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ep.8 魔導士の墓

 石棺の震えが次第に大きくなり、上部の蓋がゆっくりとずれ始めた。慎重に石棺から一歩後退し、身構える。


 「嫌な予感しかしない……」


 蓋が完全にずれ、石棺の中から光が漏れ出した。その光は徐々に強まり、まばゆいばかりの光が広間を照らし出す。目を細めながらも、私はその光の中心に目を凝らす。


 やがて光が収まると、石棺の傍に一人の人物が浮かび上がった。全身をローブに覆い隠した怪しい猫背の男。

 それは街を出る前に会った男だった。


 「見込み通りだった、君ならたどり着けると思っていた」


 低く響く声と共に、男がフードから頭を出す。

 男の瞳は虚ろで、生気を感じられない。このクエストを依頼したNPCこそ、過去に亡くなった魔導士ハヴォイナだったという事だろう。


 「久しぶり……ってほどでもないですね。遺跡と、あなたのお墓も見つけたので、依頼は終わりでいいですか?」


 ハヴォイナは私をじっと見つめ、ゆっくりと頷いた。


 「ああ、依頼は終わりだ。報酬は……大したものは持っていないが、これなら君の役にもたつだろう」

 

 そういってハヴォイナが石棺に手をかざすと、光が再び広間を満たす。


 「君は……彼女によく似ている。身に着けるには丁度いいだろう」


 ハヴォイナが石棺から距離を取ったことを確認して、石棺の中身を確認する。三つの小物入れサイズの宝箱と、二つの大きな宝箱。


 まずは小物入れサイズを開ける。

『宝箱から〈リヴィディナの髪飾り〉〈ハヴォイナのブローチ〉〈侵食されたスクロール〉を入手しました。インベントリに転送されます』


 リヴィディナは……彼の言う私に似ている女性の名前だろうか。それも含めて後で確認するとして、今はとりあえず大きな宝箱サイズを開けよう。

 

『宝箱から〈リヴィディナの遺装〉を入手しました。……〈〉を……。──インベントリに転送されます』


 二つ目の箱には何も入っていなかった、にしては通知がちょっとおかしい。


 「メニューオープン、インベントリ」

 

 インベントリには先程手に入れたアイテムが幾つかと文字化けしたアイテム〈繧、繝吶Φ繝域ュヲ蝎ィ〉がしまわれている。


 困惑する私を気にかけず、ハヴォイナが口を開いた。

 「リヴィディナは俺がこの手で……もう会う事は無い――違う、リヴィディナは生きている……いいや。生きていない……」


『グランドクエスト〈ハヴォイナの導石〉を開始しました』


 ――情報量が多すぎる。


 取り合えず、虚ろな瞳で「リヴィディナ、リヴィディナ」と呟く男を一旦無視し、グランドクエストの詳細を確認する。文字化けアイテムは後で運営に報告しておこう。


 グランドクエスト:〈ハヴォイナの導石〉

 ‐五人の英雄の一人、魔導士ハヴォイナは精神を摩耗し、今は亡き少女の夢を見ていた。〈グランドシナリオの結末はプレイヤーによって決定され、全プレイヤーに影響を及ぼします〉


 「今度は情報が少なすぎる……」



 再びメニューをインベントリに切り替えて、各アイテムの詳細を確認する。


 装備: 〈リヴィディナの髪飾り〉

  - 頭装備〈INT+10、装備制限:INT40〉


 装備: 〈ハヴォイナのブローチ〉

  - 装飾品〈INT+5、装備制限:INT40〉


 アイテム: 〈侵食されたスクロール〉

  - 魔法習得〈アストラルコーパス、アブソルプティオ〉


 装備: 〈リヴィディナの遺装〉

  -胴手脚足複合装備 〈VIT+12、INT+40、装備制限:INT40〉


 装備: 〈繧、繝吶Φ繝域ュヲ蝎ィ〉

  -武器〈繧ィ繝ゥ繝シ〉


「イベントアイテムじゃなくて、装備なんだ……」


 ハヴォイナに目を向けてみるが、彼はまだ「リヴィディナ、リヴィディナ」と呟き続けていた。


 「ハヴォイナさん」と呼び掛けてみるが、反応しない。

 イベント進行には何らかのトリガーやフラグが必要なのだろうけれど、今できる事は、手に入れた装備を身に着ける他にないようだ。


 「遺品を装備するのはちょっと気が引けるけど」


 『スキル〈アストラルコーパス〉〈アブソルプティオ〉を開放しました』

 侵食されたスクロールを使用した後、メニューを装備に切り替える。

 それぞれの部位から手に入れたアイテムを装備していく。ワンタップで装備が切り替わるのは便利だ、現実でもそうであればいいのに。


 装備メニューからプレビューのタブに触れると、操作パネルの中に私の全身プレビューが表示される。見た目は……好みド真ん中。


 黒い花とリボンのついたヘアオーナメント。黒と白を基調としたゴシックスタイルに所々入った金の刺繍。黒い編み上げブーツ。


 ふんわりとしたボリュームのあるパフスリーブも目を引くが、コルセットスカートがオーバースカートみたいになって――語彙が足りない。

 なんかファンタジーでよく見る服……!

 

 「べっとりついた血がいいアクセントになってるね……なんて……」

 ごりごりに押し寄せる遺品感が無ければ生涯着ていたい位には好みの服装。……リヴィディナさんが生きて居たら、きっと服装の趣味で盛り上がれただろう。


 ――イベントを進めよう。


 「ハヴォイナさん」


 声をかけると、ハヴォイナは呟きを止めて顔を上げる。

 瞳が大きく開かれ、彼の眼に少しの生気が宿る。


 「リヴィディナ……! 何故ここに――チガウ!リヴィディナはモう……生きている……?──どうしたんだリヴィディナ、また杖を忘れたのか?お前は、変わらないナ」


 喉が切れる様な、吐き出すような声と落ち着いた声、時に優しい態度で、激しく混乱した態度で荒ぶるハヴォイナは、正気とは思えない。


 「わ……私はリヴィディナですヨー。ほら、杖もしっかり持ってます」


 右手をハヴォイナに向けて差し出す。


 「リヴィディ……ナんだソレはぁぁ?! リヴィディナ……!リヴィ…リヴィディ……リヴィヴィヴィ……………」


 装備プレビューには映っていなかった〈繧、繝吶Φ繝域ュヲ蝎ィ〉が右手にこびり付いている。滅茶苦茶気持ち悪い。ハヴォイナの反応は当然だ。


 「運営に報告案件かなぁ。詰んだかもしれない」

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