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ep.6 イベントエリア

 怯えて後ずさるゴブリンに止めを刺す為、再び大剣を両手で握る。


 〈フルスイング〉


 ゴブリンは一撃で吹き飛び、地面に叩きつけられると同時に消滅した。

 地面にいくつか転がっているドロップアイテムをインベントリにしまう。


 「アイテムは……ゴブリンの耳と棍棒。どっちもそこそこのゴミっぽいなぁ

 ──っと……〈黒の導石〉?」


 インベントリを確認すると、見覚えのないアイテムが混ざっていた。そういえば、イベントアイテムらしき物を受け取っていたことを忘れていた。


 アイテム: 〈黒の導石〉

  - 隠された魔導士の遺跡への導石。〈イベントアイテム〉


 詳細ボタンを押すと、アイテム詳細が表示される。

 どうやら、思った通りイベントアイテム、それも隠された魔導士の遺跡という、興味の惹かれるテキストが書いてある。


 「で、使い方は……?」


 一応アイテム化して掌に乗せると、鈍い黒色に光り、ほのかに暖かいだけで特に変化はなかった。


 「……黒の導石、おねがい!」


 〈黒の導石〉を高く掲げると、石から放たれる暗い闇が一帯に広がる。

 ──という事は無かった。


 「まったく、イベントアイテムならもっとわかりやすくして欲しいな……」


 不満を呟きながらも、再び〈黒の導石〉をインベントリにしまう。使い方はわからないが、取りあえず大森林の中に入ってみるしかない。





 森の入り口は鬱蒼とした木々に覆われており、昼間でも薄暗い。風が吹き抜けるたびに、木々がざわめき、怪しげな雰囲気を醸し出している。


 「ここが大森林か……」


 森に一歩踏み入れる。

 ──突然、インベントリにしまったはずの〈黒の導石〉が浮かび上がり、暗い闇が吹き出す様に広がった。導石から強い風が発生するのを遮る為に、腕で視界を覆う。

 

 ……数十秒してから風が収まると、森の中は先程よりも暗く、一層静かな気配になっていた。背後を振り返ると、見えるはずの平原は薄い靄が壁の様になっていて見えない。


 「イベントエリア、かな」


 イベント用の隔離エリアに入ったという事は、トリガーアイテムの〈黒の導石〉を持っている私以外は、遺跡に辿り着けない。

 急がずとも、浮遊している石をゆっくり追いかけて行けばクエストクリアだろう。


 石の示す方向に従い、森の奥へと歩みを進める。静かすぎる森の中では大剣を引きずる音が良く響く。


 歩き続けることしばらく、〈黒の導石〉が鈍く輝く黒色に光り出す。

 光の先に目を凝らすと、薄暗い森の中に巨大な石造りの建物が見える。それはまさしく遺跡だった。


 崩れた外壁と苔むした石壁が年月を感じさせる一方で、不自然に綺麗なままの柱が二本そびえ立ち、その間には文字らしき物が刻まれた碑石が置かれている。

 碑石の前には、長方形の石棺のようなものも見える。


 〈黒の導石〉と共に遺跡の近くまで進むと、二つ並んで建っていた柱、その右側のくぼみに〈黒の導石〉が収まった。


 「右は嵌って、左には何も無し……という事は」


 ──ズッズズ……ゴゴゴゴ……

 ……遺跡全体が突然震えだし、低い轟音が響き渡る。地面が微かに揺れ、その振動が足元から伝わってくる。

 

 遺跡の中央部の石床がゆっくりと持ち上がり、巨大な人の形を成し、やがて全貌が現れた。碑石と石棺を守る様にそびえたつそれは、巨大なゴーレム。

 全身が石で作られており、無数の苔が覆っている。


 ゴーレムの額には黒い石が嵌っており、〈黒の導石〉と同じように鈍い黒色に輝いている。その光が不気味に輝くと、遺跡の周囲を薄い靄で覆う。


 「こいつが守護者ってわけか……」


 ゴーレムが動き出すと、重厚な足音が遺跡中に響き渡り、地面が震えた。巨体が動くたびに、古びた石壁が微かに揺れる。黒い石の輝きが一層強まり、ゴーレムの身体にひも状の黒い模様が浮かび上がる。


 「初のボス?戦……どこまでやれるかなっ!」


 無意識に口角が上がるのを感じる。

 戦いに酔う、という訳ではないけれど、困難や苦難への挑戦を前にすると口角が上がってしまうのは昔からの癖だ。


 巨大な腕を振り上げるゴーレムに、私は着弾位置を予測して僅かに身を引く。

 本来は大袈裟に避けた方が安全だろうけど、AGIの低さが足を引っ張っているので仕方がない。


 ゴーレムの攻撃が私の予想通りの位置に振り下ろされる。振り下ろされた腕に斬りかかるつもりだったが、着弾と同時に地面が揺れてしまい、態勢を崩してしまう。

 他の方法を考えた方が良さそうだ。


 「近寄って足……は、無しと」

 ゴーレムは様子見で近づいた私に、予備動作の殆ど無い蹴り攻撃を放つ。

 もし最初から攻撃目的で近づいていたら、避けられなかっただろう。


 顔スレスレをゴーレムの蹴りが通り抜け、風圧で後ろに倒れ込みそうになるのをこらえる。ゴーレムの間髪入れない振り下ろし攻撃が迫る。


 〈フルスイング〉


 ──ギリギリ発動できたスキルで腕の軌道を逸らす。

 攻撃を受ければ終わっていたが、スキルで腕を弾けたのは僥倖だった。


 少し態勢を崩したゴーレムが態勢を整える前に、腕に向けて大剣を振りぬく。甲高い音を立てた大剣は石腕にわずかに食い込むが、大きくダメージを与えられた様子は無い。 

 

 「仮に、額の石が弱点とかだったら面倒だね」


 AGIで立ち回るか、DEXで遠隔攻撃、もしくはINTで魔法攻撃。

 最悪、STRで防御を突破する方法もあるが、生憎その全てをもって無い。

 とはいえ、イベントからして魔法使いが挑むであろうイベントなのだろう。

 ゴーレムのAGIは低い、油断さえしなければ、相手の攻撃が当たる事は無い。


 魔法使いなら、引き撃ちでもしていれば余裕で倒せるのだろう……。


 私は距離を取りつつ、スキルクールダウンが上がる度に腕を弾いて追撃を行う。……気持ち程度の〈スラッシュ〉も忘れない。


 「……下がる、スキル。……下がる、スキル。」

 


 …………距離を保ちながら攻撃を誘発し、スキルで防ぎ、その後に距離を取る。早々にパターン、というかゴーレムの限界が見えてきた。


 ──バグとか、グリッチ、意図しない挙動に近しい攻略になってしまったのは、ゲームの知識からくる優位性として一旦見逃して欲しい。


 「BANとかされなきゃいいけど」


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