表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/128

繰り返されたモノ

――意識が混濁する。




「どうやらループにはある一定の規則があるようね」

「ああ、それこそがここから抜け出す鍵になる」



「――先がわかっていてもこういうのはしんどいわね」

「……お姉様」

「大丈夫よ、もう少し寝ていなさい」



「貴様……本当に人間か?

その在り方。むしろ我が同胞に近い」

「そうかもしれないわね。

でも、だからといってこの場から逃すつもりはないわ」

「うぬぼれるなっ、人間っ!!」



「……これで何度目か、覚えている?」

「いや、数えるのも忘れたよ」

「そう。

その割にはずいぶんと険しい顔をしているわよ」

「……」

「感傷は意味がないわよ。

自分を癒すならそれでもいいけど、貴方の場合は違うでしょ。

害した他人に対して害を与えたものにできることは何もないのよ」



「検証が終わった。

どうやらアンディーユの月にループが発生するようだ。

そして、それが最長だな」

「国の建国から数十年……か。

動くのは建国してからでいいわね」

「そうだな。

俺の想定も建国後は白紙。

そこなら動くことができそうだ。」

「あとはループの崩し方ね」

「……まだまだかかるか」




「くそっ!!

何故上手くいかないっ!!」

「――激高しても仕方ないわね。

ヘラはどう思う?」

「おそらくは、この世界にいるものに改変は出来ない――それしか考えられません」

「だとすると……詰んだというところになるわね」

「――いや、ならこの世界にいないものを呼べばいい」

「世界の外に門を開く召喚魔法は、まだないわよ」

「――ないのなら作るだけだ」




「やっぱり、世界の内側にしか開けませんね。

外へ扉を開くにはエネルギー自身も足りませんが、座標がわからなければどうにもなりません」

「……エネルギーならどうにかなる。」

「――禁術に手をかけるつもり?」

「……そうだ」

「お姉様――」

「いいわよ。

悪夢はさっさと終わらせたいのはこちらも同じ。

生け贄の選抜はこっちがやるから、あなた達は座標についてどうにかしなさい」




「何故、我らが滅ぼされなければいけないのですか」

「……」

「確かに我々は貴女たちを害そうとした。

しかし、心を入れ替え今はこうして日々を送っているわけではありませぬか。

殺すのなら私だけで十分だったでしょう。

何故身内にすらその牙を向けるのですか……っ」

「そうね。

わたしの気持ちが収まらなかった。

それだけよ」

「そんな……っ!?」

「貴方もそうだったでしょう?

害を為そうとする人間は、大抵何でもないことで害を為そうとする。

それが害を被った相手にどれほどの傷を負わせるかもわからずに」

「……」

「害を被った人間は、害を与えた人間を忘れない。

忘れようと思っても、傷つけられた傷が痛むたびに思い出す。

けど、例え害を与えた人間を物理的に消したとしてもその痛みは消えることはないわね。

だからこれからすることも意味がないことよ。

せいぜい気が少しははれる程度」

「……悪魔」

「いっておくけど、貴方がそれを言う資格はないわね。

周りにいるものには資格があるけど。それじゃあね」




「お姉様……」

「なに?」

「――どうして、ここまで」

「やられたらやり返す。

ただそれを実践しているだけよ」

「嘘ですっ!!

それなら、もう終わっているではありませんかっ!!」




「……すまない。

気づいた時には」

「……貴方が謝る必要はないわよ。

でもこれで贄ができたわね」

「……なに?」

「贄よ。

貴方は言っていたでしょう?

全ての知が存在する場所を開くには、高位の存在を生け贄とし道をつくる方法――」

「っ!馬鹿な!?

彼女は、君の妹だぞ!!?」

「貴方に言われなくても知っているわよ。

けどこのままにしておいても、ただ朽ちるのみ。

なら少しでもわたし達に益となるように使わなければ意味がないじゃない」

「…………君は――。

いや、わかった。

俺がやろう」

「頼むわね」


「…………上手くいけば、ループからあの子は逃れることができる」



「お姉様、どうしましたか?」

「……その目はどうしたの?」

「お姉様も知っていると思いますが……。

これは全ての知を手に入れたものの罪であり、罰を顕した証です」

「――なるほど、そういう"設定"なのね。」

「お姉様?」




「実験は成功だ。

少しづつなら改変が可能だし、次にある程度の事柄を継続し持ち越すことが可能だ」

「ある程度……。

つまりどの程度のことができるの?」

「俺達の経験、技術、記憶は完全に次回に引き継げる。

後は、歴史の改変に接触しない程度の準備も継承できる」

「そう。

なら後は計画を実行するのみね。

できるだけ成功確率を上げて」

「まずは、この地に世界を改変できる存在を召喚する。

そのためには膨大なエネルギーが必要だ」

「魔法で簡単に輝石化できるものを開発した方が早いわね。ヘラにやらせるわ」

「そうか、ならこっちはできるだけ召喚術式の精度を上げるように改良しておく」




「これが、わたし達の切り札?」

「ああ、まだただの情報――因子でしかないが。

当然このままでは、どうにもならないから身体を作ったり、精神を宿らせたりなどしないといけない」

「【人形遣い】の力を使って?」

「いや、おそらくそれでは世界とつながってしまいダメになるだろう。

かといって完全に切り離しをしてしまえば、この地のことに干渉すらできない」

「肉体はこちらに干渉でき、魂や精神は切り離す……ということ?」

「それができればベストだが――

上手くいくかどうか……だな。

さいわい因子は複製可能だ。

試してみるしかないな」




「何体か、試験体はできた……か。

しかし――」

「わたし達の着地点には届かないわね」

「言われずともわかっている……。

だとすると、あとは」

「――わたしを使いなさい」

「!」

「わたしは、貴方の物語では中心となる人物なんでしょ?

それなら届くかもしれないわよ」

「――確かに……いや、しかし」

「ここまできて、出来ませんでした――それは許さないわ」

「……わかっている」

「なら、進むべきはどの道か理解しているでしょう」

「……君を――使わせてもらう」

「それでいいのよ」




「……できた。

これなら先にいけるはずだ」

「?これは……因子でしょ?

幽霊にでもするつもり」

「違う。

これは例の因子を薄い外殻で包み、さらにこの世界の神の因子をいくつか混ぜ、君の因子を混ぜ合わせたものだ。

魂の基盤とも言えるだろう。

なんにせよ、これを人に埋め込むことで成熟しより強い個体へと分化することができる。」

「なるほど、器の強化ということね」

「最終的には、膨大なエネルギーを制御してもらわないと困るわけだ。

そのためにも普通の人間の肉体では無論、種族神ですら超えるものではないと扱えない。

だが――」

「それだけの素材。

種族、神が見逃さないわけがないわね。

自身の器にこれほどの一品はないし」

「そうだ。

このままでは他の神々の器として扱われ、俺達の目的が遂行されることはない。

ゆえに、この世界の理である加護を逆手にとる」

「なるほどね。

わたしを神の位へと上げ、わたしがそれを育てる――そういうことね」

「ああ。

それならば干渉を受けない」

「けど、わたしの影響を受けて計画に支障がでないの?」

「それも大丈夫だ。

精神は別の場所から持ってくる。

その精神ならば、影響は多少受けても問題なく遂行できるだろう。

間違いなく……な」




「器がそれ相応の大きさになるのは、おそらく10巡目。

これ以上は、逆にマイナスになる」

「そう、なら計画の実行はこれから10巡目ね」

「ああ、その時こそ私達――いや俺達の目的は遂行される」




そして、

彼らはついに10巡目を迎える――




長い長い物語だった。

それこそ人間が決して体験ができないであろう永劫の期間。

常人であれば当の昔に気が狂ってもおかしくないだろう年数を経ているにもかかわらず、彼らは狂わない。

いや、すでに狂ってしまっているのだろうか。




そして生み出された存在がいた。

黒い艶のある長い髪。

蒼輝石を核とする生命体の証明でもある紫の双眸。

少女と呼べる年齢にもかかわらず、その存在感は大人を圧倒しうるほど。


「――名前は?」

「ウィナ・ルーシュ。

あまり女性っぽい名前だと、途中で精神と魂に変調をおこす可能性がある」

「なるほど。

……一応、わたしの娘っていうことになるのよね」

「君の蒼輝石と、君の因子を組み込んでいるから、まあそういえなくもないな」

「――この子はわたしの願いを聞いてくれるかしらね」

「……さあな。

ただ、彼女の行動は【預言書ヴィムアーク】には記述されない。例の因子のおかげで……。だからどう転ぶかはわからない」

「それに最悪失敗したとしても――」

「ああ、始めからやり直すだけだ」

「――待つしかできないのは苦痛ね。

……苦手」

「俺――いや私もだな。

……そうだ。記憶の方に何か要望はあるか?」

「…………そうね。

娘だとしたら、もう一人の娘の記憶も入れておきましょう。」

「!彼女のことか。……意外だな、気にしていたとは」

「別にわたしは冷血漢ではないわよ。

必要なのか、そうでないのかでただ斬っているだけだから。

……それが他の人からみればそう思う要因になっているかもしれないけど、ね」

「……わかった。

彼女の記憶も入れておこう――」






こうして物語は始まりの鐘を鳴らす。

終局へと舞台は進む。

後戻りのできない道を――






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ