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第22話 其れは慟哭の叫び

実験室の様相を表している部屋に2人は対峙している。


1人は黒いローブに黒いフードと言った見るからに魔法使いという格好の男。

今は、呼吸が乱れ手に持つ杖が小刻みに震えている。


もう一人は、黒い艶のある長髪をなびかせ、紫の双眸はただまっすぐに男を見据えている。

そしてもう1人。


冒険者といった格好をした男は、そんな2人の様子を眺めていた。

2人の戦いの決着が、己のこれからを占う――そんな予感が。




先に動いたのは、黒髪の少女――ウィナ。

肩に武器を携えながら、一息に相手との間合いを詰めると袈裟斬りに刀を振るう。


――が。

「【鏡面分身ミラージュレイ】」

斬ったはずの男が、鏡を割ったかのような音をたててあっさりと砕け散る。

「この私が、何もそなえていなかったとでも思ったかね」

嘲笑する男。聞こえた方を向けば、先ほどまで大きな本棚があったところに彼はいた。

本棚はおそらく幻術だったのだろう。

男の隣には、ひときわ大きな試験管があった。

その容器の中に裸の女性が浮いている。

長い黒髪に、均整のとれた身体。瞳は閉じているもののその姿はどこかで見た覚えがある――


「ニィナっ!!!」

ガイラルの胸に響くような悲鳴。


「ふふふ、ガイラル君。君の大事な恋人は私にとっては、最高の素材だった。

感謝しているよ」

「ジルダっ、貴様っ!!!」

いきり立つガイラルに対し、ウィナは冷静にジルダに問いただした。

「――で、彼女をどうするつもりだ?」

「どうするもこうするもない。彼女はすでに私の研究の成果の一つになっている。これからその成果を君たちに見せてあげよう」

そう言い、ジルダは呪文を口にする。


「【接続リンク】」


それが起動鍵となって、彼女の裸体が大きく揺れる。

「ニィナっ!」


そして――。

「ふぅうううううっ、これが加護の力か……」

さっきまでとは比べものにならないほどの威圧感が男から発せられる。

それは錯覚ではなく、実際対峙しているウィナの肌にぴりぴりとした魔力の高まりが感じられた。

しかし、だからといって彼女は、表情に変化はなく。

強いていうならば、目が爛々と輝いているといったところだろうか。

肩をぽんぽんと刀の腹で叩きながら、

「なるほど。

それがおまえの研究の成果、か」

大して感慨もなく、あっさりと言うウィナに対してジルダは胸を張り、まるで演説をするかのように高らかに説明を始めた。

「そうだ。

【加護】とは、極端に言ってしまえば、下位存在である我々に対して、上位存在である【神】が干渉すること他ならない。

上位存在には、下位存在である我々はあらがうことはできないのは研究でわかっていた。

我々に対するマイナス要素もまた、上位存在の干渉力と下位存在との干渉を抵抗する力の拮抗によって生まれるもの。

ならば、

上位存在に当たるものに意識がなく、思考もできない状態で【加護】を下位存在に与えるとどうなるのか――」

にいっと唇をゆがませ、ジルダは答えた。

「【吸収】だ。

下位と上位の転換により、上位存在の力、能力、技術様々なものの恩恵を全て受け取ることができるのだ。

マイナス要素などなしにだ」

勝利をまるで疑っていない男の目に、ウィナは少しばかり伏せた。

緊張や恐怖ではない。

言うならば呆れであろう。

しかし、ジルダの台詞で気になったところもあったので、立会人の立場にいるガイラルに問いた。


「ガイラル。

ニィナは人間じゃないのか?」

男の話は、あくまでも【神】と呼ばれる存在に対しての理論である。

それならば、人間であるはずのガイラルの恋人の加護を受けたところで、今の力など発揮できるわけもないし、そもそもシステムとして【人】から【人】への

【加護】は聞いたことがない。

ウィナのその疑問にガイラルは力なく首を振った。

「ニィナは間違い無く人間だ」


「――ということだが?」


「ははははっ、確かに彼女――ニィナ・レディベールは人間だ。【神】の位に上がったものでもない。

そうだ。君の思うとおり【人】であるなら――下位存在であるなら、下位存在への【加護】は、私の研究上でも不可能だった。ならば彼女を【神】の位へと

昇格できるようにしてしまえばいい。

さいわい、人が【神】の位に上がるための具体的な方法は、ある方に教わっていた。それによれば魂の総量をある一定量集めればいいと。ならば答えは簡単だ――」

そういい、男は虚空に手を伸ばす。

と、何もないはずの空間から大人のこぶし大くらいの穴が空いたかと思うとそこから何かがこぼれ落ちた。

時空間を操作する魔法は、確か上位魔法に位置している。

が少しばかり違和感を覚えた。

「……宝石――いや、まさか」

確定しようとし、しかしあることに気づき、ウィナの表情は硬直した。

「まさか、おまえ――」


男の手の中にあるのはクリスタルのように透明な輝きの石。

その名は【生輝石リヴィリス】。

別名、魂の原石と言われていて【人形】の核の材料になったり、悪魔や天使と呼ばれるものの心臓にあたるものでもある。

この宝石の入手方法は旅をしていたときに聞いたことがある。

その内容が正しければ、この宝石は――


「そうだ。

この【生輝石リヴィリス】の材料は魔力。

しかし、ただの魔力ではない。

ある種の強い原始的な感情を持ち得た状態の存在から、特定の手段で収集できるものだ」

「貴様っ……」

歯を噛みしめるガイラル。

彼も知っていたのか、それとも推察できたのか。


この村に来たときからおかしいと思っていた。

何故、女子供がいないのか。

その時は、どこかに拘束されていて、そのせいで村の男達がジルダの言うことを聞いていると思ったが――。

どうやら事実は、予想のななめ上をいくというのは本当らしい。


彼女の紫の双眸が一際輝きを増す。

「原始的な感情とは、負の感情のこと。

そして特定の手段とは、相手を殺すこと。

もうわかっただろう?

この村の女、子供に絶望を与え殺す。それによって生まれたのだ、この【生輝石】(リヴィリス)は」


「貴様あああああああああっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!」

ガイラルの叫びが、屋敷中に響いた――。


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