最終話 親しみのある元老院議長ゼネクス
「うむ、では建築ギルドへの予算増加を上奏しよう」
元老院議事堂で、ゼネクスが議論をまとめ上げる。
こうして可決された案は後にゼネクスによって、皇帝アーノルドに上奏され、施行されるか決まることとなる。
今回の件はおそらく問題ないだろう、とゼネクスは踏んでいる。
議会が閉会し、議員たちと挨拶を交わし、議事堂を後にする。
あの再誓式からおよそ一ヶ月――人々がゼネクスを見る目は大きく変わっていた。
「あ、ゼネクス様だ!」
「再誓式、最高でしたよ! 本当に感動しました!」
「この間など、夕食の時に議長様の話題が出て、楽しいひと時を……」
そんな彼らの声に、ゼネクスもにこやかに応じる。
「どうもありがとう。これからも元老院を見守っていてくれ」
声をかけると、市民たちは礼儀正しく頭を下げる。
ゼネクスの威厳は今も変わらない。
しかし、再誓式を大々的に行ったおかげで、ゼネクスが決して威厳だけではない、妻への愛情溢れる紳士だと認識する人が多くなった。
かつてのようにむやみに恐れられ、「帝国の黒幕」「帝国の支配者」のように言われることはなくなっていった。
ゼネクスはそのまま徒歩で帰宅する。
「ただいま」
「お帰りなさい、あなた」
「お帰りなさいませ、旦那様!」
ジーナは穏やかに、メルンは元気一杯に出迎える。
「さっき連絡があって、今夜はリウスたちが来るそうですよ」
「おおっ、楽しみじゃわい!」
ゼネクスとしては、孫娘のミナに会えることが特に楽しみである。
「ですから、大鍋でシチューを作ってまして。メルンにも手伝ってもらっているんです」
「そうかそうか、ワシにも手伝えることはあるか?」
「でしたら、食器を出して頂けます?」
「もちろんじゃ!」
愛用の黒いコートを脱ぎ去ると、ゼネクスは食器棚から皿を出し、キッチンに持っていく。
それが終わると、リビングのソファに座り、小説『威厳ゴッド』を読み進める。威厳ある神が悪党を罰する姿に、ゼネクスは爽快感を覚える。
そして、明日の元老院議会に思いを馳せる。
明日も数多くの難題を、ゼネクスは優秀な議員らと話し合うことになるだろう。
議会で決まった事柄は、グランメル帝国を導く道標となる。
(まだまだ頑張らねばならぬのう……)
ゼネクスは心の芯に沸き立つものを感じていた。いかなる水や氷であろうと、この熱を冷ますことはできない。
年は取ったが、ゼネクス・オルディンという議長人生を全うしてみせる。
その生き様を若い者たちに見せつけることこそが自分の役目だ。バトンを譲るのではなく、バトンを取ってみせろと言い続けてみせる。
漂ってくるシチューの匂いで、ゼネクスは自然と笑顔になる。
(やりたいことはまだまだあるが、とりあえず今はシチューとミナが来るのが楽しみじゃわい)
ゼネクスがニヤリとするのを、妻ジーナは見逃さなかった。そして、嬉しそうにニコリとする。
威厳がありすぎて、親しみもある元老院議長ゼネクスはまだまだ元気である。
おわり
元老院議長ゼネクスの物語、これで完結となります。
最後までお読み下さいましてありがとうございました。
少しでも楽しんで頂けたら、ぜひ評価を頂ければと思います。感想もお待ちしております。
今後の創作活動の燃料にさせて頂きます。
また他にも沢山の作品を書いていますので、よろしければそちらもどうぞ!
今後ともよろしくお願いいたします。




