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【闘神】ミーディ・エイムワード

本丸を目指し、城門から歩いているウィナ達であったが――

「……おかしいな。人の気配がまるでない」

歩みは止めず、ウィナは疑問を口にする。

領域探査をかけているものの、やはり人を示す記号はない。

「まるでこれでは、早く自分たちの元に来いといわんばかりですね」

アーリィもまた奇妙な静けさが漂うこの雰囲気に警戒の色をにじませる。

「罠かしら?」

「さて、どうだろうな」

ミーディ・エイムワードの望むものが何なのかは理解している。

本人が言っていたことを信用するとしたならば。

虚偽も可能性として考慮するべきだが、今回に限っていえばおそらく可能性は0に近い。

そうウィナは判断していた。

向こうもそれを望むのなら、余計な手出し、もしくは被害はできるかぎり抑えるだろう。

今の状況はまさしく符合するといえばする。

「警戒をするにこしたことはなし――です」

「テリアの言うとおりだ。

敵地になるわけだし」

「――その通りだ」

「!」

ローブにフードを被った男が、何もない空間から現れる。

「シルヴィス・エイムワード……か」

「ここでおまえ達と戦うつもりはない――」

戦場にて指揮するかのように右手を振るう。

と、ウィナ達の足元に魔法陣が生まれていた。

「!早いっ」

グローリア以上の早さの魔法展開。

「安心するがいい。

それはおまえ達の舞台へとつながる扉だ」

そうシルヴィスが告げたのが合図となり、ウィナ達はその場から姿を消した。





「ここは……」

光が収まった後、目にしたのは地平線。

辺りには何もない、荒野だけが広がる。

建物も見えないし、木々もない。

ただ、砂埃が舞うまるで西部劇にでてくるかのような光景。

「転移の魔法陣だったんでしょうか……」

やはり同じく飛ばされたグローリアが、疑問を口にする。

「転移の魔法陣ですよー。

もっとも固有能力の応用だと思いますけど」

とリティが言う。

「固有能力……確かシルヴィスの二つ名は【人形遣い】だったな」

「確かに、シルヴィス様は無機物に力を与え使役する技法の使い手ですけど、在り方は召喚術師に似てますねー。

無機物であれば、タイムラグなしで使役し、力を行使するという意味じゃあ召喚術と大差ないですし」

「つまり、召喚術のような技法での応用――送還術みたいなものか。

あらかじめマーキングした場所に送るというような」

「そんな感じですね-。」

「他の人もどこかに?」

「ええ、貴女達の仲間はヘルの方へ転移したわ」

「!」

グローリアの問いの解答は、別のところから返ってきた。

先ほどまで周囲に人影がなかったのに、彼女は最初からそこにいたかのように、荒野のど真ん中に威風堂々、存在感を主張する。

長い黒髪。

腰に差してある刀。

スリットの入った服装。

どこか旅人を思わせる格好だが、その瞳が彼女を高貴な存在へと相手に思わせる。

紫水晶アメジスト

普通の人には決して現れない瞳をした彼女は、こちらを見ていた。

「【闘神】ミーディ・エイムワード……」

「ミーディで良いわよ。

あまり二つ名、好きじゃないの」

あっけらかんと言う彼女。

まるでこれから戦う相手とは思えない様子に、グローリアは困惑を隠せない。

「……こんな舞台まで用意してくれた――ということは、やはりやるのか?」

「今更ね。

別にやりたくないならいいわよ。

それでもこの世界には大して影響はないもの。

ほとんどの人は、普通の生活をしているうちに終わっているだけだと思うしね」

ちらりとリティの方を見る、彼女。

「わかっていたけど、やっぱり貴女はそっちにつくのね」

「それこそ愚問ですよー。ミーディ様。

わたしは、【真実の目】の使徒ですから。」

「そう。

お話はもういいかしら?」

「……待ってください。

一つだけ教えていただけませんか?ミーディ様」

「なに?グローリア・ハウンティーゼ」

「この世界のことをどう思っているんですか?」

「……なるほど。

それをここで聞いてくるっていうのは、貴女は納得ができていない――ってことね」

「!」

目を見開くグローリア。

「わたしとしては、どうでもいいことよ。

この世界がどういう経緯で生まれたかなんて。」

「でも、ミーディ様はそのせいで――」

「同情――されているのかしら?

だとしたら、甚だおかしいわよ。グローリア・ハウンティーゼ」

きっぱりとグローリアの意見を否定するミーディ。

その眼差しは、鋭く相手の心すら射てしまえるほど。

「少し、話をしましょうか。

一般的に不幸と呼ばれる境遇の人間が、必ずしも自分のことを不幸せだと思っているかといえば必ずしもYESではないものよ。

だからといって幸せだ――なんてことも思っていない。

強いていうならば、渾沌。

そんなわかりやすい感情なんて持てない。

そんなに人の気持ちは明確じゃないのよ。

それを明確に、わかりやすくしているのは他人。

他人の心の安定のために、渾沌とした感情を持つ人間に感情の形を与える。

その一つが同情よ」

「そんな……」

「過去のことには、もう興味がないわ。

あのことに直接的に関わった人は、すでに生きているほうがマシな状況にあわせているし。

貴女が言うことが原因であり、それを排除したからといってわたしが生まれなかった保証はないわ。

確かにわたしは生まれなかったかもしれないけど、第2のわたしが生まれたかもしれない。

人の世にある出来事は、すべからく人の創作を超えるものよ」

そして、と彼女は告げる。

「創作を越えた存在として、貴女がここにいる」

「……」

こちらを見るミーディ。

ウィナも彼女の目を見返す。

「不思議ね。

たぶん貴女にあったら、わたしは貴女を確実に殺そうと思うと思っていたけど……意外なことに貴女のことを妹みたいに思っているのよ」

どうかしたのかしらと、ミーディは微笑む。

「頭にできの悪いがつく、か」

「そうそう。

お姉ちゃんのいうことを聞かない、困った子みたいなね」

ふふふと笑う。

「案外、わたしにヘラに、貴女。

いい三姉妹になれたかもしれないわ」

「そうだな。

そんな未来もあったかもしれない」

そういい、ウィナは赤錆の魔刀を呼ぶ。

「だが、その未来が今はない――」

「ええ、残念ながら。

そしてそれをなしえるのは貴女しかいないのよ。

【完全なるウィナ・ルーシュ】。」

「損な役回りだ。

うらまれはすれ、感謝はされない役目だ」

「ぼやきは、シルヴィスに言いなさい。

もっとも彼のことだから、覚悟はしていると思うけど」

言ってミーディは刀を抜く。

赤い刀身を持つ刀。

すでにその形態は、ウィナが至った境地――第3の形態の状態であった。

「赤錆の魔刀の力は――【概念操作】。

創造神の流した涙――神涙輝石によって造られた神剣。

使い方によっては、それこそ創造神に匹敵する力を行使できるわ」

「だが、力には反作用がある。それは赤錆の魔刀も例外じゃない」

「人に過ぎたるその力の代償は、人としての種族の放棄。つまり【神】の位へと昇格されること」

「人類の夢だがな。

不老不死というのは。ただ、それも永遠を生きる上で必要な精神の強化が絶対条件だ。

元々、永遠を生きるように人は造られていない。

その精神はもたないだろう」

「その通りよ。

精神の強化はされない。

ただ永遠を与えられただけ。

そんな人間は長く生きれば生きるほどその価値観も変容する。

そして最後には本当の意味での【神】が生まれる」

「【神】となった存在は、本当の創造神のごとく、その力を振るい世界を調律する」

「そんなものにわたしはなるつもりはないわ」

嫌悪をはっきりと顕して、彼女は言い放った。

「だから、殺せ――か」

「!」

うすうす今までの流れで気付いたのだろう、グローリアははっとした顔で女王を見る。

「わたしはわたしのものよ。

他の誰かのものじゃないわ。わたしがわたしであるために、わたしのままで殺される。

それこそがわたしの答えよ」

「そんな……自分勝手すぎますっ」

あまりに女王というには利己的な願いに、グローリアは声を荒げた。

「否定はしないわ。

この王国も、わたし達の利害が一致したがためにつくった仮初めの楽園。

楽園が永遠に続くことはない。

そうでしょう?ウィナ・ルーシュ」

「――やれやれだな」

半ば呆れつつ、彼女を見るウィナ。

しかし、その眼差しに嘲りなどは見られない。

まるで、彼女の真意はそこにないと知っているかのように。

「王とは、ただの管理者にすぎないのよ。グローリア・ハウンティーゼ。

確かに善き統治者が王となれば、王国は栄え、豊かな日々を送ることができる。

けど、それが圧政を強いるものが王になったとしても、民は王を認めない。

必ず、王に牙をむきその地位を剥奪する。

本当の統治者とは民に他ならないわ。

王はあくまでも、飾りよ。

王がいなくとも国は回る。

そこに民がいる限り」

「後顧の憂いもなし――か」

「ええ。

たった一人の英雄が、世界を変える――そんなもの幻想でしかすぎない。

一人に見えたとしても、その英雄の背後には必ず悪意と善意と思惑が交錯しているの。

わたしはそれを見たわ」

「…………」

実体験なのだろう。

ミーディがそうつぶやいた時の眼差しは、果てしなく遠くの地を見ているかのようだった。

「――お話はここまでにしましょう。

お互い時間もないでしょうし」

あっさりと言い放ち、ぶらんと抜き身の刀を構えるミーディ。

「……そうだな。

聞きたいこと、言いたいことはまだまだあるが、勝ってから聞くとしよう」

にやりと笑うウィナ。

「へえ、わたしに勝てる――と。

随分大きくでたわね。ウィナ・ルーシュ。

言っておくけど、さっきの話は、別に貴女方が勝っても負けてもかなうことよ。

だから、だまって殺されるなんてことにはならないわ」

ミーディも面白そうに笑いながら、気を発する。

「っ」

顔を歪ませるグローリア。

受け流すウィナ。

まったく動じないリティ。

「問題ないさ。【闘神】ミーディ・エイムワード」

「そう――なら、3人まとめて相手をしてあげる。

かかってきなさいっ」

決戦の火蓋が幕を上げた――。

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