表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/128

第17話 フィッシュされた男

明朝。

ウィナ達は、西門前でアルバを待っていた。

「お、やっと来たか……遅いぞ、おっさん」

騎士の衣装ではなく、冒険者のようなラフな格好でアルバは現れた。

「悪い、悪い。ちょっと用事がいろいろあってな」

「……まあ、おっさんが何をしようが構わないが――」

じろじろとアルバの姿を見るウィナ。

「騎士甲冑を身につけてこなかったのは、身分を隠すためか?」

「さすがに、隊長職の勲章なんてついていたら襲われないからなー」

「まあ、そうだな。じゃあ行くか」

うなずき、中央都市ピティウムから出発した。



シルヴァニア王国から帝都までの交易路はいくつもある。

今回事件が多発しているのは、【アセラン街道】だ。

交易路ごとに、起伏が激しい地形、魔物が多い地形、整備されているところなどあるが、

【アセラン街道】は安全性は4つの街道の中で3番目に位置しているものの、帝都までの距離が1番短い。

そのため、急ぎの商隊や旅人は護衛を雇ったりしてこの街道を使うことが多い。


そんな中で起きた今回の事件は、すでにシルヴァニア王国内でも広まっているらしく、

それに懸念した女王が直接【蒼の大鷹】に調査指示を出したらしい。


物流が途絶えてしまうということは、生きていくための食料など必要なものが届かなくなるということ。

そのまま放っておけば、民の不満を集め、強いては暴動、さらに発展して国の存続すら危ぶまれることになる。

そういうことで、こういう場合は迅速な活動が為政者には求められる。


「さすが、女王陛下か」

前を歩きながらウィナはつぶやく。

その物言いに若干、皮肉がまざっていたが。

ちなみに今、ウィナ達は隊列を組みながら歩いている。


一番先頭で歩いているのはウィナ。

次にリティ。

その後ろに2人並列して歩いているのは、グローリアに、テリア。

最後尾にはアルバがいる。


「目的地まではあとどのくらいなんでしょうか?」

やや緊張気味のグローリアに、アルバは落ち着いた様子で、

「あともう少しっていうところだよ、お嬢さん

何もなかったらそのまま東にある村があるから、そこで宿泊予定かな」

「捕まるまで帰れないってことか?」

「一応、限度はあるけどねえ。少なくても2、3日は泊まり込みになる」

「……準備はしてきたからいいけどな」

「しかし、わたし達だけがいる状態で彼らは現れるのですか?アルバ様」

「本当なら、商隊と一緒にこれれば一番いいんだがなー。」

あごにつかみながら、渋面で、

「おびえちゃって全然ダメだったのさ。

騎士団のネームバリューも案外たいしたことないんだよ」

「というか、おっさんが信頼できないだけじゃないのか?」

「そう、いじめるなよ、おまえさん。

俺達はそれなりに騎士団の中でも成績優秀な方なんだぞ。……まあそれと同じくらいどこぞの誰かのせいで悪評もそれなりだがね」

「どこぞの誰か、ね」

「ふぇ?なんですか?ウィナさん」

口に先ほど行商から買ったウィンナーをほおばって答えるリティ。

「に、任務中ですよ、リティさん」

グローリアはびくびくしながらも彼女に注意をする。

「ん?グロちゃんも欲しいの?」

「っ、違いますっ!!ってわたしの名前はグローリアですからっ!!」

相変わらず、この2人は仲がいい。

ウィナはテリアの方を向き、

「――周囲の様子は?」

「今のところ、何もいないですね」

テリアには、エルを先行させて周囲の情報を集めてもらっている。

ウィナと同じく加護持ちのテリアの能力。

【創造―精霊】は、今の彼女の能力だと各属性1体ずつらしい。

しかも同時具現化はできない。

複数具現化できれば、もっと精度の高い情報収集ができるのだが、それでも人工とはいえ【精霊】を使役できるのは意味がある。

彼らは人と違って疲れない。

半永久的に活動できる永久機関が身体に埋め込まれているため、ずっと動いていても疲労を感じないのだ。

「このまま何も起こらない可能性は少ないだろう。

相手が魔力を狙っているなら、これほど大きなエサはないからな」

「では太陽が隠れるころに……?」

「来そうな気はする。

その辺は、実際に遭遇しないとわからないが」

そうして、警戒をしながら歩いていた時。

前方から何かがやってくるのが見えた。


「……なんだ?」

全員が武器を構える。

「追われています……?」

グローリアの言う通り騎士だろう若い男が魔物――イノシシを5倍くらい大きくした獣に襲われていた。

「ありゃあ、デリボアだな。この先の森に生息している魔物だ」

「デリボア?」

「気性の荒く、縄張り意識の高い森の魔物です。ウィナ様。どう致しますか?」

「とりあえず、助ける。話は後で聞こう」

言って、ウィナ達は駆け出す。

「グローリアとテリアは男を保護してくれ。

リティと俺であのでかいのを仕留める。おっさんは周囲の警戒をよろしく」

「働かなくてもいいのは楽だが、大丈夫か?」

「あれくらいなら、問題ないだろ。行くぞ、リティ」

「了解ですー」

ウィナとリティは、エモノを片手に駆け出す。

デリボアはこっちの動きに気づき、獣特有のおたけびをあげる。

「ひっ」とグローリアがびくつくのを見えたが、テリアは気にせず弓を構えそして――

ひゅっと風を切る音とともに見事ベアの足下に突き刺す。

「ひゅごぉぉっ!!」

悲鳴を上げるデリボア。

その隙に、2人が男を戦闘区域から逃したのを確認し、リティにアイコンタクトを取る。

理解は一瞬。

ウィナは、そのままデリボアの目に目がけて愛刀を投擲した。

「ぐおおんっ!!!」

位置は若干下よりだったが、これで完全に足を止めた。

ウィナはデリボアへ向かっていき、背を向ける。

同時に、リティがウィナの方へ走ってきて、彼女の手に足をかけるとウィナはリティを空中へとあげた。

一瞬にしてデリボアの巨体の遙か上に到達すると、

彼女は手に持つ槍を真下に構えて、自由落下とともに一気に頭へ突き刺したっ!!

それがとどめの一撃となる。

断末魔の声をあげ、デリボアの巨体は大きく揺れ横倒しに倒れ大地を揺らしたのだった。




「手際がいいねぇ。おまえさん達」

「もちろんですよー。相思相愛なんですから」

リティは槍をブンと振って、血痕を飛ばす。

「リティの妄想は今更だが、男は?」

アルバは「ほれ」とあごで指す先には、グローリアが男に治癒魔法をかけているところだった。

どうやら男は気絶しているよう。

「ずいぶんとやられたみたいだな」

顔をしかめ、男の様子を見る。

「んー。刃物傷がありますね~。デリボアだけじゃなさそうですよ。ウィナさん」

「方角は、帝都の方ですが……」

「何かに巻き込まれたか……、それとも――」

ふーと一息つくと、ウィナは、

「怪我人がいることだし、おっさんの言っていた村に行こう」

「あ~仕方がないな」

気の乗らない声を上げるアルバ。

「何か気になることでもあるのか?」

「長引けば長引くほど、俺の書類仕事が増えるんだよ、これが」

大きく肩を落とすアルバに、ぽんと肩を叩き、

「それはご愁傷様。

だが、給料泥棒と言われるよりはマシだろ?」

「きついねえ、嬢ちゃんは」

たははと苦笑いを浮かべるアルバであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ