下級冒険者だけど、足が速いので村を守ってます
「ひいいい!!!」
叫びながら私は逃げ出す。
後ろから追いかけてくるのは辺境にある村では珍しいオーガロードだ。
下級冒険者は勿論、ギルドで上級と呼ばれるような実力者であっても単騎での撃破には中々骨の折れる相手。
「こんな仕事するんじゃなかったあああ!!」
そんな化け物が何故こんな場所に訪れているのかなんて分からない。
だけど、依頼があった以上、私は全身全霊をかけて役目を果たすだけなんだ。
だから私はつい先ほど、アイツに効きもしないであろう毒矢を放ちヘイトを買って……今、こうして逃げている。
全力で。
怒声を挙げながらオーガロードが岩を投げつけてくる。
こっちは逃げるのに精一杯なのになんて器用なことを……!
寸でのところで身を躱し、振り返ってもう一度矢を放つ。
もう当たらなくたっていい。
大切なのは怒りを買うことだ。
ほら見ろ。
単細胞は増々怒り狂って駆けてくる。
「ひいいい!!!」
叫びながら逃げ続ける。
目的地まで。
そして。
遂に私はその場に転んでしまう。
駆けてくる明確なる死。
「ひいいいい!!!」
腰を抜かした私に化け物が迫る。
もうおしまいだ……!
「見事だ。韋駄天」
そんな言葉と共に中級冒険者……つまり、ギルドの主力達が現れる。
その背後には単騎でオーガロードを打倒できる上級冒険者の姿もある。
「あとは頼みましたよ……」
「もちろんだ。協力感謝する」
そんな言葉と共に始まる戦い。
いや、戦いじゃない。
中級冒険者複数とオーガロードだけなら戦力差は7対3で冒険者達が有利だが、今回は背後に上級冒険者もいる。
これはもう戦いではなく『レベル上げ』だ。
満身創痍の中級達に回復魔法をかけながら上級冒険者が言う。
「惜しかったな。まずは光魔法で目を眩ますべきだった」
「しっ、しかし……それが失敗した場合、魔法を放った者の命が危ないのでは?」
「何のためのパーティーだと思っている? そうならないために君達は組んでいるのだろう? せっかく複数で居るんだ。役割を分担すべきだ」
そう言って上級冒険者が私の方へ振り返る。
「彼女なんか模範例だ。自らの出来ることと出来ないことをしっかり理解している」
「えっ?」
「分からないか? 彼女は確かに弱い。しかし、その足の速さでここら一帯に異常がないかを見て回り、見つけたなら今回のように我らを手配する」
「うっ……」
そう言われて私は居心地が悪くなる。
私の実力は下級どころか一般人に毛が生えた程度のものだ。
「無論、純粋な実力で言えば彼女は我々の遥か下だ。しかし、ギルドへの……いや、この地域での貢献度では上級の私を遥かに超えるだろう」
「な、なるほど……」
「確かに……」
それなのに中級の彼らは今では尊敬に満ちた目でこちらを見ている。
「¨韋駄天¨殿。今日もご協力感謝する。あなたのような方がいるからこそ、辺境の平和は守られているのだ」
上級冒険者の言葉に私も少しだけ自信がついた。
この仕事は命が幾つあっても足りないけれど、やりがいだけは確かにある。
「どんなに平和な場所でも必ず脅威というものは存在する。そんな場所を守るのは我々のような地位ある者ではなく、むしろ彼女のような者であるということをくれぐれも忘れないように」
話を見事にまとめられながら、私は『そうそう! その通り!』とでも言わんばかりの態度でふんぞり返った。
その翌日にはまた「こんな仕事するんじゃなかった!」なんて言いながら逃げるんだろうけど。
遥か後の時代。
ゲームにおいて『何故、勇者の村には低レベルの魔物しかいないのか』という『大人の事情』に¨韋駄天¨が細やかに関わっている事なんて、当然ながら知る由もなく彼女は忙しいながらも幸せな生涯を終えた。