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決着の鐘は鳴り響く

【闘神姫】

後の世に謳われる二つ名を持つ彼女、ウィナ・ルーシュの剣撃を手で受け止めながら彼は考えていた。

【闘神】と呼ばれた存在であるミーディ・エイムワードとの差異を。

姫と名がつくように、彼女自身はどう思っているかはわからないがその動きは美麗である。

滑らかにして、鋭く、迷いなく何もこちらが対処をしなければあっさりと絶命させるだけの剣技。

剣の舞と言ったところか。

そして、

「ふっ!!」

鋭い呼気ともに、繰り出された必殺の太刀。

しかしそれは誘い。

シルヴィスの背面から生まれた氷の槍が彼を串刺しにしようと放たれる。

だが彼はマントの一振りで払い捨て、その勢いのまま手刀を真横に放つ。

「!」

ウィナの身体に触れることはないソレをウィナは、刀の腹で受け止めるように後方へ飛ぶ。

キィンと鳴る金属音。

シルヴィスの手刀が当たっていないにも関わらず、ソレは確実にウィナの身体を狙ってきた。

瞬時に彼女は悟る。

「糸――いやこれは」

「糸ではないな。

残念だが、そう簡単にタネがわれるほど簡単な手品じゃない」

その言葉通りに、シルヴィスは少し離れたところにいたグローリアとリティへとやはり手刀を振る。

同時に後方へと吹き飛ばされる彼女達。

「魔力……じゃないな。

それなら感知ができるはず」

リティの方へ視線をやると、彼女もまたシルヴィスの攻撃が何かを探っていた。

「ですね。

魔力の動きはありません。

だからそれ以外の力でしょう」

「でも、魔力以外の力って……」

この世界の人は、魔力を全員多かれ少なかれ持っている。

そしてそれを魔法として活用し、生活の基盤としているため、魔力の流れに敏感だ。

その最上級に位置するリティですら、魔力の流れを感じることができない。

つまり、シルヴィスの使っている不可視の力は魔法ではないということだ。

「戦いの最中の考え事は命をとられるぞ――」

シルヴィスの警告。

ともにぞわっと総毛立つ身体。

ウィナ達は一斉に飛び上がる。

同時に何かがウィナ達のいた空間をはしる。

それは不可視であり、音すらもしない。

だが、彼女達の感覚は命をおびやかす何かが放たれたということを理解させた。

「っち」

戦いにおいて間合いは何よりも重要。

その間合いすらわからない状態であれば、不利なのはこちら。

ウィナは瞬時に理想となる結果シュミレーションをし、体現する。

「リティっ」

名前を呼ぶ。

一瞬の視線の交差。

それだけで互いに何をするべきか、確認し行動を開始する。


「火神司る星【火星マーズ】、塵、芥のこさず灰燼と化す一撃を我に――【惑星魔法・火星プラネットマジック・マーズ】――術式変化カタラクト

ぼっ、ぼっ、ぼっとリティの周囲に浮かぶ幾つもの炎球。

一見すれば、それは一般魔法や、上位魔法にある炎を生み出す魔法に類似している。

しかし、彼女の使う魔法は惑星魔法。

天体という星を司る力のものが、人が使う火と同じ威力なわけがない。

「GO!」

リティの命令とともに、無数の炎球がシルヴィスへ放たれる。

そして、結果を見届けずすぐにリティは詠唱を開始する。


「天神司る星【天王星ウラヌス】、頂より降り注ぐ選別の光を我に――【惑星魔法・天王星プラネットマジック・ウラヌス】」

シルヴィスの頭上に光り輝く魔法陣が展開される。

「!」

瞬時にこちらの意図を読んだのか、シルヴィスは大きく後方へ下がろうとし――

ざざざざっ!!!

何か這うような音が、彼の耳元に届いたかと思うとシルヴィスの足は動かなくなる。

「これは――束縛魔法か」

視線の先には、こちらの視界に入らないように動いていたグローリア・ハウンティーゼが右手をこちらに向けていた。

手のひらの先に小さな魔法陣が展開され、そこから鎖が顕在し自身の足を縛っていたのに気づくシルヴィス。


「まずは、その不可思議な能力を暴露させてもらうぞ、シルヴィス・エイムワード!」

ウィナは吠え、赤錆の魔刀を斜に構え、魔力を収集する。

収集される大気魔力の密度が濃くなるにつれて、本来不可視である魔力が、実体化する。

色は白。

雲のような、しかしあまりに現実味のないソレはウィナの刀身に絡みつき紅い刀身の色が白く塗り替えられていく。


「!」

目を見開くシルヴィス。

だが、すぐさまウィナへ攻撃を転じる。

不可視な何かが、ウィナへと迫る。


ウィナは、動揺せず意識を引き絞る――。

不可視な攻撃は、そのまま直撃してしまえばこちらの命を終わらせるに余りある威力を秘めている。

それは直感だった。

だが、その攻撃がこちらに当たるよりもこっちの攻撃の方が早くシルヴィスに直撃する。

ならばとまどう理由など――ない。


「貫け――【光幕天誅殺】!!」

周囲の魔力を吸収し、それをエネルギーへと変換し、目標を貫く白い巨光はシルヴィスへの回避すら許さず、飲み込んだ。


技の特性上、防御障壁などの魔法もエネルギー源へと変換するため防御は不可能。

技を回避するには、物理的に回避するしか他ない。

しかし、シルヴィスには障壁を張るような魔力の流れは見えない。

直撃。

妨害された様子もなく、衝撃による白煙が漂う。

ウィナの長い黒髪が舞う。

シルヴィスからの攻撃はウィナの技によって飲み込まれたのか、こちらには達しなかった。

「……やったんでしょうか」

この旅でずいぶんと殺伐としてきたのか、グローリアの言葉。

「これで終わるなら、"王"の名前を名乗るにはふさわしくありませんねー」

「――だろうな」

突然、白煙が切り裂かれる。

やはり無傷。

シルヴィス・エイムワードは何ら傷はなく、そこにいた。

一つ違うと言えば、彼の周りに浮かぶ生命体。

翠色の髪と目を持ち、翼をはやし、幾何学的な文様の服に身を包んだ少女がいた。

「なるほど……人形か」

「ボクから見ると、貴女達も人形みたいなものだよね」

「シルフ」

「はーい。余計なことは言わないよ」

目を閉じ、わかってると少女はいい、シルヴィスの後ろへと下がる。

「なるほどー。それが十二神将ですか」

「本物とは違うが、その1人だ」

「……そうか。

不可視の攻撃は、シルフの力か」

ほとんど断定しての問いをシルヴィスは首肯し肯定した。

「人形遣い(ドールマスター)は、ただ人形を作り支配するものではない。

疑似生命を創り、世界基盤の上でも生命体として認めさせ、基盤に干渉する(インターフェイス)ことが真骨頂。」

空中に魔法陣が走る。

幾重もの魔法陣が展開され、人形が召喚される。


火を司る存在――

大地を司る存在――

水を司る存在――

戦場を翔る戦乙女――

戦局を見守る軍師――

虚空から顕現せし存在――

道を示す存在――

あらゆるものの根幹を持つ存在――

癒しの力を持つ乙女――

あらゆる現象を支配する魔法使い――

戦いを制する力を持つ存在――


人の姿に似ているものもいれば、全く違う形をしているものもいた。

ただ言えるのはそのどれもが圧倒的な存在感をもって存在していた。

しかし、一つ妙なことがある。

圧倒的な存在感はあるものの、全ての生命がもつはずの魔力をまるで感知できないのだ。

「――魔力が感知できないのが不思議か?」

シルヴィスは言う。

「この世界の人間は、魔力を持っている。

そしてそれを引き出す魔法という力を持って生活している。

これがこの世界での常識だろう。」

しかし、と彼は続ける。

「その常識というのは、結局のところ世界基盤がそういう設定を施しているため、そのような法則が成り立つ。

ならば基盤自体に干渉し法則を改竄すれば、その定理も覆る」

「それは不可能です。

世界基盤の操作は、管理者にしか出来ないはずです。それにそのことを管理者自身、知ることができないはず」

グローリアの反論。

「その理屈であれば確かにそうだろう。

だが、世界基盤の操作ではなく概念の操作と置くとどうかな?」

「!ウィナさんの赤錆の魔刀――」

「そう。

この世界を創造した神が遺した異物が一つ――赤錆の魔刀。

正式な名は、神剣レティウス。一説にはガディアガルド皇国時代に作り出されたものと言われているが、あの時代の技術であっても概念の操作など手に余る所行。

彼らの手にあったのは本物と偽物レプリカ。」

そして、と彼はウィナの持つ赤錆の魔刀を指し、

「それは本物だ。

ウィナ・ルーシュ。

そればかりではない。」

空間から這い出る杖のようなものを手にとり、シルヴィスは言う。

「そしてこれもまた神が遺した異物が一つ――【王錫】。

概念操作が可能なものだ。神剣レティウスと違うのは、この【王錫】は生命を司る概念操作に特化しているということだろう」

「――なるほど、それで空想の生命体を創り上げたのか」

「そうだ。

もともと参考となるものはあちらに山ほどあったから、悩むことはなかったがな」

そういう理由で創られたのなら、魔力を持たない生命体を創りあげることも可能だろう。

動力源は気になるが、とウィナは心中で思った。

「さて、これでこちらの手の内はさらした。

戦いの続きをしよう」

シルヴィスの命令とともに、十二神将が一斉に動き出した。




(さて、どうする?)

ウィナは、炎やら氷やら、水やらなんやらをかわしつつ頭を働かせる。

さいわいなことにある程度距離を離して闘えば、それほど十二神将の攻撃は激しくはない。

ないといっても注意を散漫にすれば何かしらの攻撃は当たるという意味では激しいのかもしれないが。

グローリアもリティも、それぞれかわしながら最低限の防御魔法を使い、決して足を止めず動き回っていた。

この場合、足を止めるのは一番サイアクの一手。

止めてしまえば、あっという間に蜂の巣である。

今は不自然なほどに単調な攻撃しかしていないので躱せているが、これが長く続けば変化も出てくるだろうし、こちらの体力も消耗し、敗北するのは目に見えている。

動くとすれば早い段階で手を打たなければいけないのだが。

(3対13ってどれほど逆境なんだろうな。)

シルヴィスを打つのが一番早い。

だが、彼の元には幾人の人形が警戒に当たっている。

(つまり、守護役をどうにかして一太刀浴びせるということになるんだが――)

ため息をつく。

(難しいだろう)

赤錆の魔刀を持つウィナは確かに概念操作を可能にする。

が、概念操作というのは、思っている以上に制御が難しい。

要は想像し、現実化させるものなのだが――。

戦闘中に悠長に細かな想像はできないし、ちゃんと想像できないと発動してくれない。

先のミーディ・エイムワードの戦闘で何度かしくじったこともあり実体験済みだ。

そして先の戦いで、ミーディ・エイムワードの蒼輝石は自身の蒼輝石と融合している状態であるため、彼女の知識や技術がある程度は使えるものの、それを使いこなすまでにはまだ時間がかかりそうなのだ。

彼女の力を使いこなせれば、打倒は可能だと思うが、時間はない。

(――やるしか……ないか)

自身を可愛がっている状態では、手はほとんどない。

だが、自身の生命をコストとして支払えば手は以外にある。

(ミーディの遺言もあるしな。)

それゆえにウィナに撤退の二文字はなかった。



一方、リティもまた十二神将の遠距離攻撃をかわしながら、この後の展開を考えていた。

(惑星魔法を使うヒマはなさそうですね。

能力を使えば、まあ数人は戦闘不能に持っていけますけど)

【零点の統治者】

その二つ名の通り、リティには問答無用で相手を自分の領域へと誘う絶対能力がある。

この中ではいかにシルヴィスといえども容易にこちらをいなすことなどできない。

だが、それはできないとリティは考えていた。

なぜなら、この戦いは停滞している世界に対して亀裂を起こすことができるものが決着をつけなければ逆戻りとなってしまうから。

言うまでもなく、それを行えるのは現在ウィナのみ。

それゆえに決着は、彼女がつけなければいけない。

自分や、グローリアは露払いがせいぜい。

そのことについてはグローリアも理解しているのだろう、ウィナの行動を読みながら動きやすいように策を練っている。

(……そろそろウィナさんも動きだしそうだし、もう少し手をだしましょうか)

これが終局ではない。

ここから始まるのだ。

リティは、槍を構えなおし魔力を集中し始めた。



「っ」

顔をしかめながら、グローリアは光弾やら、熱線やらをかわす。

少しでも気を抜けば、確実に直撃してしまうため、必死だった。

身体能力でいえば魔術師タイプのグローリアはこの場で一番、戦闘不能になる率が高い。

エルフ種族であっても、それはなかなか覆すことができない事実だった。

この旅の中で創り上げた能力【象徴魔法印ミスティック・シンボル】がなければもっと早く戦闘離脱することになっただろう。

魔法にとって必要不可欠な詠唱を省略するための技法。

それが【象徴魔法印】。

グローリアの手の中には幾つもの記号が浮かんでおり、彼女が発動を念じるまたは口にすることで、タイムラグなしで発動する。

今までどこの魔法研究者も研究をしていた詠唱の省略を見事に実現した彼女は、歴史に名を刻む快挙であろう。

しかし準騎士団の彼女がそんな大それたことをできたのにはわけがあった。

自身に魔法を伝授した人が、骨格を創り。それを彼女が実現化した。

このことはリティ達も知らず、彼女だけの秘密だった。

(この戦いが終わったら、会いに行こう)

そう彼女は決意し、今胸の中にあるもやもやした感覚を無理矢理押さえつけた。




そして、戦局は動く――。



回避に回っていたウィナが、攻撃へと転じた。

豪腕に炎を纏わせる巨人の一撃を紙一重で避け、そのまま一歩踏み込んだ。

「!」

突然のリズムの崩れ。

今まで回避しかしてこなかった者が何の前触れもなくその行為を中止することで、十二神将の間に一瞬の齟齬が生まれた。

だがそれは一流と呼べるものでも気づくのが困難なレベルにあるにもかかわらず、ウィナはその隙を見逃さなかった。


駆ける。

十二神将の攻撃のスキマを縫うように走り抜けるっ。

しかし、ソレを許す彼らではない。すぐさま戦局を見守る軍師の号令の元に、迎撃を開始する十二神将。

王手となるのはシルヴィスへの攻撃。

それを防ぐことが彼らの大義やくめ

炎が、水が、隆起する大地が。

ウィナを仕留めるべく、放たれる。

そのどれもがウィナを完全に仕留めるであろう一撃を、ウィナはだんと大地を蹴り上げ飛び上がることで回避した。

回避したことは確かに賞賛に値する。

しかし、空へと逃げたのは悪手だ。

戦局を見守る存在は、そう判断した。

人は、空を自由自在に動くことができない。

その身に羽がないし、そのような魔法も発達していない。

それゆえ、空は牢獄。

俊敏な回避が不可能であるウィナに容赦なく十二神将の攻撃が突き刺さる。

ごふっと、やはりどうにもできず突き刺さる幾重もの攻撃に血を吐くウィナ。

空にいるにもかかわらず、落ちることはもうできないのは空を射貫くようにして突き刺さる水の槍によってだった。

四肢はすでに炭化しているところもあれば、骨が露出している状態ともなっていて完全に十二神将の勝利。


だが――。



「っ!?」

炎を纏った巨人の身体を貫く氷の槍。


「っく」

コロコロと動き回る大地を司る存在を縫い止めるような雷の槍。


「戦闘中によそ見するのは――」

「愚の骨頂です」


リティと、グローリアが何の動揺もなく十二神将へ魔法を放つ。

そのことに誰よりも速く異常を感じたのはシルヴィスだった。


「!」

「概念操作をする時間がないのなら――」

響き渡る声。

その声は、まごうことなくウィナ。

声の元は、空中で瀕死の重傷を負っているはずのウィナ・ルーシュの身体から聞こえてくる。

喉をつぶされているにも関わらず、明瞭な彼女の声。

突き刺さっている氷の槍が、存在することを否定されたかのように薄く消えていく。


「っ」

「死の間際の時間を使えばいい――!!」


「っ、散れっ!!」

戦局を見守る存在の怒声。

だが、その判断はコンマ一秒遅かった。


強制解除アンチマジック

十二神将の足元に光輝く魔法陣が顕在化し、そして一瞬にして彼らをこの空間から削除した。

「……そこまで」

シルヴィスを守るはずの十二神将たては消えた。

ウィナは、ゆっくりと空中から地面へと降りる。

その手に赤錆の魔刀はない。

「自身の身体に突き刺し、その概念を書き換えた――というわけか。

無茶をする。下手をすれば死んでいたぞ」

「そこまでしなければ、王手にはならなかった。そうは思わないか?」

ウィナは、口元からこぼれる血を手の甲で拭きながら、にやりと笑う。

ウィナの身体から、わき出る赤い光の粒子。

すでに赤錆の魔刀は、完全に内にある蒼輝石と同化した。

それにより、身体全て――いや、その服ですら【概念操作】による対象とすることが可能だ。

この技術は、ミーディ・エイムワードから汲んだもの。

彼女は、この剣を手に入れた時点で吸収を果たしている。

あの神ですらも超えかねない力を有していたのは、そのためだった。

もっともそれ以外も理由があるのだが。

「……そうだな。

そうでなければ、私を――いや俺を超えることなどできないだろう」

シルヴィスは静かにつぶやく。

ウィナは、半身になり右手を前に出し、構えをとる。

「徒手空拳……か」

「ああ。だが、一撃でも直撃すれば相手を滅することもできる」

「……」

シルヴィスは答えず、構えをとる。

奇しくもその構えは、ウィナと鏡面を前にして正反対の構えであった。


たんっ。

動いたのはウィナ。

あまりにも軽やかな踏み込み。

しかし、その一踏みの跳躍でシルヴィスの正面に出ると勢いのまま、拳を中てるようにし放つ。

「――正直すぎだっ」

何かに苛立つようにシルヴィスは舞うように躱すと、一息で大地へと腰を下ろし、そのまま足払いへの一撃へと転じた。

ウィナは跳躍することでそれを避け、空気に干渉して幾つもの短剣を生み出すとそのまま空からシルヴィスを狙い撃つ。

自身が無防備になる一瞬を避けるためだけだったが、これで牽制にもなればもうけものと考えていた。

だが、やはりシルヴィス。

手の一振りで深紅の光を生むと、強熱で昇華する短剣。

同時に大地に足がついたウィナへ、手を向ける。

「っ」

右足を踏み込み、そのまま右へと転回。

ぷしゅっと頬と太ももにはしる裂傷。

もう少し避けるのが遅ければ、肉を貫通しただろう。

「風よ集いて、閃嵐となれ【閃風殺アーツ・ガッシュ】」

ウィナとシルヴィスが同一線上にいなくなった瞬間を見計らい、グローリアの風の刃がシルヴィスへと放たれる。

「甘いっ」

一喝。

右手で薙ぐ動作を顕すと、風の刃はいともあっさり霧散し――


「ここです。リティさんっ」

「わかってるよっ。

零下アーティクル・ダウン】」


霧散したと思われた風は、周囲の空気を撹乱しシルヴィスの周囲へ弧を描くように旋回する。

そして、その弧は次第に速度を増し数秒も経たずに竜巻となしシルヴィスに襲いかかった!

「っく」

魔法の使い方では、【盲目の巫女】よりもシルヴィスは劣っている。

ゆえに発想の段階でこのような展開への予測は一歩遅れてしまった。

それこそが、彼を縛る要因となる――。


「「氷華千嵐ヒュノコーディスト!!」」

ただの風が冷気を含む風へと変化し、シルヴィスの周りの温度を急速に低下させた。

凍てつく風は、その中心にいるシルヴィスの身体をも氷結させていく。

これが普通の冷気の魔法であれば、シルヴィスの持つ抗魔力で抵抗、消滅させることもできるだろう。

しかし、リティの放った魔法【零下アーティクル・ダウン】は普通の冷気の魔法と違い、基準点を大幅にずらす、彼女の固有能力の応用で編み出された魔法。

それゆえに、ただ周囲の温度を下げる冷気の魔法と違い、通常の温度自体が低下してしまうため、これを破るには周囲の温度を随時上昇させるか、もしくは基準点をやはりずらすしか返す方法がない。

シルヴィスの十二神将がいたなら、あっさりと看過され防がれてしまうが、今はいないのでこの方法で束縛ができたのだ。

「ウィナさんっ」

グローリアの合図。

ウィナは、駆け出す。

右手に力を集中させ、そして――

「これで、目を覚ませっ!!」

「っかはっ……」

ストレート。

ウィナのこぶしは、シルヴィスの右頬に深くめり込んだ。






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