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第14話 準騎士団の訓練所にようこそ


準騎士団の訓練所にようこそ

ウィナ達は、準騎士団員が訓練している養成学校にやってきていた。

「へえ、女性も結構いるんだな」

建物は古くなっているものの、歴史を感じさせる趣がある。

外にある訓練場は、でこぼこしていたり、森があったりとかなり広く、バリエーションも豊富である。

場内の割と平らな土地で筋力トレーニングや、剣術の訓練など行っていた。

その中で10代、20代といった女性も、普通に男性達と混ざって訓練をしている。

特に男性と比べて苦しそうとかはなく、適度に汗をかいているようだ。

それでも気になるので、一応付き添いの者にウィナは聞いてみた。

「体力的に問題とかはないのか?」

「確かに男性の方が筋力や瞬発力には優れていますが、

女性は先天的に魔法の才覚に恵まれていることが多いですので、そのあたりでは全く問題はないですね」

と答えてくれる広報担当。

準騎士団員は、騎士の卵達が日夜訓練に明け暮れているところである。

騎士の補充や、騎士団の新規設立などのさいには、優秀な人間は卒業を待たずに引き抜きがあったりする。

広報の部署はそういう来客に対応するために設立させたポストだそうだ。


ちなみに、

【魔法】とは、魔力を使って為す技法・技術の総称である。

魔法の無い世界の住人のイメージでは、魔法使いが、火を生み出すことを魔法というが、

戦士が剣を振るった時に、衝撃波がでることを魔法とは言わない。


戦士は魔力はなく、使っているのは気だとか、闘気だとか言っていたりする。

巫女でもそうだ。彼女達は、霊力、神力といって魔力とは別物という考えをする。


しかし。

少なくてもこの大陸において、魔力とは誰でも持っているものであり、

訓練すれば魔法とは誰でも使えるものなのである。


戦士や剣士は、魔法を放つのではなく切れ味や、必殺剣、身体能力向上といったやり方に特化していく。

そのため、魔法使いのような長い呪文詠唱とは違い、短い魔法詠唱や集中でできる使い方をしている。


逆に魔法使いは、誰かに守られて魔法を放つというポジションにいるため、戦士達のような対人、対物といった効果ではなく、

対軍。対国といったより範囲の大きな魔法を放たなければいけない。

さいわい時間は掛けられるため、より大きく干渉し魔力をためられるため強大な魔法になる使い方をする。


もちろん、例外はあり――戦士なのに、魔法使いのような魔法の使い方をするものもいれば、魔法使いなのに戦士のような魔法の使い方をするものもいる。

ゆえに魔法とはただの道具にしかすぎない。

だから準騎士団員である彼女達は、身体を魔力で覆い身体能力の底上げをしながら訓練に挑んでいるのだろう。


「さて誰にしようか」

訓練を見学しながらウィナは本題に入る。

「誰にしますか?」

「あの……なぜわたしもここにいるのでしょうか?」

不思議そうな顔をしているのは、メイド服のままいるテリア。

ウィナは、テリアに近寄り耳元で、

「狙われているのは、俺だけじゃないかもしれない。だから今後もテリアは俺と一緒にいてもらう」

「……っ。かしこまりました。ウィナ様」

「――ちなみに、帰るところがあるとかある?」

「いえ、それは問題ありません」

「……もしも会いたい人がいるとか、やりたいことがあるとかあるなら融通は利かせるつもりだ。そのへんは遠慮しないでくれ」

「重ね重ねありがとうございます。」

そうして、彼女から離れるとリティが唇をとがらせて、

「二人で密談ですか?」

「おまえもよくやっているだろ?」

「なんのことやらです」

あさっての方を向くリティ。

どうもこいつはこいつで、何か動いているようだが。

(敵にならないなら、問題ない。なれば戦う。それだけだしな)

異世界ここで5年間、冒険者みたいなことをして過ごした経験は、ウィナを限りなくドライ思考にしていた。

といっても切り替えができることなので問題があるわけではないが。

ウィナ達が雑談をしていると、広報の人が話掛けてきた。

「お目当ての方は見つかりましたか?」

「いや、なかなか難しいな。

それに人数もいるから、なおさらだ。……ちなみにここには何人いるんだ?」

「そうですね。一期生では200人ほどでしょうか。二期生になると100人。三期生になると30人ほどになります」

「ずいぶんと減るんだな。

それは訓練が厳しすぎて脱落していくのか、それとも何か試験があって落ちていくのか?」

「両方ですね。ただ試験の方で脱落していく者の方が多いですね」

「試験はどんな内容なんだ?」

「くじびきによって選んだミッションの遂行ですね。

内容は人助けから、魔物退治まで様々です」

「つまり、戦闘が得意な人間が必ずしも魔物退治といってものに当たらず、その力を発揮できないから――ということか?」

「はい。そういうことになります」

「狸だな」

半眼で広報を見る。

「どういうことですか?」

「何のことはない。

そのクジっていうのは、意図して当たるように作られたということだろう?」

「さて、私としましてはそこまでのことは……」

「別に否定はしないさ。

いい方法だ。

あえて苦手なものを選ばせることによって、自身の苦手が浮き彫りになり、訓練生はそれを克服しようと努力する。

その努力と、一定の結果が出た時点で、試験が合格できるような内容のものにする。

そうすることである一定ラインを超えた普通の騎士が誕生する――」

両手をあげ、

「誰が考えたかはわからないが、一定の戦力が常に欲しい騎士団には的確な選択だ」

広報の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。

「なら、方針は決まった」

「?どうするんですか?ウィナさん」

「今のところ試験にもっとも落ちている人を教えてくれ」



そうしてリストアップしたのは5人。

今、ウィナ達は庁舎の空き部屋を借りて会議をしていた。

「全員一応女性ですね」

テリアが空中に浮き出た画面を見ながらそうつぶやく。

先ほど広報の人に、公開しても構わない各人の個人情報のデータをもらってリティのパソコン――【辞典】(エンサイクロペディア)で閲覧しているところだ。

「一応、全員人間種族らしいですね……情報だけみると」

「だな。まあ、画像を見ると種族一発でわかるんだが……」

耳が長いのとか、耳が長いのとか、耳が長いのとか。

「彼女はエルフですね。

聖都フィーリアに多く住んでいるとされていますが……」

「国交封鎖とかしているわけじゃないですので、そういうこともありますね-」

と、リティ。

「俺達の戦闘スタイルだと、前衛1人、後衛1人か」

「中間は?」

「おまえだろ?一応手先が器用みたいだし」

「むむっ。なんだか中途半端な気がします」

「なら俺の前で人間盾にでもなって――」

「つつしんでご遠慮いたします」

「早いな」

リティとバカな漫才をやっていながらも、ぽちぽちと画面の中の人物は変わっていく。

「テリアは誰がいい?」

「わたしは……、この人がいいですね」

言ってテリアが選択したのは、短い髪の少女。


「グローリア。職業として神官を目指しつつ何故か準騎士団に入団したおっちょこちょい……って大丈夫か?」

「彼女の大気魔力吸収力の高さと、治癒術の高さが気になります。

魔物との戦いで腕を無くした人の腕を再生したこともあるみたいですし」

「確かに、回復役は……いないよな?」

「わたし、そもそも怪我とか病気とかあまりしないのでわからないんですよー」

「……まあ、おまえはな」

「ヒドっ、なんですかその反応っ。さもわたしが自動再生能力があるようなバケモノみたいなだって」

「誰もそこまで言っていないし。

それよりリティは、誰がいいのかとかあるのか?」

「わたしですか?わたしはですね……」

言って、画面を切り替える。

と一人の女性が写る。

「?シャクティ・ルフラン……って、なんか全部不詳になっていたヤツか?」

騎士団の前組織である準騎士団であるため、それなりに身辺調査もある。

だが、このシャクティ・ルフランという女性は、年齢から何から何まで不詳と、見るからに怪しい。

そもそもどうしてここに入れたのかも不明だ。

「なんで、ここの連中は彼女を怪しまないんだ?」

「たぶん、幻術使いですよー。この子。それかそういう力を持つ神様の加護を持っているか」

「加護持ちか。

それならわかるな。……しかし、いくら加護持ちだったとしても他の連中に気づかせないなんてできるのか?」

加護持ちイコール最強!?みたいな展開はいくらなんでもないはずだ。

現に、【闘神】の加護を持つ自分と同等かそれ以上の力を持つものがいたのだから。

リティは、こめかみに指をぐりぐりあてながら、

「あ~、身体能力がずば抜けて高いとか、直接的に闘うものには騎士団員は強いんですよー。

ただそういう補助系というか、陰湿系の魔法関係はいまいちなんですよね」

「おいおい、じゃあもしこの国に危ない加護を持つ人間がやってきたらどうするんだ?」

「それは問題ないです。

明確な相手は、ヘラ様の【陣】に補足されますから」

「【陣】?」

「あ、そういえばウィナさんは国外から来たから知らないですよねー。

このシルヴァニア王国全域に張られている【封鎖結界】と付随して【陣】というヘラ様の警戒網が張り巡らされているんです」

「それも魔法なのか?」

「魔法かどうかはわかりません。詳細は安全機密上、言えないとのことですし。

ただそういうのが張ってあって、この国に害を及ぼす者は入れませんから安心してくださいっていう話ですよ」

「……こういうのも弊害っていうのかね」

「?」

不思議そうに見つめているリティ。

(その【陣】というのが、どれだけ相手の意識をとらえられるかで変わってくるが、まあ何にしても完璧に管理主義だな。

恐ろしいことにそれに誰も気づいていないし)

精度によって変わってくるが、どっちにしても反抗の意識を持つものはわかってしまうという事実。


確かに犯罪は未然に防げるかもしれないが、自分にとって都合の悪い者を探すこともおそらくできてしまうだろう。

「……今のところは悪い話を聞かないことが救いといえば救いなのかな」

ふうと一息をつくと、ウィナはテリアとリティを見回して、

「じゃあ、とりあえずこの2人を面接してみようか。ただムリして決めることとのないように」

「そうですね。長いおつきあいになられる方々ですから、ちゃんと見極めないといけませんね」

「ですねー。

うまくいけば今日、明日にでも決まりそうですね~」


のんきにリティは言うが、こういうときに限ってうまくはいかないのである。

少なくともウィナはそう考えていた。



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