらいの内容であった。

実際、あの事件が終わった後、細かな話を聞いたグローリアは、顔を青くしてしばらく殻にこもってしまった出来事もあったりしたのだ。


「"彼女達"は救えそうなのですか?」

あの事件の被害者となった女性は、1人を除いて全員【生輝石】(リヴィリス)という宝石になってしまっている。

肉体も捜索はしたが、見つからず村の屋敷の地下から複数の白骨や、様々な生物を掛け合わせた試験管の中にその面影があるといった状態であり、

無傷な肉体どころか、五体満足な肉体は発見できなかった。



【生輝石】(リヴィリス)となってしまった生命は、すでに生命として終わっている状態。

魂を抽出、結晶化したのが【生輝石】(リヴィリス)。

そこに、生前の性格や、人格といった【精神】はない。


ゆえに【生輝石】(リヴィリス)を【肉体】へ結合できたとしても、【精神】がすでにない状態であるので、赤ん坊とまるで変わらない。

身体は大人、心は子供といった状態でしか存在できないのだ。


といってもこれはあくまでも、最善の結果である。

現在、【生輝石】(リヴィリス)から再び【魂】を【肉体】へと帰化させることは技術的に不可能と言われている。


原則として【魂】を【固定化】することは可能だが、【固定化した魂】を【元の不安定な魂】に戻すことはできない。

不可逆性の性質があるためである。



そういうことで一般的に【生輝石】(リヴィリス)は、元に戻すことはできないので王国が管理しているのだが――。

我らが主、ウィナ・ルーシュ様の場合は例外らしく、現在も手元に残したままである。

【生輝石】(リヴィリス)も。

理論上あるらしいと言われている【根源石】(テラ)も。


「何とかするために、こうして図書館に行っているんだけどな」

ため息をつきながら言う主。

「成果はかんばしくないのですね」

「ああ。

いくつか面白いものも見つけたけど。本格的な解決の糸口は無理だな」

サンドウィッチをつまみながら、主はそう言った。

「ところで、リティは?」

「リティ様は、アルバ様に呼ばれてついさっきから出かけております」

「ふぅん。あっちはあっちで行動しているっていうことか――で、何か掴んでいるのか?」

「はい……と言いたいところなのですが、どうも精霊が追うことができない手段を用いているらしく、足跡が追えません」

「さすが、正騎士団第3位【蒼の大鷹】の団長、元副団長だな」

と、感心しながらコーヒーをすする主――ウィナ様。

「あちっ」といって舌を可愛らしくだす姿にMOEを感じます。

「グローリアは?」

「グローリアさんは、最近忙しかったので今は帰郷しています。一応休暇届けも出ています」

預かった休暇願をウィナ様に差し出す。

「ふぅん。

……まあいろいろキツかったから仕方ないかもな」

その物言いには、辞めてしまっても仕方ないかもしれない――そんな言葉があるように思えました。


「彼女はこれくらいでへこたれるものではないと思います」

自分の言葉に、目を丸くするウィナ様。

「根拠を聞いていいか?」

「はい。

それは女のカンです」

「女のカン……か。

それならそうかもな」

そう言い、にやりとウィナ様は可愛らしい唇の端をつり上げ。

「女としての経験の浅い俺にその境地は、未だ未踏だがな」

そんなことを言ったのでした。




朝食を食べ終わった後、ウィナとテリアは屋敷を後に図書館へ向かうことにした。


騎士団に入団することになって一ヶ月。

未だ騎士団の名前は決まったおらず、暫定的に【ドキっ女だらけの花園騎士団】というふざけた名前で仮登録をしている。

(というか、リティの考えたこの名前が、あっさりと仮でも登録できること自体七不思議だな)


あの事件――研究者(ただし、頭にマッドがつく)ジルダを中心にして起きた通称【アルカムの惨劇】。

騎士団としては、最悪なスタートを迎えることになってしまったあの事件の爪痕は、グローリアに心の傷を負わせるのに十分であった。


間接的に詳細を聞いた後の彼女は、死人のように顔を青ざめさせ人間がそんなことをすることを信じられなかったようだであった。

無理もない。

このシルヴァニア王国自体は、割と治安もいいし胸が悪くような事件もそれほどあるわけではない国だ。


まあそれほど――というからには少しはあるわけだが、その辺りはどうやら王国の政策で情報規正をしているようだ。

無理に知らせなくてもいいだろうということらしい。

だから、市民の中にはこういう人間の闇をさらけ出す事件のことが少なからず起きていることについて知らない人がほとんどだ。

そういう理由で、グローリアがショックを受けたのも無理からぬ話。

実際、準騎士団から騎士団へと入団した新人が、そういう世界の闇に触れショックで退職するということが意外に多かったりする。


(最悪、グローリアの退団は頭に入れて置かないとダメ……か)

「なかなか、思うようにはいかないもんだな……本当」

ぼそりとテリアに聞かれることなく愚痴をこぼした。




「じゃあ、俺は魔法関係と錬金術関係の本を探して見るから」

「はい。わたしは宝石関係を当たってみます」

図書館につき、ウィナ達は早速資料をあさることにした。


このシルヴァニア王国には東西南北に図書館が存在する。

ウィナ達が来ているのは、その4つの図書館ではなく中央にある中央図書館と呼ばれるところだ。

ここは、禁帯出本が数多くあり閲覧にも制限がかけられていたりとかなり重要度の高い本が集まっている。

ちなみに広さは、学校の体育館の軽く5倍。

それが1階の広さで、地上2階、地下3階の計5階によって成り立っている。


ウィナ達は、騎士団に属しているため秘匿クラスの上から2番目までの資料は手続き次第で読むことは可能であった。

「ええっと、これとこれとこれで――いいか」

4、5冊ほど抜き取り、閲覧コーナーの方へ足を進める。


古びてはいるが調度のしっかりとした木製テーブルに、椅子がコーナーにはあり、研究者や学生っぽい人々がそれぞれ目的のまま本を読んでいた。

「空いているところは――」

角の一角に空き席を発見し座る。

そして早速、本を開いた。

【シルヴァニア王国建国に至るまで】【【加護】の特性研究について】【初級魔法から高級魔法の使用法】【禁術研究】【輝石の研究論文】


【シルヴァニア王国建国に至るまで】

降神年歴2010年。

旧アスカード遺跡が発掘される。

考古学者レイ・フォルテス博士の論文【ヨーツテルン大陸誕生】の仮説が正しいことが証明された。

博士によると、世界は何度も滅びを迎えているらしい。

現在で6度目の世界であるとアルヴァナ族の神具【時を刻むもの】によって明らかになっているが、そもそもこの神具がいつの時代からそこに

あるものかすらあいまいであるため、論拠の証拠にはなり得ないと言われていた。


そのアルヴァナ族によって造られた最初の遺跡がアスカード遺跡と言われている。


現在アルヴァナ族は、古くから存在する古代アルヴァナ族と現在生存している神聖アルヴァナ族の2つに分かれている。

もともと1つの部族であったアルヴァナ族が2つに分かれたのは、

彼らが崇める【預言書】(ヴィムアーク)が、あるときから2冊に分かれてしまったことが要因にあるらしい。


このことを学者達は、おそらく部族間の争いで部族が消滅することを恐れた族長が秘密裏に【預言書】(ヴィムアーク)の写本を造り、

人為的いに2つに分断したというのが、現在もっとも支持されている仮説である。


【預言書】(ヴィムアーク)に記述されている内容は大きく2つに分かれている。

古代アルヴァナ族の持つ【預言書】(ヴィムアーク)には、【過去の世界についての記述】表題【過ぎ去りし時の記憶】

神聖アルヴァナ族の持つ【預言書】(ヴィムアーク)には、【未来の世界についての記述】表題【果ての先にある記憶】


【過去の世界についての記述】については、言わずもがなである。

問題となっているのは【未来の世界についての記述】である。


未来を予知する預言書であると考えられていたが、アルヴァナ族の言葉を解読に成功した学者の話によると、あまりにも詳細に書かれていることに驚愕したという。

その記述されている内容は、まるでその現場にいて見てきたことを書いているようであった――。


そのため、未来ではなく過去を示すものではないかと考えた学者もいたのだが、

【預言書】(ヴィムアーク)2冊のタイトルを、解読された法則で読むとどうしても上記のような表題になるという。


そしてさらにその書かれている内容が未来であるならば、預言書でなければおかしい。

しかし、まるで一致する事柄は存在せず、文明も全く違うものとして書かれていた。


このようなことから、解読が間違っていると考える学者と、預言書ではなく別の何かを記した暗号書物であると考える学者に分かれ今も論争の決着がつくことはない。


ただ1つ事実としてあるのは、

古代アルヴァナ族の持つ【預言書】(ヴィムアーク)に、はっきりとシルヴァニア王国を建国した3人の人物が描かれていたということである――



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