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ep.13 黄金の守護者ウェルテル

 先程通っていた大通りから路地裏を抜けた先の表通りでは、露店は一つも無く、代わりにおしゃれな店舗型の店が並んでいる。


 ウェルテルと歩き出したのはいい物の、私は何処に向かっているのかも分からない為、適当に視線を動かして街並みを楽しんでいた。ウェルテルは自信に満ち溢れた表情で真っすぐと前を見据えている……多分、目的地はちゃんとあるんだろう。


 可愛らしいケーキのイラストが描かれた看板を掲げた店舗の前を通ると、甘い匂いが漂っている。

 つい、足を止めて店内を眺めると、暇そうにしていた店員と目が合う……笑顔でひらひらと手を振ってくれるが、所持金はぴったりと0のまま。


 私が足を止めた事に気が付いたウェルテルは振り返り、私の視線の先に目を向ける。……時間が無い、といいつつケーキ屋の前で足を止めるところを見られるのは少し恥ずかしい。


 視線を逸らして歩き出した瞬間、ウェルテルの掌が私の前に差し出された。


 「ここは僕が出そう」


 そういって店内に歩き出すウェルテルの歩みに、ためらいは無い。

 奢ってもらえるなら私もためらう必要は無い。

 むしろ、魔族を倒しに行くよりも、ケーキ屋に入る事の方が嬉しい。


 


 店内に入ると、暇そうにしていた店員が嬉しそうに駆け寄って席を案内してくれる。暇にしていただけあって店内は他に誰も客は居ない様だった。

 メニュー表を見ると幾つかのお菓子の名前と共に、料金が書かれているが、一番安い物で200レテと、露店の串焼きに比べて少し高めの金額。


 「君が良ければ、これを一緒に食べないか」


 ウェルテルの指指す先には〈ガトー・ド・オルテッサ〉2,600レテと書かれている。オルテッサの部分は兎も角、ガトー・ドはフランス過ぎると、異世界転生だったらツッコみたい名前だが、ゲームならまぁ……。


 というか、多分そこそこ大きなサイズの物だと値段的に察するが、それにしても高い。半分にしても1,300レテ、串焼き20数本分とは恐れ多い。


 「値段なら気にしなくていい。この身なりでレテ無しは箔が付かないだろう? それなりに持っているんだ」


 ……もしかしてイデアオンラインの主人公さん?

 気前も格好も良い。ウェルテルは遠慮も返事もいらないとばかりに、スッと店員を呼び止めて注文を行う。


 ウェルテルが虚空に指先で触れると掌に1枚の大きな銅貨と3枚の中銅貨が現れ、それを店員が受け取って裏手に下がっていく……NPCが操作パネルを……?


 「あの……もしかしてプレイヤーですか?」


 完全にNPCだと思っていた。ついて行けばいい感じにイベントが進行して、ついでにケーキも食べれると思っていたが、プレイヤーだとしたらマズイ。

 意味わからない話を振った挙句に、ケーキを奢ってもらう変人になってしまう可能性がある。


 「君は……いや。君もプレイヤーなのか」


 恐る恐る問いかけると、ウェルテルは茫然と口を開けてたどたどしく答える……喋り方とか、雰囲気とかで完全に騙された……騙されては無いけれど。


 「いろいろと、思い違いが合ったようですね……ケーキ代は、必ず返します」


 「それは気にしなくても良い。食べてみたかったのは本心で、一人で食べるには量が多そうだと思ったのも事実だ」


 「そう……ですか。実は所持金が無かったので助かります……」


 ——ありえないほど気まずい。

 てっきりNPCだと思っていたから、イベントの会話フェーズだと考えて、少し演技掛かった会話をしてしまった。彼も同じだとすれば、申し訳ない。


 「路地裏で会った時、何も言わずに付いてきたから、こちらから話しかけるタイプのイベントNPCだと勘違いしてしまったんだ……すまない」


 「それは……私がコミュニケーションが下手過ぎて話掛け方が分からなくて……ごめんなさい」


 更に気まずい……ウェルテルも気まずそうに視線を漂わせている。


 「あの、私もウェルテルさんがまるで舞台の演者みたいな、雰囲気がすごい世界観に馴染んでいたので、多分NPCかな……という感じでつい」


 「ああ。それは僕が本気でイデアオンラインの世界で勇者を目指している、ロールプレイに倒錯した異常思考の賜物だから、謝るのは僕の方だ」


 凄い真顔でカミングアウトするウェルテルの自虐具合が酷過ぎて反応に困ってしまう。目指したいなら目指せばいいと思うけれど……。

 早くケーキ来ないかな……。


 「……オンラインゲームは結構やった事はあるかな」


 ウェルテルは相変わらず真顔のまま、気まずさを通り越して、妙に緊張感が張り詰めてきた感覚を覚える。


 「ゲームは沢山、オンラインは初めてです」


 「オンラインは初めて……オンラインでのロールプレイヤーについては、あまり知らないという感じかな」


 「ロールプレイ……RPGなら知っています」


 私が答えると、ウェルテルは少し黙り込む。

 丁度店員が運んできたケーキがテーブルの真ん中に置かれ、私とウェルテルの前にそれぞれ小皿が配られる。


 「ロールプレイヤーは、ボードゲームとか、人狼ゲームで村人と狼に分かれた陣営がそれぞれの役割演技を行う事と似ていて……僕はイデアオンラインでは勇者としてロールプレイをしているんだ」


 そういいながらケーキを切り分けるウェルテル。

 勇者のロールプレイ……大剣を持った魔法使いが演じるなら何のロールになるんだろうか。


 「僕が物語の主人公なら、ここらへんで回想を挟んでくれればいいのだけど、もしよければ僕の独り言を、ケーキを食べながらでも聞いて欲しい」

一応、恋愛要素は無いです。

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