表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

ep.4 初戦闘

 早速、門を出てモンスター討伐に向かおう。

 ──そう思って数歩と歩かないうちに、出鼻を挫かれた。


 「あんた、少しいいか」


 背後から聞こえたしゃがれた声に視線だけを後ろに向けると、黒いローブに全身を覆い隠した、みるからに怪しい猫背の男が立っていた。


 「何か用ですか?」

 「そう怖い顔をしないでくれ。ただ、あんたを見込んで頼みがあるんだ」


 ……楽しみを邪魔されたからか、少し顔が強張ってしまったのかもしれない。

 私は表情を和らげ、少し歩み寄る。

 

 「私を見込んでとは、どういうことですか?」


 「盗み見をして申し訳ないが、あんたさっき露店のヘリヤから依頼を受けていただろう。

 10レテにもならない依頼を受けるようなあんたなら、俺の依頼も受けてくれるんじゃないかと思って。

 それに、俺の見立てが間違いじゃなければ、あんたはそれなりに強い魔法使いだ」


 ──大剣を背負った女のどこに魔法使い要素を見出したのだろう。

 そう突っ込むのは野暮だろう。多分、行動とステータスを参照にした隠しイベントかもしれない。

 

 「興味が湧きました、詳しく教えていただけますか?」


 「話が早くて助かる。……実は、街を出て平原を超えた先にある大森林の遺跡を見つけて欲しい」


 「大森林の遺跡、ですか……」


 これは、当たりかもしれない。

 行動、もしくはステータスを条件にしたイベントで『遺跡を探して欲しい』なんて言われては、ダンジョンとか特殊イベントとか、そういった想像が膨らむ。

 俄然、興味が沸き立つ。


 「詳細な場所を教えていただけますか」


 私がフードの中身を覗き込むように半歩、距離を詰めると、フードの男は同じだけ身を引いて距離を取る。

 フードの鍔を引っ張って顔を深く隠した男は、顔を見られては困る理由があるのかもしれない──とはいえ、沸き立つ興味に怪しさが勝る事は無い。


 「本当に話が早くて助かる。会話が苦手でね、遺跡について話せることも多くは無い。ただ、魔法使いがこれをもって大森林に向かえば場所を示してくれる」


 ローブの男は小さな石を手渡してきた。それは鈍い黒色に輝き、手に持つと温かさが伝わってくる。

 強く握り込んでみても、光と温かさ以外には特に変哲も無い石だなぁ。という感想しかわかない程度の石ころ。


 「何か使い方とか……──消えた……?」


 きょろきょろと視線を周りに向けてみても、見える範囲に男は居なかった。

 スキルか魔法か、ゲームの世界なのだから一瞬で消えたとしても可笑しくはない。

 それか、石を受け取るとイベントが進行して男が消えるのかもしれない。


 「先に遺跡、かな」

 どちらにせよ石があれば遺跡の場所がわかる、という情報しか与えられなかった以上はここで考え込んでも、男を探しても意味は無い。


 踵を返して門に向き直る。

 相変わらず遅すぎる足に、気持ちだけ足取りを早めた。




 

 途中途中で他のプレイヤーに追い抜かれつつ、ようやく門に辿り着いた。

 落とし格子の上げられた門の左右には警備を担う門番が二人、門の先には平原が広がっている。


 「外に出るのなら、十分に用心するんだぞ、最近はモンスターが活発になってきてるからな」


 声をかけてきた門番の一人に私は軽く頷き、門をくぐる。


 瞬間、街の喧騒が遠ざかり、静寂が訪れる様な感覚。

 足元の石畳から、柔らかな草原の感触に変わり、新鮮な空気が鼻を抜ける。


 「これが街の外、戦闘フィールド……」


 草を踏む感覚と、揺れる草が足に触れる感触。

 目の前には広大な平原が広がり、遠くでは小さなモンスターへと火の玉を繰り出して攻撃するプレイヤーが見える。

 ゲーム内とは思えない様なリアリティとゲームにしか存在しない異世界感。

 

 街中でも十分に感じてはいたが、外に出て改めてイデアオンラインの凄さを実感してしまう、これはまさに「新世界」と言っても過言ではない。


 そんな感慨にふけりながらぼぅっと景色を眺めていると、視界の端から丸々とした何かが飛び込んでくる。咄嗟の事ではあったが、私は少しだけ体を逸らして避ける。

 突進を躱されると思っても居なかったのだろう、何かは地面に不時着を決めると、きゅぅきゅぅと鳴き声を上げながらコロコロと地面を転がっていった。


 ぴょこんと二本の耳が反り立つ茶色い獣……多分、これが平原うさぎだろう。

 対して強くもなさそうなモブエネミーだけど、最初の相手にはちょうどいい。


 相手がもごもごと動いているうちに、背負った大剣を構え……る事は出来ない。

 システムの都合で背負っているときは大して重さを感じなかった大剣も、構えるとなると話は別だ。私の身の丈と同じほどの大きさを持った剣、基礎STRが足りない状態では鞘から引き抜くのは重すぎる。


 柄に添えた両手に力を込めても微動だにしない。

 「噓でしょ……?」


 仕方なく、一度鞘に収まった大剣ごと背中から外し、地面に鞘を置いてからようやくその重い剣を引っこ抜いた。

 ──で、構えようと両手に力を込めても大剣の切っ先を浮かせることができず、剣先は地面に沈み込んでいる。

 

 ……それでも、大剣を浮かせて構える事が出来ないだけで、大した問題にはならない。

 剣を引き抜くように体に引き付け、そのままくるりと体を回し、遠心力を利用して横一線に降りぬく。


〈スラッシュ〉


 再び突進してきた平原うさぎを、空中で捉える。

 切断というよりは打撃に近い攻撃を受け、うさぎはたまらずに吹き飛んだ。

 最初にうさぎの攻撃を避けた時よりも豪快に転がったうさぎは、派手に吹き飛んだ割にはダメージを受けていない。


 私の基礎STRは1、装備効果で11、スキルの効果で12。

 大剣から繰り出される強大なスキル攻撃は、見た目からは想像もできないゴミみたいなダメージを与えたに違いない。


 実際、平原うさぎも不思議そうに首をかしげている。


 ──それから二回、三回と叩きつけて、ようやく平原うさぎは力尽きた。

 平原うさぎの死体はきらきらと輝く粒子へと変わり、後にはドロップアイテムの毛皮だけが残されている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ