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ep.12 五人の英雄

 森から街へ戻る道中、見慣れたウサギやゴブリンの他に、トカゲやイノシシなどの初めて見る敵とであったが、新しい装備やスキルを手に入れた今となっては戦いにもならない。


 少しでも経験値やアイテムを集めようかと思っていたが、経験値が得られないと気付き、武器を外して町まで走ることにした。

 実績のステータスボーナスでAGIが上がった今、武器を外せば森から街までの距離もすぐに走り抜けられる。


 門を通ろうとしたところで、門番に声をかけられる。

 外へ出た時と同じように、全員に声をかけているのだとしたら、律儀な事だと思うが、前回とは違い、どこか物々しい雰囲気を醸していた。


 「無事で何よりだ、冒険者……周囲のモンスターが活発になり過ぎている。戦闘に自信が無ければ、しばらくは街でゆっくりするといい」


 門番に軽く会釈をして横を通り過ぎる。

 結界云々やグランドなんちゃらの関係だろうか、街中は少し騒がしく、NPCやプレイヤーと思しき人々が忙しなく動き回っていた。




 忙しなく動く人込みに紛れて大通りを歩いていると、装備していた〈黒魔石のブローチ〉からじんわりとした熱が伝わってくる。

 この近くに何かがあると示しているのか、それとも他に何か意味があるのか、〈黒魔石のブローチ〉は仄かに光っている様に見えるが、特にそれ以外には何の動きも起きない。


 きょろきょろと視線を彷徨わせると、丁度大通りから路地裏に入っていく男性が目に付いた。特に変な動きでも雰囲気でもなかったが、胸元に着けられた金色の宝石で飾られたブローチが、私のもつ〈黒魔石のブローチ〉と同じように淡く光っている様に見えた。


 勘違いかも知れないが、どちらにせよ人の溢れた大通りを歩くよりも、人の少ない路地に入った方が面白い情報を手に入れられるかもしれない。


 少し小走りで路地に向かうと、男性はゆっくりと歩いている様子で、「路地に入ったら男性は居なかった」なんて展開は無いようで安堵する。


 少し早めに歩いて男性との距離を詰めつつ、声をかけるタイミングを模索する。

 ……男性に声をかけること自体、人生でほとんど経験がない。緊張で手汗が滲み、心臓の鼓動が速くなるのを感じる。

 そもそも、相手がプレイヤーなのか、NPCなのかの判別方法も正直分かってない。


 NPCなら突然声をかけても問題ないと思うが、オンラインゲームで他プレイヤーに声をかける時、どういう雰囲気で行ったらいいのか分からない。


 気が付けば、少し手を伸ばせば届くくらいに距離を詰めてしまっていた……無言で背後から迫って来る不審者に思われて無いだろうか。

 

 少し歩く速度を落として、彼に合わせる。

 「こんにちは」とか「ちょっといいですか?」でいいのだろうか、背後数歩の位置をぴったりくっついてくる奴が突然話しかけてきたら、嫌な顔をされないか不安だ。


 …………めちゃくちゃ気まずい。

 しばらく付いて回ったせいで今更突然話しかけるか?という葛藤と、何やってるんだろう、という恥ずかしさが迫って来た。

 もういっその事、このままついて歩いていれば相手から話しかけてこないだろうか、流石に私に気が付いているだろう。


 心の中で「気が付いてますかー。話しかけて欲しそうな女の子後ろに居ますよー」と念じる……、まさか本当に見えてないとか、気が付いてないのだろうか。

 それか、ここまで無反応なのは単純に、彼がNPCで私から話しかける事でイベントが進行する……?


 「君は、何を求めてここまで来た?」


 「ッ──気が付いていたんですね」


 話しかけるぞ。というタイミングで結局相手から声を掛けられてしまった……咄嗟に返事をしてしまったが、こんなに付きまとって、相手が気が付いてない訳が無い。


 「……。いや…そうか。君は、僕自身を求めてここに来たという事か」


 そういって振り返った男性の胸元には、私の持つ〈黒魔石のブローチ〉と殆ど同じ形をした金色のブローチが付けられている。

 プレイヤーかNPCか分からなかったが、話し方や雰囲気から、彼はグランドクエストに関連するNPCなのだろう。


 「五人の英雄、〈オルテッサの結界〉を知る人を探していました」


 私が〈黒魔石のブローチ〉を指さすと、彼も同じように自身の金色のブローチに触れる。前回のグランドクエストでは情報が無いまま魔導士ハヴォイナとのイベントを進める事になってしまった、今回はしっかりと会話フェーズを進めなければ。


 「僕は、黄金の守護者ウェルテル。まずは、君の名を聞きたい」


 ウェルテルの見た目は金の刺繍を散りばめたサーコート的な服装に片掛けのマント…ペリースだったかを付けた、金髪の好青年。

 ファンタジーでよくみる、若いのに軍のお偉いさんになった貴族の青年といった雰囲気を感じる……。


 「私はフィーニス……黒の魔導士フィーニスです」


 私の名前を聞いたウェルテルはゆったりと腕を組み、片手で口元に触れる。

 警戒か思案か、ともかくクエストの情報を引き出す必要がある。


 「じきに魔物の侵攻が始まります、ですが、そもそもの根本を絶たなくてはならない、そうですよね?」


 全プレイヤー共通のクエスト〈オルテッサの脅威〉は侵攻からの防衛、英雄に関連したプレイヤーには〈オルテッサの結界〉という侵攻に対する根絶が求められる。

 まずは事実の確認と、根本の脅威の認識が必要。


 「ああ。この街の民が街を守る間に、我々英雄がその根本……魔族を討伐する必要がある」


 ……魔族。ファンタジー系のゲームならそこそこありがちな設定だ。

 街を魔族が襲い、英雄は結界を張る事でそれを凌いだ……かつての英雄では勝てなかったのだろうか。魔導士ハヴォイナの強さを考えると、彼レベルの英雄が5人いても勝てなかったのだとすれば、このグランドクエストは無理難題に近い。


 「魔族は大きな脅威です。貴方の──黄金の守護者ウェルテルの考えを聞かせてください」


 無かったらせめて敵の場所だけ聞いて、突撃しかない。


 「……策は無い、時間も、情報も無い。かつてオルテッサを覆った結界は、黒の魔導士ハヴォイナによって創られた強大な魔法だったが、君は……黒の魔導士フィーニスは結界を張る事は出来るか?」


 ……特大のやらかしを決めているのかもしれない。

 適当にイベントを進めてハヴォイナを倒したせいで、オルテッサの街がヤバい。


 「過去の英雄は結界を使って街を救いましたが、問題は先延ばしにしかならなかった……私たちは維持するのではなく、私たちが進むべきだと考えて居ます」


 取り合えずそれっぽい言葉で適当に、結界云々辺りは全部うやむやに誤魔化して話を進める方向にもっていく必要がある……過去より現在を考えようムーブは無責任さえ隠し通せば、さも最良の正論に早変わりだ。


 「進む時が来た……か。こうしている間にも時は進んでいる。民が平穏を維持し、創り上げた時間を僕達英雄が進むべきだと」


 ──多分、いい感じに誤魔化した。

 適当に言ってみた言葉だが、ウェルテルの見た目で言葉にされると、いい感じの言葉に聞こえてしまうのが不思議だ。


 「過去の英雄が遺した時間を、これから創られる時間を、進むことで私たちは新たな英雄になるのです。壁は破られたのではなく、私たちが進むべき道が開かれたに過ぎません」


 だから結界はいらないよね。という言葉は飲み込む。

 

 「ならば、もうここで止まっている時間は無い

 ──進もう、黒の魔導士フィーニス」


 そういって体を翻す彼の横に並ぶように足を進める。

 路地裏に差し込む光を受けたウェルテルが表通りへと歩みを進める姿はイベントスチルの様な格好良さを感じる。


 ……また適当に話を進めた所為で、何も分からないままイベントが進んでいく不安感はそっと胸に仕舞い込んでおく。

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