表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/18

ep.16 PvP

 ウェルテルの提案は悪くない。

 VRMMOをプレイしていれば、いずれPvPイベントが起こり、参加することもあるだろう。

 しかも、暫定トッププレイヤーの彼と戦うのであれば、得られる経験は多い気がする。


「いいけど、ここで戦うの?」


 大通りには多くの人で溢れている……万が一ここで暴れたらどうなるかは、想像に難くない。想像に難くはないが、気になりもする。


「まさか。PvP申請を了承すれば模擬戦闘用エリアに移動する。そこで戦って戦闘を終えれば、ここに戻ってくる」


「丁度人がいるタイミングで戻ってきたら、重なったりして凄い事になりそう」


「流石にそれは無いだろう……とは言い切れないな。僕自身模擬戦闘エリアに入るのは初めてだ、万全を期して表通りは避けておこう」


 合体したりするのだろうか……。

 適当な事を考えつつも、路地裏に向けて歩き出したウェルテルを背後から観察する。片手剣の長さは多分70から80センチ、身長は170以上……リーチは最大でも1.5メートル程、一方私のリーチは……。


 ——考えた所で意味は無い、AGIの差で距離を詰められれば、一歩踏み込めば、リーチは簡単に変わる。今から戦闘だと思うと、ついつい無駄に思考を巡らせてしまう、どうしても私は戦うのが好きみたいだ。


「純粋に楽しんでいる、そんな顔だ」


「美しい神秘的な少女と、どっちがいい?」


「どちらも良いが、今はその顔に惹かれているよ」


 操作パネルがピコンっと音を立てて開かれる。


『〈ウェルテル〉から模擬戦闘申請』


 一旦、保留して大剣を装備……腕に異物が纏わり付く感覚が鮮明に伝わる。


 模擬戦闘申請の許可に触れると、視界が光に包まれた……感覚的にはVRに入るときに似ている気がする。


 アナウンスが響くと同時に視界が開けた。


『模擬戦闘‐ステージ〈フィンヴエイラ・コロッセオ〉

 戦闘終了条件‐プレイヤーの敗北または制限時間

 制限時間‐5分』


 一言で表すなら、荒廃したコロッセオ。

 詳細に語るなら……荒廃したコロッセオ。ありがちな闘技場的なステージに私とウェルテルは立っていた。


「スキルCDは初期状態にリセットされる。18時間CDが残った君のスキルも気にせず使える筈だ」


「それは良いね。お互い全力で、楽しめる訳だ」


 ウェルテルとの距離は10メートルほどで、一気に詰めるには遠い。ゆっくりと円を描くようにウェルテルとの距離を詰める。


「ドキドキするね。君と僕の距離は、正に達人の間合いみたいだ」


 お互いが徐々に狭まる円の淵を歩くように距離を詰めていく。

 〈アストラルコーパス〉だけを使用……まだ手の内を明かさない。


「そうだね……」


 距離は5メートル——先に動いたのはウェルテル。

 片掛けのマント、ペリースに剣先を隠したまま、ショルダータックルの様な動作で距離を詰め、片手剣を突き出す。


 半身を斜めに引きながら避け、無理やりな動きで大剣を振るう……当たったとしてもダメージは大して発生しない攻撃。


 当たれば、ダメージの低さから警戒心を削ぐ。避ければ、警戒心を上げさせて積極性を削ぐ。


「——ギリギリで避けたなら、その先を考えなければいけない」


 ウェルテルが言葉を発しながらも、眼前をぎりぎりで掠めるだけに終わる筈の片手剣が突然、私に向けて振り下ろされる。予期していなかった片手剣の挙動……避けられない。


「スキルの発動は、発声がトリガーだと思っていたけど?」


 地面に打ち付けられて転がる私に対して、ウェルテルが距離を取る。先程の動きは確実に、モーションスキルに違いない。


「詠唱魔法を始めとする発声をトリガーとしたスキル以外は、思考操作が一部適用される……僕はチュートリアルを隅々まで終えるタイプなんだ」


「……初めて知った。私はチュートリアルは全部スキップする派だよ」


 アストラルコーパスのおかげで、ダメージはそこまで無い。それでも、攻撃を受け続ければ、すぐに敗北してしまう。


「模擬戦闘は戦いであっても敵同士という訳じゃない。今は僕が教導者の実践チュートリアルだと思って貰って構わない」


 ウェルテルは相当、自分に自信があるのだろう。

 せめて、どうにかして顔面に一撃お見舞いしたい。


「馬鹿言わないで、チュートリアルはスキップ派っていったでしょ?」


 ふらりと脱力した動きで近寄る私にウェルテルが斜めに片手剣を振り下ろす、狙いは頭…その延長線上、大剣を握った右腕。

 重量負荷を受けた私は大剣を咄嗟に引いて避ける事は出来ない……私が頭への攻撃をぎりぎりで避けると読んだ本命。


 脱力した体をそのままに、崩れ落ちる様に地面に片手を付く。ウェルテルの振るった剣の軌道よりも下、地に伏して避ける。


「ッ!」


 ウェルテルが少し背を屈め、地面ごと掬い上げる様な一閃を私に向けて放つ……モーションスキル。

 私はあえて避ける動作を一切取らずに、ウェルテルに顔を向ける。


「〈カウンター〉」


 私は持っていないスキルをわざと発声する。

 カウンターなんて分かりやすい名前のスキル名を聞いたプレイヤーの行動は一つ。


 ウェルテルはモーションを無理やりキャンセル……当然、それは大きな隙になる。


 思考操作で発動した〈フルスイング〉が、ほぼ四つ足で屈んだまま、片手で握った大剣というバカみたいな状態でウェルテルに迫る。


「〈ガーディアンオーラ〉!」


 大剣はウェルテルの足に当たる直前、何かに阻まれる様な挙動で弾かれるが、ウェルテルは焦ったように距離を取る。


「それは、発声がトリガーのスキルなのかな」


 ゆらりと立ち上がる私にウェルテルの顔から余裕が消える。まずは一勝一敗。


「……思考操作は繊細で難しく、発声操作は確実で簡単。これもチュートリアルの一環だよ、フィーニス」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ