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第17話 元老院議長も魔法を使える!?

 グランメル帝国の城内の一角には、魔法使いの修練場が存在する。

 帝国に仕える魔法使いのエリートたちがここで日々訓練をする。

 彼らを指導するのは大賢者リウス・オルディン。元老院議長ゼネクスの息子にして、帝国一の魔法使いである。


「魔法の要は魔力の量ではなく質だ! いかに体内で素早く魔力を練り上げ、外へ放出できるかの勝負だ!」


 ある魔法使いに指摘を入れる。


「魔力に炎の気配が溢れ出てる。これから自分は炎魔法を撃ちますと教えてるようなものだぞ」


「はいっ!」


 突然、リウスが一人の魔法使いに雷の魔法を放つ。

 シールドで防御するが、間に合わなかった。


「ぐあっ!」


「遅い。今のが本気で放たれたものだったら、君はもう死んでるぞ」


「すみませんっ!」


 リウスの指導は厳しい。

 彼らはいざという時は、国防の要となる。重要度は帝都騎士団と同等、あるいはそれ以上とも言われる。

 どんなに厳しくしても、厳しすぎるということはないのである。

 そして皆、リウスの実力や人柄を知っているだからこそ、不平を言わず訓練についてくる。

 リウスもまた、誰一人脱落しないエリートたちに感謝すらしている。


 すると――


「おおっ、やっとるな」


 ゼネクスがやってきた。


「父さん……!?」


 リウスも驚いた様子だ。指導者としての険しい顔つきから、息子の顔つきになる。


「どうしてここへ?」


「陛下に上奏することがあってな。そしたら今日は魔法の訓練をやってると聞いて、ついでに寄ってみたんじゃ」


「一緒にダンジョン攻略して、エルフの里やリザードマンの集落にも行ったというし、最近の父さんは妙にアグレッシブだね」


「この年になると、今までやれなかったことをやりたくなるもんじゃよ」


「息子としてはあまり無茶するなって言いたいけどね」


 リウスが訓練を中断させる。

 魔法使いたちも元老院議長を間近で見る機会はそうないので、緊張している。

 ゼネクスもその緊張を感じ取り、リラックスさせようと務める。


「リウスに不満があったらすぐワシに言いなさい。文句言ってやるから」


「おいおい、父さん」


 どっと笑いが起こる。

 ゼネクスは手応えを感じた。

 そして、久しく忘れていたある願いを思い出す。

 ワシは親しみのある議長になりたい――


(ここらでジョークでもかませば、ワシは親しみのある議長に近づける!)


 ゼネクスは床に座る魔法使いたちに語りかける。


「ここにいる皆は、ワシのことを“偉い”とか“怖い”とか色々思っているじゃろうが、少なくとも魔法に関しては素人だと思ってることじゃろう」


 魔法使いたちはうなずく。

 ゼネクスを尊敬や畏怖こそするが、少なくとも“魔法”という分野で負けることはないと思っている。


「しかし、ワシにも魔法が一つだけ使えるんじゃ。“皆を黙らせる”という魔法をな」


 リウス含め、一同はきょとんとする。

 相手を沈黙させ、呪文を唱えなくさせる魔法は実在するが、非常に高度であり、議員であるゼネクスが使えるとは考えにくい。


「適当なタイミングで魔法を使うから、それまでみんな楽にしてくれ。自由に喋ってかまわんぞ」


 さっそく魔法使いたちは好きに雑談を始める。

 リウスも彼らの雑談に加わる。


「リウス様、今度新しい魔法を教えて下さいませんか?」

「ああ、かまわないけど」


「……でさぁ」

「マジかよ~」


 空気が弛緩してきたのを見計らうと、ゼネクスは――


「静かにせんかァ!!!!!」


 突然の怒号。

 みんなビクリとして一斉に静まり返った。

 これを見て、ゼネクスが笑う。


「ハハハ、どうじゃ。みんな黙ったじゃろ」


 得意げな父親にリウスは顔をしかめる。


「どうじゃ、じゃないよ。いきなり怒鳴りつけて、心臓が止まるかと思ったよ……」


「まあまあ、あまり怒るな。軽いジョークじゃろうが」


「軽いかなぁ……」


 胸を右手で押さえつつ父に不平を言うリウス。

 しかし、他の魔法使いたちはゼネクスに尊敬の眼差しを向けていた。


「みんな、黙っちゃいました!」

「我々の魔法じゃまるで驚かないリウス様を驚かせるなんて……!」

「大きな音を出す魔法というのもあるんですが、あれ以上の声です!」


 彼らの視線にゼネクスは「う、うむ」と返事をする。


(ワシとしては笑って欲しかったんじゃが……ちょっと期待と違う反応じゃのう)



***



 後日、リウス一家が遊びに来た。

 ゼネクスは相変わらずミナを溺愛している。


「おお、ミナ~!」


「おじいちゃ~ん!」


 孫娘にメロメロな父に苦笑しつつ、リウスが“ゼネクスの魔法”事件の顛末を伝える。


「父さんが魔法使いたちを黙らせたことがすっかり語り草になってるよ。大賢者の父親はやっぱりすごい魔法使いだったって」


「おじいちゃん、すごーい!」ミナは目を輝かせる。


 当然、ゼネクスはこんな結末は望んでいない。あくまで場を和ませたかっただけであった。


「なんでこんなことに……」


「あんなことしたら、威厳がさらに高まるに決まってるじゃないか。父さん、本当に威厳をなくしたいの? 実はどんどん威厳を増やしたいんじゃないの?」


「なくしたいに決まってるじゃろが! ワシはジョークのつもりだったんじゃよぉ!」


 ジーナが唇に手を当てて笑う。


「そういえば昔から、あなたがジョークを言おうとすると、その迫力で大抵相手を怖がらせちゃいますよね」


「知らんかった……。ジーナ、そういうことはもっと早く教えてくれええええ!」


 絶叫するゼネクスに、ジーナも、リウスも、その妻マチルダも、そしてもちろんミナも笑った。

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>(ここらでジョークでもかませば、ワシは親しみのある議長に近づける!) ゼネクスさんがこういう事を言うと……。 >「そういえば昔から、あなたがジョークを言おうとすると、その迫力で大抵相手を怖がらせち…
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