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第43話 ゼネクスとフレイヤ

 葬儀に参列した日以降、ゼネクスは議会でも元気がなかった。

 もちろん、職務をないがしろにすることはないが、議会中も普段ほどの覇気を発することができなかった。


「……では、この議題は持ち越しとする。各自、改めて意見を練り直すように。午後は魔法学校の予算案について話し合おうかのう」


 昼の休憩時間に入る。

 ゼネクスが議事堂内の休憩所でぼんやりしていると、エルフの議員フレイヤが声をかけてきた。

 金髪のロングで美しい顔立ち、スーツのよく似合う、頭脳も明晰な女性議員である。

 かつては歯に衣着せぬ物言いで他の議員から敬遠されていたが、今は物腰柔らかい議員として成長を遂げている。

 恩人であるゼネクスにほのかな恋心を抱いていたこともあった。


「議長殿」


「ん、フレイヤ君」


「お昼、一緒にお食事でもいかがですか?」


「かまわんよ」


 昼食の誘いをゼネクスは快諾する。

 ゼネクスとフレイヤは目玉焼き付ランチの出る大衆レストランに向かった。二人にとっては思い出深い店である。

 二人はかつてここで、「目玉焼きにはソースか塩か」論争を繰り広げた。その結果、フレイヤは楽しく議論することを覚えた。

 テーブルにつくなり、フレイヤが切り出す。


「議長殿、最近元気がありませんね」


 ゼネクスはバツが悪そうな表情をする。


「分かるかね?」


「分かる人には分かってしまうと思います。私以外にもきっと……」


 ゼネクスはフレイヤの慧眼に感心しつつ、心境を正直に語る。


「先日、ワシの知り合いが亡くなってのう。そのことは仕方ないのじゃが、ワシもそろそろ順番が巡ってくるのう、などと考えておったんじゃ」


「お知り合いというのは、ロダール氏のことですね」


「おおっ、知っておるのか?」


「私が議員になる前に引退されましたが、お話は聞いています。真面目一筋の議員だったとか」


 慕っていた故人を高く評価され、ゼネクスは嬉しそうにうなずく。


「ワシとて、これまでに死別は数多く経験しておる。すっかり慣れたと思っておった。しかし、自分が老いた時に同年代の訃報を聞くと、やはり意識してしまうというか、少しへこんでしまってな」


「議長殿……」


 フレイヤも安易に「議長はいつまでもお元気ですよ」というようなことは言わない。

 ゼネクスは他人から心配されたくてそういうことを言っているのではない、というのが伝わってきたからだ。


「フレイヤ君、君は長寿のエルフ族の出身で、そこから議員になった。議員として大勢と知り合い、数多くの別れを経験することになるじゃろう」


「そうですね。私としても、いつかは向き合わなければならないことだと思っています」


 フレイヤはまだ若いが、そのうち同世代といえる人間たちが先に老いていくことは避けられない。

 肩を並べた仲間たちが先に旅立っていくのを見送るのは辛いものがあるだろう。


「ですが……」


 フレイヤはゼネクスを見つめる。


「私は議長殿とお別れしたとしても、議長殿は永遠の憧れですし、尊敬し続けていくと思います」


 真剣な眼差しで告げられ、ゼネクスも微笑む。


「ありがとう、フレイヤ君」


「いえ……」


 計ったようなタイミングで、目玉焼き付ランチがやってくる。


「さあ、食べようではないか!」


「はい!」


「ワシはソースで、君は塩じゃったな」


 たっぷりソースをかけるゼネクスを見て、フレイヤが目を見開いて焦る。


「かけすぎですよ! もっとご自分を労わって下さい!」


「う、うむ。そうじゃな」


 ゼネクスは目玉焼きにかけるソースの量は程々にしておいた。

 目玉焼きを上品に、かつ美味しそうに頬張るフレイヤは、非常に絵になる。


(フレイヤ君も、次代の元老院を担ういい議員になってくれそうじゃのう……)


 どこか嬉しそうに、ゼネクスも目玉焼きを口に運んだ。

 そして、自分の人生が続く限り、彼女と目玉焼きを食べたい――と思った。

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― 新着の感想 ―
やむを得まいこととはいえ、近しい人を亡くすのは悲しいですね。 長寿のフレイアさん。おそらくこういう経験は多いのでしょうね。いい人ですね。 そういえば……。 全話でジーナさん。議事堂の受付だったんです…
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