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自宅に帰省

「何はともあれ、自宅は無事のようでよかったかな」

シルヴァニア王国、中央都市ピティウムの自宅に戻るなり、ウィナは息を吐く。

「罠等の設置もされていないようです」

テリアは風の人工精霊エルに周囲を探らせ、そう判断した。

一見、普通の家(貴族が住むような洋風の館)であるが、

この家には結界や、侵入者に対しての仕掛けなど施している。

制作者は、リティとテリア。

何故か普段あまり話しをしない2人が、このときばかりは嬉々として作業に没頭したのだから、

その結界や仕掛けがどれだけ非常識なのか言うまでもないだろう。

あまりに度がすぎたせいか、街の人間にも幽霊屋敷みたいなことを言われているらしいが。

そういう理由もあり、自分達が戻らなくとも侵入者は侵入できないはずである。

しかし、

至高の魔法使いが本気になれば、こんなもの消しクズのようなものではあろうが。

「結界、仕掛けとも問題ないですねー。

女王様達はやってこなかったようですよ」

リティからの報告。

「そうか。リティがそういうなら問題ないだろうな」

「問題ありません」

胸を張って答えるリティ。

「結構いいところに住んでいるのね」

腰に手をあて、シアが話かけてくる。

ウィナは彼女に振り向きながら、苦笑し、

「皮肉にも聞こえるな、それ」

「そうかしら?」

「そうですよ、陛下」

アーリィも呆れたように口をはさむ。

「そういえば、グローリアは?」

「あそこですよ、ウィナさん」

リティの指差す先にあるのは、ソファ。

そこにうとうとと横になっているのは黄金の髪をもつエルフの少女である。

「……疲れていたんですね」

「まあ……そうだろう。なんだかんだここまで強行軍だったんだ。

住み慣れた所に戻れば、緊張も解ける」

「この後はどうするつもりです?ルーシュ」

「――塔については調べたい。

だが、預言書のことも気になる。

こういう場合、分けるのが上策だが、相手が相手だ。

まとまって行動した方がいいかもしれない」

「そうね。

でもあまり意味がないかもしれないわ」

「理由は?」

「貴女の所の女王は、私の寝室までやってきたの。

つまり、」

「魔法及び、物理的トラップも意味がないってことか」

「そういうこと。

どの道、彼女達がこちらを仕留めようとするなら、私達はとっくに生きてはいないわ。

それだけの力があるもの」

やになっちゃうわね。とシアは苦笑い。

アーリィは渋面。

ウィナは腰に両手の拳をあて、

「泳がせている、か」

「そうでしょう。

私達に何かをさせたい。

だからこそ今このときも仕掛けてこないのだと思いますね」

「過去から戻ってくるというのも、予測通りということですか?アーリィ様」

「だと思いますよ。

それも全て――」

「預言書。

ヴィムアークか。」

「そうね。

古代アルヴァナ族、そして現代のアルヴァナ族の教典にて、崇め奉っている書物」

「物語の通りに進んでいる……というのはイヤなものだな」

片眉を器用に逆さにし、ウィナはつぶやく。

「それがいいって言う人もいるけど、私もごめんなさいかしら」

「楽ではありますが、私もご遠慮したいところですね」

「――お話の途中ですが、ウィナ様、食事などはいかがします?」

申し訳ございませんと、テリアが切り出す。

「……とりあえず、今はいいかな。

俺は部屋で寝ている。シア達は――」

「私達も少し、休ませてもらおうかしら。アーリィ?」

「そうですね。

今は休息が必要でしょう。私も休ませていただきますが」

「が?」

いつも以上に真顔になり、シアに。

「陛下、くれぐれも1人で出歩かないように。

後、勝手に私の寝所にもぐりこまないようにしてください」

「大丈夫。

それくらいの分別はもっているわ。

……たぶん」

たぶんだけ、極めて小さな声で言うシア。

聞こえていたのだろう、アーリィは大きく嘆息し、

「すみませんが、休む場所を案内していただけますか」

「かしこまりました。

ではツインベッドの部屋にご案内を――」

「ちょっ!!?」

「あら、いいわね♪」

珍しく動揺するアーリィに、シアはにやりとエモノを見つけた猫のように笑う。

ちなみにテリアは真顔である。

彼女は、相手をからかうときほど真顔になるのだ。

騒ぐ3人を背に、ウィナはソファで横になっているグローリアにかけるものを私室から持ってきてかけ、部屋にと戻った。




気がつくと、ウィナはあの白い空間にいた――。

「……そういえば、来いって言われていたっけな。

ミーディ・エイムワード」

「そうよ」

片手を腰にあて、彼女――長い黒髪に、紫色の双眸、そしてスリットの入った中華服のようなものに身を包んだミーディ・エイムワードが存在していた。

彼女の後ろには、"家"がある。

自身の力を封じている鍵が。

「全ての扉を開けてもらう――だったか」

「戯れ言でも何でもなく、開けてもらうわ。

もう時間もないみたいだしね」

苦笑いを浮かべる彼女。

「……一つ聞いていいか」

「何かしら?」

「一連の出来事、この中に偶然なんてものはあるのか?」

「ないわ。

全て必然よ」

そう断言するミーディ。

「つまり、俺達は誰かの引いたレールの上を歩いていてる役者ということだな」

「そう、ね。

人によっては運命なんて言葉を使ったりするけど……」

肩をすくめ、

「わたし、その言葉嫌いなのよ」

「奇遇だな。俺もだ」

にやりと笑う2人。

不思議とその笑いは似通っていた。

いや、それは当然だろう。

ウィナ・ルーシュとミーディ・エイムワード。

ウィナは彼女から加護を受けし者であり、ミーディは彼女に加護を授与せし者。

加護は、種族である神々の命綱。

神にもしもの時があれば、加護を受けたもの達はその身を神に捧げなければいけない。

それは奴隷と主人の関係に似てるようにも思える。

だが、彼女、ミーディ・エイムワードは――。

「…………一ついいかしら」

彼女からの珍しい問い。

ウィナは少しばかり驚いたものの、当然応じた。

「何だ?」

「真実を知りたくはないの?

少なくともわたしは全てを知っているわ」

アメジストの輝きが、ウィナの目の奥を射る。

ウィナは受け流すことなく、そこに込められた想いを租借し、

「……あいにく、結末のわかる物語ほど面白くないものはないと思っている人間なんだ。

だから聞かないさ。

それに」

「それに?」

「物語っていうのはナマモノだよ。

いくら作者がレールを敷き詰めて、かいがいしく援助をしたとしても予想のつかない方に

転がる。

全てが計画通りなんてあり得ないさ。

それは歴史が証明しているだろう?」

長く続く平穏も、

地獄を思わせる永遠ひびも、

前触れもなく終わってしまう。

この世界に永遠はない。

どんなに微々であろうとも変化し続けている。

その変化が、人にとって目に見えないためそこに永遠があると思うのだろう。


だからこそ、忘れてしまう。

この世界が常に滅びと生存という絶妙にバランスをとっている天秤だということを。


ウィナは最後の試練への入り口である家の玄関に手をかけ――

「シルヴィス・エイムワードに言っておいてくれ。

おまえの思っている通りの結果にはならないってな」

「――わかったわ」




自分と同じ長い艶のある黒髪の彼女は、家の中へと姿を消していった。

どうやら彼女もわかっていたようである。

ここにいる自分がミーディ・エイムワードの本体であると。


加護を授けた者は、加護を受けたものに対してサポートするような存在がつくのは事実である。

しかし、その存在は器が崩壊しないように最善の注意を払う。

器になるべく存在は、神が自らをたくしていいと考えたもの。

やすやすと壊れてしまっては困るのだ。

それゆえに、大事に育てる。

まして自分の信念のために器に無茶をさせるなどは言語道断だ。

「スパルタすぎたかしらね」

苦笑いを浮かべ、彼女は閉じられた空間の空を眺める。

白い世界。

色が無く、すべて純粋な世界であるここは、清浄な世界といっていいかもしれない。

心象世界はその人間の知り得ない本質を露出する。


彼女の持つ全てを白く塗り替える力。

それはきっと――。

ミーディは、まぶたを閉じる。

そして再び、目を開けて姿を消した。


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