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第12話 ワシの威厳はSランク!?

 帝都西に現れたというダンジョン。幾多の冒険者が行方不明になったこの難所に挑むのは――

 元老院議長ゼネクス・オルディン。白髪の混ざる銀髪をオールバックにし、威圧感漂う外見をした老人。冒険者用の軽装を身につけても、その威厳に衰えはない。

 元老院議員フレイヤ。金髪を携えた美しい女エルフ。今回はダンジョン攻略に向けて愛用の弓と短剣を持参している。

 同じく議員デクセン。トカゲのような顔を持つリザードマン。鋭い爪と牙を持つが、いたって温厚な性格で、しかも野菜を好んで食べる。

 ゼネクスの息子リウス・オルディン。グランメル帝国の大賢者であり、帝国中の魔法使いにとって憧れの存在である。四人の中では最も戦力としては期待できる。

 四人中三人が現役議員という異色のパーティーとなった。


 ダンジョン内は黄土色の壁に囲まれた迷宮になっており、四人は慎重に歩を進める。

 探索を始めて一時間、最もバテていたのはリウスだった。


「かなり広い迷宮だね。疲れてきたよ……」


「なんじゃ、だらしないぞ。リウス」


 倍以上年上の父親に叱られ、リウスはしゅんとする。


「面目ない……」


「まあまあ。リウス殿、水でもいかがです?」


「ありがたく頂くよ、フレイヤさん」


 フレイヤが手渡した水筒の水をリウスが一口飲む。

 これをきっかけに四人で休憩していると、迷宮の前方から、複数の足音が聞こえる。


「何か来ましたよ!」とデクセン。


 前から茶色い四足歩行の獣が何頭も走ってきた。


「なんじゃ、あれは」


「ただのモンスターじゃない……泥で作ったモンスター、ゴーレムの類だね」


 リウスが答えを導き出す。

 土や泥、石といったものに魔力を吹き込むことで、生物のように動くようになった物体を総称して“ゴーレム”と呼ぶが、彼らもその類であるという。


「ああいう手合いは……まとめて焼き払ってしまえばいい!」


 リウスは右手に魔力を集中させると、それを一気に振り払う。


火炎波(フレイムウェイブ)!」


 数体の獣はたちまち焼き払われ、消滅した。

 フレイヤとデクセンはリウスの魔法の威力に目を丸くする。

 一方、ゼネクスは腕を組む。


「ふん、まあまあってところじゃな」


「父さんに“まあまあ”呼ばわりなら十分喜んでいいよね」


 しかし、内心では息子の実力に驚いていた。


(なんという威力じゃ……。今こいつの魔法を喰らったら、間違いなく死んじまうのう)


 学生時代遊び呆けていた頃のリウスとは比べ物にならないと改めて実感する。

 獣たちを退け、ゼネクスらは探索を続ける。

 不意にフレイヤがつぶやく。


「それにしても曲がり角がやたら多い……。構造もかなりムチャクチャだ」


 デクセンもうなずく。


「ええ、なんていうか気ままに作られたダンジョンという印象ですね。整っていないというか……」


 二人の会話を聞いて、ゼネクスは考える。


(そうじゃのう。まるで子供が作ったような……)


 ゼネクスがリウスに話しかける。


「お前、子供の頃、紙に迷路を描いてワシによく解かせてくれたじゃろ」


「ん? ああ、やってたね」


「迷わせるためにとにかく曲がり角が多く、なかなか苦労させられたわい」


「父さんを苦労させると嬉しいけど、でもゴールまでたどり着いてもらうのも嬉しかったな。でも、なんで突然?」


「いや、ふと思い出してな……」


「?」


 歩いていると、今度は黒い砲弾が飛んできた。

 壁に吸盤のような穴が備わっており、そこから弾丸が次々撃ち出される。

 かなりの飛距離・速度で、当たれば大ダメージは免れない。


「リウス、魔法でドカーンとやっつけんか!」


「分かってる」


 すると、フレイヤが――


「リウス殿は後々のことを考えて力を温存しておくべきでしょう。ここは私にお任せを!」


 フレイヤが弓を颯爽と構える。

 マントを翻し、美しい姿勢で弦を引き、矢を放つ。

 たった一発で砲口を破壊してみせた。


「おおっ、すごいぞフレイヤ君!」


「私、これでもエルフの里では弓は一、二を争う腕前でしたから」


 フレイヤも得意げに微笑む。


 迷宮はさらに続く。

 今度は左右の壁から触手のようなものが生えてきた。


「うわぁっ!」


 まず、フレイヤが捕えられる。


「フレイヤ君!」


 触手の数は多く、ゼネクス、さらにデクセン、リウスも捕まってしまう。


「くおおっ! すごい力じゃ……!」


 全身を締め上げられ、四人とも動けない。


「僕らを殺すつもりはないみたいだけど、このままじゃまずいね」


 リウスが魔法を放てば触手を吹っ飛ばせるかもしれないが、その場合、パーティーもただでは済まない。


「でしたら、このワタシが!」


 デクセンが鋭い牙で自分に巻き付く触手を噛みちぎった。

 自由の身になり、他の三人の触手も噛みちぎる。

 一度離れてしまえばこっちのもの。押し寄せる触手はリウスが魔法で弾き飛ばし、触手地帯を脱出した。


「助かったぞ、デクセン君」


「いえ、お役に立ててよかったです」


「それにしても肉より野菜が好みなのに、牙は鋭いんじゃのう」


「ワタシ、歯は丈夫なんですよ。ミルク好きですから」


「なるほどのう」


 健康的に白く光る牙を見せつけるデクセンにゼネクスは笑った。


 それからも迷宮は続いたが――

 リウスの魔法を中心に、フレイヤの弓、デクセンの牙で、敵を倒し、突き進んでいく。

 名目上リーダーであるゼネクスの出番はほとんどなかった。


「皆が頼もしいから、ワシの出る幕がないのう」


 フレイヤが笑いかける。


「いえ、議長殿がいるだけで私たちは身が引き締まります!」


「そうかのう?」


「僕が魔法、フレイヤさんが弓、デクセンさんが物理攻撃担当とするなら、父さんは“威厳”担当ってとこかな?」


「なんじゃい、威厳担当って」


 ゼネクスはむくれる。


「まあ、いいからいいから。父さんに何かあったら、ミナが悲しむ」


「おおっ、そうじゃな! ミナ! おじいちゃんは頑張っとるぞ~~~~~!!!」


 拳を握り締め、孫娘への愛を叫ぶゼネクス。迷宮に声はよく響き、リウスはわざとらしく耳を塞いだ。


 ダンジョンに入ってからおよそ6時間。

 一行は広々とした部屋にたどり着く。


「いかにも何か待ち受けてそうな部屋だね……」とリウス。


「ん!」


「どうしたんじゃ、デクセン君」


「ものすごい数の……モンスターが来ます!」


 五感の鋭いリザードマンであるデクセンは真っ先に気づいた。

 すると、土で作られたと思われる獣、巨大虫、さらにはドラゴン。

 それが数十……いや百以上の数が現れた。


「まだこんなに残っていたのか……!」


 フレイヤは冷や汗をかく。


「土人形だからいくらでも作れるからとはいえ、これは多すぎる!」


 リウスにも焦りが見える。


 だが、ゼネクスは平然としており、全く別のことを考えていた。


(このモンスターたちの形状、どうも“幼い”んじゃよなぁ……)


 モンスター軍団は一斉に襲いかかってきた。

 フレイヤは弓を構え、デクセンも拳を握り締め、リウスも魔力を溜める。

 苦しい戦いになるのは間違いない。

 ところが、そんな三人の前にゼネクスが出た。


「父さん!?」


 ゼネクスはモンスターたちに向けて、息を大きく吸い、


「どかんかァ!!!!!」


 一喝した。


 これだけだった。

 これだけで、モンスターたちはさぁっと道を空けた。

 もう襲ってきそうな気配はない。


「上手くいっちゃったわい……」


 劇的な効果に、やった本人すら驚いている。


「す、すごいです!」フレイヤは感激している。


「ワタシもビックリしました……」デクセンは胸を手で押さえている。


「いやぁ、すまんすまん。予告ぐらいすべきじゃった」


「まさか、本当に威厳でモンスターを撃退するとはね」とリウス。


「ワシも驚いておるよ……」


 そして、だんだんと自分の考えが確信に近づいてきたことを感じる。


(ワシの考えは正しいようだ。やはり、このダンジョンを生み出したのは……)



***



 一行は煮えたぎる溶岩がプールのように敷き詰められた場所にたどり着いた。

 向こう岸に迷宮の続きがあり、この溶岩は絶対に越えなければならない。


「これは……どうしましょう?」立ち尽くすデクセン。


「僕が氷魔法で凍らせるか……」


「私が糸をつけた矢を向こう岸に飛ばして、それを渡るとか」


 大量の溶岩を全て凍らせるのはリウスの魔力量でも難しいし、フレイヤの案は非常に危険で現実的ではない。


「ならば、ワシが……」


 ゼネクスが前に出る。


「溶岩よ……道を空けい!!!!!」


 こう一喝すると、溶岩の中に一本の道が開けた。

 リウスも、フレイヤも、デクセンも驚愕した。


「やってみるもんじゃのう」今度は得意げなゼネクス。


 リウスが驚きと呆れの混じった表情で言う。


「そういえば魔法学校では、例えば『魔力量』『知識』『詠唱速度』といった色んな項目にA、B、C、と成績をつけられる」


「なんじゃいきなり?」


「その最高評価はSランクなわけだけど……」


「お前はほとんどSだったな。そういえば」


 フレイヤとデクセンが「すごい」と声を漏らす。


「父さんは『威厳』って項目があったら間違いなくSランクだね」


「なんじゃそりゃ。そんなもんがSランクでも嬉しくないわい!」


 笑い合う一行。

 道ができた溶岩地帯を抜けると、そこには異様な雰囲気の入り口があった。壁の色が黄土色ではなく、群青色になっており、瘴気も漂っている。

 四人は直感する。あそこがダンジョンの最終地点であると。


「どうやら、本当に最深部のようじゃのう」


「誰が先頭で行く?」


「もちろんワシじゃ! この威厳Sランクのワシがな!」


 剣を抜き、ゼネクスは最後の部屋へ入った。

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