【盲目の巫女】ヘラ・エイムワード
一方その頃。
シア達もまた別の空間にいた。
「ここは、図書館?」
縁のない場所かしらと、シアは興味深そうに周囲を見る。
図書館。
そう彼女が表現したように、自身の背丈の倍も数倍もある棚が壁を覆い尽くすようにしてあり、その棚全てに本が鎮座していた。
それが天蓋まで同様の構造が広がっているため、まさしく本の森といっても過言ではないだろう。
「私としては、興味深いですが」
「あら、それは面白いことを聞きました」
鈴なりの美声。
しかし、アーリィにとっては忘れられない声が正面から聞こえてきた。
姉と同じく黒い髪。
漆黒の礼装――ゴシックロリータ。そう呼ばれる服装をした少女がそこにはいた。
【盲目の巫女】ヘラ・エイムワード。
視力を代償に、世界の理を手に入れた魔女の王。
「ヘラ・エイムワード……っ」
知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめていた自分に気付くアーリィ。
そんな彼の心情をはかってか、彼の半歩前に出たのは主だった。
「久しぶりかしら、ヘラ・エイムワード。」
「……ああ、まだいたのですね。死に損ないの女王」
辛辣な言葉を投げるヘラに、シアはにっこりと笑い、
「死に損ない――なら、貴女もそうじゃないのかしら?
過去にすがりつく妄執の女王」
「言ってくれますね……。」
殺気がふくれあがるヘラ。
「――もともと貴女方は、すでに役割を終えた人形。
ここで退場してもらっても構わないとお姉様もおっしゃっていましたし、全員始末してあげましょう」
「できないことをいうものじゃないと思うけど。
わたしとしても貴女を看過することができないからね」
すでに、シアは刀を抜き放っていた。
業物ではあるが、特に魔法的な何かがかかっているわけでもない金属の塊をヘラは一瞥し、
「そんなものでわたしを殺せるとでも思っているのですか?甚だ笑えますね。
以前、わたしの魔法によってハチの巣にされたのを覚えていないのですか?」
「ご託はもういいわ。
おしゃべりに来たわけじゃないから。
さっさと始めましょう?
それとも負けるのが怖いのかしら?」
「貴女だけは確実に殺します。その亡骸はカラスどもにつつかせましょう」
ヘラの右手に現れる杖。
【紫鳴刻槍(神の刻を刻むもの)】。
槍でありながら、杖でもあるそれは彼女の信頼する武器。
「それはこっちの台詞……ねっ」
シアは、ヘラに向かって駆け出した。
こちらもまた戦いの幕が上がった――。