"聖"なる力を扱いしもの
戦いは始まった。
きんっと甲高い音が、戦場となった城門前にて響く。
さっきまでの相手の力を探るような戦いではなく、完全に相手を殲滅するための戦いへとすでにシフトしつつあった。
袈裟切りに斬りつけるアリステイルの剣撃を、ウィナは赤錆の魔刀をもって防ぎ、すぐさまお返しといわんばかりに手首を返す。
お互いに、相手の武器破壊を狙っているせいか、強い音が響くが――
互いの武器には傷一つつかない。
つまり、武器の性能の面を言えば両者、互角であるということだ。
「やるねっ。さすがだよ。――でもっ」
一際、大きく振りかぶる剣撃。
同時に生まれる幾つもの光球。
うっすらと蒼みがかった光球は、魔法によって生まれたもの。
そしてその属性は、対抗属性のない"聖"属性――っ。
「【流れよ、灯火】」
びゅんっ。
と光の尾を軌跡として残しながら、数十の光球がウィナへと放たれた。
「ちっ」
舌打ち鳴らし、すぐさま後ろへと飛ぶ。
しかし、光球自体に誘導性能が付加されているのか、すぐに軌道を変えこちらに向かってくる。
ならば――。
これ以上、隙を見せれば彼女は追ってくる。
そう判断し、切り札の一つをめくった。
ウィナは、鞘から刀を抜き放つ。
刀身が露わになるにつれて、朱い粒子がウィナの周りを舞う。
「!」
追撃をかけようとしていたアリステイルの足が止まり、
真横に聖剣で一閃すると、さらに数十の光球が生まれる。
それを躊躇なく、ウィナへと放った。
ウィナは知らないかもしれないが、この魔法。
威力は一つで一般家屋を消し飛ばすほどの力が込められている。
防御魔法など使わなければ、一撃で粉微塵と化す。
例え神であっても、多大なダメージを与えられるシロモノであった。
空いている空間を探す方が大変なこの状況。
ウィナは回避を諦め、真一文字に刀を振るうことで対応する。
朱い粒子は、真一文字に振るわれた刀の軌跡から空中に拡散し、ウィナの目の前に朱い霧を作り出した。
ばしゅ、ばしゅ。
空気が抜けるような音をたてて、朱い粒子に触れた光球は消滅する。
"聖"属性であろうと、魔法であれば赤錆の魔刀は威力を発揮する。
それゆえに魔法使いの最大の天敵になるのだ。
その刀と扱う存在が。
光球が消滅するのを視認し、アリステイルは内心でやはりとうなった。
赤錆の魔刀の威力は、身をもって知っている。
それこそ自身に新たな道を示してくれた女王陛下――いや、ミーディ・エイムワードとのつきあいは数年などというレベルではない。
それゆえに、彼女は誰よりも赤錆の魔刀の怖さを知っている。
そして、ウィナ・ルーシュは今のところ、本来の赤錆の魔刀の力を引き出していないように見えた。
もしも、あり得ない話しだが自身の前に立つのがミーディ・エイムワードであれば、
赤錆の魔刀を使われた時点で自身の命は終わりを告げる。
"聖"の属性が使えるとか、剣術の腕が優れているとか、そういうことでどうにかできるシロモノではないのだ。
赤錆の魔刀の真価は、全てを斬ることができる――ではない。
そんな機能は、真の能力の一欠片にしかすぎない。
あれの真価は――。
思索をそこで中断する。
今は戦闘中だ。
これ以上の思考は余分。
すぐさま対応を考えなければいけない。
ならば――。
むこうが様子見、もしくはこちらの動きに対応していないうちに片をつけるのがベスト。
そう判断し、ありったけの魔力を練り上げ、"聖"属性の光球を数十、いや数百生み出す。
その数に、さすがのウィナも目を見開く。
驚かせたことに少しばかり満足し、アリステイルは命令した。
【彼の者を貫け】と。
ドドドドドッ!!!!
空気を振るわせながら、光球の大行進が始まった。
魔法を打ち消す朱い粒子であるが、粒子自体に接触しなければその効果は発揮しない。
機関銃のように連続掃射されている光球によって朱い粒子の壁に隙間が生まれる。
そこを狙って光球が集中し、ついには霧を突破したっ。
「ちっ!」
舌打ち鳴らし、後方へ飛ぶウィナ。
追撃するように空を蹂躙する光球の群団。
それを指揮するのは統括騎士団長アリステイル。
決着をつけるために、降り注ぐ光球の中、ウィナ目がけてかけだした――。