第5話 リザードマン議員デクセン
グランメル帝国元老院にはわずかに人間以外の種族の議員も混じっている。
彼らの人間外からの意見は時として斬新なアイディアを生み、帝国のさらなる発展に一役買っている。
ゼネクスに辞職を止められたエルフの女性議員フレイヤもその一人である。
そして、ここにも――
「現状のモンスターを拘束する鎖ですと、ワタシのような鱗を持つ種族は鱗とこすりつけて鎖を劣化させることができてしまいます。もっと頑強なものにすべきかと」
「なるほど……」
リザードマンとはトカゲのような頭を持ち、二足歩行をする種族である。
デクセンはリザードマン出身の議員で、スーツの下の全身は緑色の鱗で覆われ、口には鋭い牙を生やしている。見た目通り、身体能力も高い。
「デクセン君、先ほどの意見は非常によかったよ」
「ど、どうも……」
とはいえ見かけとは裏腹に気弱で礼儀正しい男であった。
ゼネクスに褒められても、このように委縮してしまう。
この流れでゼネクスが食事に誘う。
「おお、そうじゃ。デクセン君、たまには一緒に食事でもどうかね?」
「よろしいんですか? ぜひ!」
デクセンも議長であるゼネクスを尊敬している。
二人は連れ立って食事に行くことになった。
***
二人は議事堂近くにあるレストランに入る。
さっそくゼネクスが労いの言葉をかける。
「デクセン君、このところの君はよくやってくれておる。今日の意見も素晴らしかった」
「議長にそうおっしゃって頂けると、ワタシもリザードマンから選ばれた議員としてホッとします」
真面目なデクセンに対し、ゼネクスの評価は高い。
これからもリザードマンの議員として、力を発揮して欲しいという思いだった。
注文した品がテーブルに出てくるまで時間がある。ゼネクスが話題を振る。
「ところでデクセン君、ワシのことをどう思うかね?」
直後にこう付け加える。
「あ、いや何かのテストというわけじゃないんじゃ。ぜひ、率直な意見を聞かせて欲しい」
デクセンは素直に答える。
「とても偉大で、威厳のある方だと思っていますよ」
「そうか……威厳か」
「?」
デクセンはきょとんとする。
「実は、悩みがあっての……」
ゼネクスは自分の威厳について悩んでいる、と打ち明けた。
デクセンは最初はどう答えたものか、という顔をしていたが、彼なりにニッコリと笑う。
「威厳があるからといって、みんな議長を怖がっているわけではありませんよ。議長はお優しい方です。こうして食事に連れてきて下さりますし」
「ありがとう、デクセン君……!」
ゼネクスの悩みも少し解消されたところで、ステーキと野菜サラダが届く。
ゼネクスが頼んでいたのはステーキであり、デクセンはサラダを頼んでいた。
「じゃ、いただこうかのう」
「いただきます」
ゼネクスは高齢でありながら健啖家で、ステーキをモリモリ食べる。
デクセンもフォークで丁寧にサラダを頬張る。しかし、コソコソと隠れるように食べる。
ゼネクスはその仕草に違和感を覚える。
「どうしたんじゃ? 妙にコソコソしてるが……」
「あ、いえ……ワタシはこれでいいんです……」
デクセンのような食べ方ではとても美味しく食べられないだろうとゼネクスは思うが、食事の仕方は個々の自由として、あえて黙認する。
すると、他の客たちが――
「見ろよ。あそこのリザードマン、野菜食ってるぜ」
「マジかよ。似合わねえ~」
「クスクス……」
ゼネクスはそういうことかと息を吐く。
グランメル帝国は人間以外の種族にも議員としての席を設けるなど、寛容な政策を取っている。
しかし、彼らにはこうした好奇の視線が向けられているのが現状である。
ゼネクスはすっくと立ち上がった。
「そこの貴様ら!!!」
「ひっ!?」
「リザードマンが野菜を好きで何が悪い? ワシら人間が食べ物の好みが千差万別のように、リザードマンにも食の好みはあるんじゃ! 今度彼を笑いものにしたら、このワシが許さんぞ!!!」
若者たちは驚き、青ざめ、そして黙り込む。
「ふぅ、言いたいことを言ったらお腹がすいたわい」
ゼネクスは再びステーキを頬張る。
肉を咀嚼しながら思う。こんなことをしたら、またワシの威厳が上がってしまうなぁ、と。
「あの……議長。私のために怒って下さり、ありがとうございました……!」
「いやいや、君のためだけでなく、ワシのためでもあるんじゃよ。あんな視線を気にして君の食が細くなり、体調を崩されたらワシも困ってしまう」
「は、はい! よーし、どんどん食べます!」
しかし、堂々と美味しそうにサラダを食べるデクセンを見て、ゼネクスは思い直す。
まあええか、と。
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