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第25話 影にうごめくもの

辺りはすでに闇が堕ち、人気の全くないこの村に更なる静寂は降りる。


家々の明かりはなく、家の中でも一際大きな屋敷にも明かりがついている様子がなかった。

静かな夜であった。


ごとり。

しかし、静けさの中何か物音がした。

それは屋敷の方。


あまりに小さな音であるため、屋敷内にも響くことはなく誰にも聞こえることのない音。

音の発生地点は、この屋敷の主の部屋であった。


「やれやれ。いったか」

机の下から出てきたのは男。


黒髪、黒目。中肉中背のどこにでもいそうな男である。

ただ白衣や、眼鏡といったものをしているため、研究者というふうにも見える。

男は、周囲の惨状を見て、ため息をつく。


「全くもってやってくれる。

根こそぎ持っていかれたか。研究も一からやり直しだな」

月明かりが部屋の窓を通して入り込むせいか、明かりがなくとも視界がゼロになることはない。

男は無造作に部屋の中央にまで足を運ぶと、

「【記録陣】展開」

呪を紡ぐ。

足下を中心に蒼い軌跡を描き、魔方陣が描かれる。

男は、まぶたを降ろしじっとしていた。

瞑想をしているように。

そして、数分が過ぎ魔方陣もまた起動停止すると、さらに眉間にしわを寄せ。

「まさか、【闘神】の加護を受けた人間がいるとは……。

なら【人形】程度では相手にならないわけだ」

じろりとかって1つの実験成果があった試験管の方を見る。

「"彼女"も持っていかれたか。

どうするつもりかね。精神はすでにもうない。【根源石】(テラ)にある魂と、肉体は残っているが……。

生前のニィナ・レディベールはどうやってもよみがえることはない」

なのに何故そんな無駄なことをするのか?

彼は首をひねる。

「……まあいい。

資料は全て持っていかれたが、すでに頭の中に入っている。また最初から実験を始めればいい」

そう、彼は今回の事に決着をつけ次の行動を起こそうとした。


――その時。

「残念ですが、そういうわけにはいかないんですよー」

間延びした声とともに、胸――心臓に灼熱感を覚える。

「なっ」

喉の奥からこみ上げてきたものを吐けば、それは紅く液体。

振り向くと、月の光によって怪しく光る紅い双眸がそこにはあった。


「き、貴様……っ!!」

「禍根は断つのがもっとーなので、すみませんがさっさと死んじゃってくださいね-」

ぱきぱきぱきと音がしたかと思うと、吐く息が白く視覚化する。

「き、貴様は騎士団……では、……なかったのか……」

その言葉が男の最後であった。



男は、心臓に槍が突き刺さった場所から凍り付き、ついには氷像となって月明かりの中蒼い光は放つ。

物言わぬ彫像となった男を彼女は、少し申し訳なさげに。

「騎士団であれば法で貴方を裁くのですが、

今の私は、騎士団ではないんですよねー」

すみませんと一礼し、

「じゃあ、来世では普通に生きてくださいねー。【砕けて】」

その言葉とともに、氷像と化した男は千塵に砕け散り、部屋の中にきらきらと氷雪となった結晶が舞う。



「終わったか?」

「はい。終わりました【隊長】」

彼女が後ろを振り返ると、扉に背中を預けこっちを見ている青年がいた。


特徴らしい特徴はなく、どこにでもいそうな若者のようであった。

強いて言えば、腰に差しているのが刀に近い武器【長包丁】というものであり、前髪を上げていることくらいか。

「相変わらず、隊長、オデコ広いですね-」

「ああ?

三枚おろしにされたいのか?あほ娘」

「あほ娘言わないでくださいよー。」

「おまえなんてあほ娘以外なんて言えばいいかわからん。

そもそも、明日の仕込みの邪魔をするヤツなんてあほ娘でいいだろ?というかだな、オレは忙しいんだ。

毎日おまえみたいにヒマじゃない」

「だったら、なんで来たんですか?今回はエリーゼがサポートに来るっていう話でしたよ?」

その言葉に、男は苦虫をかみしめたような表情で、

「アイツがな、「お兄ちゃん。エリーゼ、新しい着ぐるみ屋さんができたから遊びに行くね」なんて置き手紙を残していったからだっ!!こんちくしょうっ!!」

「えー、それわたしのせいじゃないじゃないですかー」

「逆ギレの何が悪い」

「開き直りましたね、隊長……。ところでこの後どうします?」

「帰って、明日の開店の準備」

「若さがないですよー、隊長」

「隊長言うな。

オレはおまえ達の隊長になった覚えないし」

「何言ってるんですかー。

【真実の目】の長じゃないですか」

「あ・れ・はくじ引きで負けた結果だっ!!」

「でも、くじ引きで、長を決めようっていったのは隊長ですよ」

「っく、あれはオレの一生一大の大ポカだった……」

くやしげに拳を握る男に、彼女は首をかしげ、

「そもそも隊長って、そんなことばっかりですよね――って何でもないです」

うらみがましそうにこっちを見てきたので、彼女はあっさり展開を切り返した。


「ったく、時間を無駄にした。

さっさと帰って仕込みを始めんと明日の開店が間に合わなくなる。いくぞ」

「はい。あまり遅くなるとウィナさんが心配することですし」

そう言って2人は闇の中へと消えた。



残ったのは、月光のカーテンが降りる、本当に無人となった村だけだった――。


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