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第9話 屋敷の中は不思議がいっぱい

あれからお互いの情報や世間話をしたあと、屋敷の中を説明してもらいながら歩くことにした。


場所『ホール』

「ずいぶんと広いな」

「はい。ここでは簡単な舞踏会などの催しものができるようにと造られました。」

「へえー。じゃあ、もう何回か実際に行われたんだ?」

「……いえ。一度もおこなわれていないそうです」

「……そうか。建築家も嘆いているな」



場所『台所』

「こちらで、ウィナ様のお食事を作らせていただくことになります」

「……ちなみに誰が作るんだ?」

「――もちろん、わたしです」

「今、目をそらしただろ」

「それでは次の部屋の紹介に参ります」

「いや、話――」



場所『寝室』

「こちらは、寝室になります」

「ダブルベッドか。

といっても1人で寝るしかないな」

「お望みでしたら、わたしが添い寝を致しましょうか?」

「それもいいかもしれないな。

こんな広い館の、こんな広い寝室で1人っていうのは正直さみしいし」

「意外にウィナ様は、甘え上手と」

「待て、テリア。そのメモ――」



場所『浴場』

「お風呂ですね」

「ずいぶんと説明が簡素化してきた気がするが」

「――こちらは、主にウィナ様が専用に使用することになっていますが」

「……テリアの性格がだいたいわかってきたな。

ちなみにテリアが入るお風呂はあるのか?」

「使用人は、大きなたらいを使って水をあびる程度でございます」

「そっけないな。

それじゃあ入ったことにもならないだろ。こっちを使ってもいいんじゃないか?」

「かしこまりました。

ウィナ様とご一緒に入ることで、別の意味で気持ちが爽快、昇天するかもしれませんが、

そのときは御了承願います」

「待て。何をする気だ」



場所『客室』

「こちらは、急なお客様方にお泊まりになさっていただく部屋になります」

「客室といっても広いな」

「ええ、元々このお屋敷は女王様の隠れ家として作られたものですので――」

「お偉いさんのためにか。なるほどね」



場所『トイレ』

「こちらはおトイレにてございます」

「トイレにおをつけなくてもいいが、……この形に見覚えがあるんだが」

「こちらは王のご意見を元にシルヴァニア王国全体に普及している水洗トイレというものです」

「……待て待て待て。

なんでこんなものがここにある?」

「何でも、建国当時3賢王――【闘神】ミーディ・エイムワード様、【盲目の巫女】ヘラ・エイムワード様、【人形遣い】シルヴィス・エイムワード様のうち、

シルヴィス様がなみなみならぬ情熱をもって作られたそうです。

そのおかげといいますか、他の王国では未だ完備されていない上下水道も国土全域に整備されています」

「……【人形遣い】シルヴィス・エイムワードか。要注意人物だな」




場所『地下室』

「以前は倉庫になっていましたが、現在はワインセラーとして使用されています」

「ルマネ・コンティに、大樽のワイン……ねぇ。これもシルヴィス王か?」

「ええ、シルヴィス様は『食』と『清潔』と『衣類』に大変興味とお持ちになっているそうです」

「…………」




そうしてウィナとテリアは、一通り屋敷の中を散策し【主の部屋】にと戻ってきた。

主人の部屋ということもあって、さっきの客室よりも無駄に広い。

だが、余計な剥製やら美術品やらはなく。

年季を感じさせる机や、棚に椅子が整然と置かれており、以前住んでいた人の性格がよくわかる。

特に椅子にはウィナ自身こだわるところがあったのだが、ここの椅子は及第点をつけるに十分だった。

「いろいろとツッコミどころがある紹介だったが、屋敷の構造はよくわかった。ありがとう、テリア」

座らず、互いに立ったままで会話をする。

ウィナの感謝の言葉にテリア嬢は、いえと一言おいて、

「お仕事ですので、お気になさらずにウィナ様」

そう礼で返した。

こうしてお屋敷探索ツアーも終了し、太陽も夕刻モードに近づいている現在。

やることとしたら、持ち物の整理とか夕飯の準備などということになるのだが。

ウィナは、瞳をそらさずテリアに宣言した。

「……さて、そろそろ本題に入ろうか。」

「?」

ウィナは、そう言うと疑問を浮かべているテリアの肩をつかんだ。

少しばかり強くつかんでしまったか、テリアの眉が斜に形を変える。

「何を――」

「契約だ。テリア・ローゼル」


はっきりとした、そして明快なウィナの言葉。

しかし、その言葉は重い。


「俺は、どうにも今回の一連の出来事の収束する先に自分の命がかかってくると推測している。

現状を打開するには、人が必要だ。

率直に言おう、君が欲しい」

まるで結婚式典で花婿が花嫁に贈る誓いのフレーズのようだ。

テリア嬢もそう感じたのか、目をぱちくりさせながら頬を朱色に染め、

「場所と立場が違えば、プロポーズにもなりますね。ウィナ様」

まんざらでもないような表情をしているが、それはとりあえず頭の片隅においやっておくウィナ・ルーシュ。

「煙に巻くつもりはないし、責任をとれというなら全ての事が終わり次第、責任をとってもいい」

言いながら、なにやら致命的な事を口にしたのに気づく。

テリア嬢の頬はますます赤みがかかって、ちょっとばかり瞳がうるうるしていた気がする。

だが、それも無理矢理頭の隅の隅へと追いやった。

「情熱的なお誘いはありがたく思いますが――」

「――返答は二択だ」

テリア嬢の言葉を遮り、にやっと、ウィナは人の悪い笑みを浮かべる。

この笑いが引きつっていたらどうしようかと考えたのは秘密である。

「俺と一蓮托生で生き抜くか、それともこの場で死ぬか」

「――何故でありますか?」

いろいろと誤解を与える自身の台詞ではあるが、

そのいわんとする内容に対して、テリア嬢が疑問を投げかける。


何故、急にデッドオアアライブのような話になるのかと。


困惑を瞳にたたえたまま、テリアはこちらの意図を読むように頭を働かせていた。

さらにテリア嬢を追い詰めるかのごとく、ウィナは続けた。

「この場で殺すといったのは、俺がいまいったことを誰かにしゃべられたら困るからだ」

仕えるものが変われば、容易にその切っ先がこちらに向かうでは困るのだ。

だから、彼女――テリア嬢をこちら側にこさせる必要がある。

「そんなことは致しません」

「口ではなんとでもいえる。

現に今まで、口をつぐんだ相手にしゃべらせることをやってきた連中を何度か見たことがある」

「……現在の主は、ウィナ様です」

「それでもだ、テリア。俺はまだ死ぬ気はない。だから君の力――いや君が欲しい」

「……時間をいただけないでしょうか」

「ダメだ。今、ここで答えてくれ。じゃないと――」

キィンと甲高い音が、室内に響く。

「えっ……」

テリアの後ろに人影が生まれていた。

いや、それは人というには何かおかしい。

厚みがまったくといっていいほどないのだ。

その黒い人型の手が、寸分の狂いもなく彼女の心臓を貫こうとしていたのだ。

だが、その凶行をウィナは具現した刀で食い止めた。

正確に言えば、鞘で魔の手を払っただけだが。

この状況で、自身がどんな立場にいるのかテリア嬢は一瞬に理解し、戦闘態勢へと意識を移行する。

「これはどういう――」

「考えられるのは2つ。

俺がいることで君も一緒に巻き込まれる形で狙われたか――」

前へ一歩進み、テリアをかばうようにして対峙する。

「もしくは、君も狙われていたか、だ」


2人を紅い夕日が照らしていた。


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