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第20話 みっしょん『結界の基点を破壊せよ』

「ウィナさん……大丈夫でしょうか」

と、グローリアがふと足を止めて聞いてくる。

「あー、心配無用だろ。

あいつはそう簡単に死ぬような玉じゃないぞ」

隊長が後ろから彼女の杞憂を否定する。

(まあ、グロちゃんは純粋みたいだから心配するのは当然かなー)

ウィナさんと会ってまだ数日。

だけど、彼女が常人とくらべてどこかおかしいとそう思い始めたのは割と早かった。


考えてみればである。

いきなり女性になったのにも関わらず、平然としすぎているのはおかしい。

確かに、暴れたり、嬢ちゃんと言われることが腹を立つなど抵抗はしているものの、ほとんど女性化してしまったことすら受け入れている気がするのだ。


ただ単に環境に適応する力が強すぎるのか、

それとも別に何か理由があるのか。


(わたしはたぶん、後者の方な気がしますね)

ウィナさん自身は嘘をついている気はしない。

だからウィナさんすら知らない何かが、ウィナさんの行動を不思議にさせているのかも。

全て推測の域をでないけど。


まだ心配そうな表情を見せているグローリアにリティは微笑みながら、

「大丈夫ですよ。

ウィナさんは強いですから」

「ええ、ウィナ様はそう誰かに負けることはないと思います」

テリアも自分の意見に同意する。

「ほらほらテリアさんも言っていますし。

今、わたし達にできることをしましょうよ。

早く終わらせればそれだけ、ウィナさんを助けることにつながりますし」

「……はい。

そうですね」

きっと目に力が入るグローリア。

これでもう大丈夫だろう。


一度だけ、後ろを振り返る。

さっきまで捕まっていた屋敷が、リティの朱の双眸に写りこむ。

「……頑張ってください。

ウィナさん」


その言葉が、本当に彼女のためを思っての言葉なのかはリティ・A・シルヴァンスタインにしかわからないことだった――。




その頃、ウィナは牢獄の中からは抜けだし結界の基点を探していた。

「監視が結構いる、か」

「ジルダは神経質だからだろう」

そう後ろにいるガイラルが言ってくる。

「その割には、牢屋には監視系の魔法はかけていなかったな。ぬけているのか、油断しているのか」

「ヤツはどちらかと言えば、研究に没頭するタイプだ。

あまり無駄なことに時間をかけたくないと言っていた」

「無駄ね……。

ガイラルはどれくらい信用されていたんだ?」

背を向けたまま、尋ねるリティに彼は眉を寄せ、

「……おそらく人質をとっているから反抗はしないと思っているはずだ」

「そうか。

ところでおまえの大事な人は今どうなっている?」

「彼女は、すでにいない」

「――死んだということか?」

ウィナが後ろを振り返ると、ガイラルはうなだれた様子で話を続けた。

「元の"彼女"には戻らないだけだ」

「元の……つまり心を壊された、か」

「……消されたんだ。

魂を白紙にするために。純粋な魂に若い女性の肉体が欲しいと、ヤツは言っていた」

ぎりっとガイラルの歯を食いしばる音が耳に響く。

(……だいたい、何をしようとしているか読めてきたな……。だが、本当にそれができるのかどうかは専門外の俺にはわからん話だ)

ここに、テリアやリティがいれば、想定しうる事の実現の可能性を聞けたのだが。


(どっちにしてもやることは変わらないがな)

ジルダを見つけ出し、生き地獄を合わせて殺す。

そうでもしないとガイラルの気がすまないし、自分の気もすまない。


だが、

(……それだけでは終わらない、か。たぶん)

なんだかイヤな予感する。

そう考えながら、気がつくと歩く速度を上げている自分に気づいた。

(やれやれ、身体は正直なのかね)

「どうした?」

いつのまにか、男は顔を上げていてこちらを見てくる。

「いいや、何でもない。

――少しスピードを上げて基点を壊しに行くぞ」

ガイラルにそう言い、ウィナは艶やかな黒髪をなびかせて廊下を走り始めた。




「リティさん、こっちです」

森の中、声を上げるグローリア。

彼女の方に寄っていくと、そこには六角型の透明な水晶のようなものが地面に突き刺さっていた。

「これ――みたいですねー。というか、グロさんの方が詳しいと思いますよ?」

「……むぅ。

いつになったら名前をちゃんと呼んでくれるんですか?リティさん」

「ちゃんと呼んでいますよー。

ただ省略してだけですし」

「だから、その省略をやめて欲しいって言っているんですっ!!」

肩を怒らせるグローリア。

「おーい。

じゃれあってないで早く壊してくれ~。

こっちもいつまでも持たんぞ」

桑や、斧を持った村人達を相手にしている隊長が催促の声をかけてくる。

2人は互いに顔を見合わせ、

「――結界の基点を破るには、基点が保有している力以上の力をぶつけることで破壊することが可能です。

ただ……」

「その基点が作動してから日数が立っていると、大気に満ちる魔力を吸収して自身の身体をコーティングしてしまいます」

と、グローリアの説明の後をテリアが付け足した。

いつものメイド服と比べて、肌の露出が多いのは、屋敷の中から強奪したものであるため仕方がない。

全員、牢屋に入れられるとき装備を取られた。

そのとき、何故かテリアとウィナだけは服装もはぎ取られてしまったのだ。

しかもメイド服は外に出る前に軽く探したが見つからなかったので諦めた。

(おそらく、メイド好きな人でもいたのでしょう)

少々、腹が立つが仕方がない。


「はい、テリアさんの言う通りです。

だからより強い力で砕かないと……」

「そう考えると、ウィナさんのあの刀が欲しかったかな」

「そうですね。ですがリティ様なら問題ないと思いますが?」

試すようなテリアの口調に、リティはにやっと笑う。

「あんまり人のこと、調べない方がいいですよ~テリアさん。

ほら良くいうじゃないですか。余計なことに首を突っ込むと――」

刹那、リティの手が光る。

「っがっ!?」

と同時に男の叫び声。

はっとテリアが、突き出された槍の先を見ると村の男の首中央に深々と突き刺さっていた。

そう、男は彼女の後ろから殺そうとしていたのだろう。

それをリティが看過し、無造作な一撃で刺突した。

ただそれだけのこと。


だが、テリアは戦慄した。

なぜなら、彼女がいつ攻撃したのか全くわからなかったのだ。

(……すさまじいですね……。

ウィナ様が一番警戒しているだけのことはあります)

ひょうひょうとした態度とは違い、その本質は捕食者。

殺すことに何の感慨もない。


テリアは彼女の認識を改めることを心で誓った。

「り、リティさん……」

若干、顔を青ざめたグローリアにリティは胸元で手をふりながら、

「ごめんなさい。ちょっと怖がらせてかも」

言って水晶に向きなおり、

「でも仕事はちゃんとしますので、それで許してくださいねー」

そして、無音で水晶を突き、

「【連鎖】して、そして【爆ぜて】」

その言葉がキーワードだったのか。


水晶はパリンと音を立てて砕け散り――

その音が森の至るところから聞こえてきた。


「まさか……同時に破壊したんですか?」

「その方が簡単ですし」

涼しい顔で言うリティに、グローリアは目を丸くした。


基本的に、魔法も身体もそうだが遠い所へ当てるのと、近いところに当てるとでは近いところの方が威力は大きくなる。


そして結界の基点である水晶体は、それだけでも大の大人が斧を振り回してちょっとしたひびしかできないほどの強度がある。

今回の水晶の強度は一流の冒険者、もしくは騎士であれば破壊できるシロモノ。

それだけでも、一流の証拠になる。


だが、彼女はそれを壊しただけではなく全ての基点を破壊した。

それが、魔法の力なのか、特殊な能力なのかはわからない。


彼女は加護持ちではないことを考えると、魔法しか考えられないが――。


(仮に遠当てでも非常識。魔法だったとしても、拡散する魔法……地系、風系が考えられますが――)

地系であれば、威力に限り距離は関係ない。

地面から、土を隆起させて相手を貫くのも、地震を起こすのも大地に立っているものには高威力が期待できる。

しかし、対象に直撃するかどうかは術者の目の見える範囲に限られる。

目測できればほぼ100パーセント直撃が可能。

できなければとたんに精度が悪くなってしまう。


風系も同様で直撃よりも複数回で仕留めるといった傾向が強いためやはり難易度が高い。


できないことはないのかもしれない。

――でもそれができるということは、人の最高位に位置する力の持ち主だと認めることである。


(恐ろしいですね……本当に)

その牙がこっちに向けられないことを祈るしか今はできそうになかった。




「結界が解けたな」

空を見上げたアルバの声がやけに大きく辺りに響いた。






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