噂
「咲弥……その噂って、どんな噂なんだ?」
「何日か前に、里枝美ちゃんが女の子と言い争ってたらしい。」
「それは本当なのか!?」
「噂なんだから、わかんねぇーよ。ただ……。」
「ただ……?ただ何なんだよ?」
「ただ、それを見たってやつがいるんだよ。」
「そいつは誰なんだ?」
「隣のクラスの篠田ってやつだ。」
「ちょっと聞いてきてみる!」
雅夜はその場からダッと駆け出した。
「雅夜っ、ちょっと待て……、行っちまったか。篠田がどんなやつか知らないくせに……。」
(ガラーっ)
隣の教室のドアが開くとともに1人の生徒が廊下に出てきた。
「あっ、君ちょっといいかな?」
「はい。何でしょうか?」
「君のクラスの篠田って人を呼んできてほしいんだけど。」
「何を言ってるんですか?篠田は僕ですよ。」
「君が篠田だったのか。悪かった。」
「別にいいですよ。あと、初対面なのに呼び捨てにしないでください。」
「すまなかった篠田君。俺は雅夜だ。」
「雅夜さん、僕に何の用なんですか?」
「実は君に聞きたいことがあるんだ。」
「僕に聞きたいこと?」
「君は、里枝美と女の子が言い争ってたのを見たらしいな。それは本当なのか?」
「ええ、見ましたよ。」
「その言い争ってた女の子は、どんな子だったんだ?」
「なぜ僕がタダで情報を教えなきゃならないんですか?」
「教えてくれたっていいじゃないか。」
「嫌ですよ。何も僕に利益がないじゃないですか。」
「…………わかったよ。俺は何をすればいいんだ?」
「何をしてもらいましょうかねー…………そうだ!3回回ってワンって言ってください。そしたら情報を教えてあげましょう。」
「……3回回ってワンって言えば、絶対に情報を教えてくれるんだな?」
「ええ、絶対に教えますよ。」
「……わかった。やってやるよ。」
(クルックルックルッ)
「ワン!」
「……雅夜、何やってるの?」
「里枝美!?こっ、これは、……ちょっとしたゲームなんだ!」
「そ、そうなんだ。じゃあまたね。」
「お、おう。またな。」
里枝美はその場から駆け足で去っていった。
「……篠田君、これでいいんだろ?」
「ええ、いいですよ。とてもおもしろかったです。」
「……それじゃあ、女の子の情報について教えてくれ。」
「その女の子は……………………。」
篠田君から女の子の情報をいろいろと教えてもらった雅夜は、1つの確信へと至った。
「篠田君、女の子の情報を教えてくれてありがとう。」
「いえいえ、こちらこそおもしろいものを見せてもらえましたから。」
「それじゃあ、また。」
「またの機会に。」
〔まさかとは思っていたが、女の子の正体はやっぱり……ひかりだったか。〕
女の子の正体がわかった雅夜。
そんな雅夜を待ち受けているのは、今まで以上につらい真実だとは、雅夜は知るよしもなかった。