表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

ep.11 グランドクエスト-3

 広間の壁に縫い付けられたハヴォイナは腹部を抉られたまま、痛みに耐えるように顔をゆがめ、ゆっくりと顔を上げた。


 「ああああぁぁぁ!」


 広間に響く痛々しい叫び声は……私の声。

 イデアオンラインに搭載された痛覚の再現は、瞬間的に十数回も死ぬほどのダメージを受けた私の脳裏にバチバチと閃光を灯して、全身に痛みを伝搬させた。


 視界におびただしい数の、赤色で警告を示すパネルが現れ、その圧倒的な数に息を呑む。

 ここで気を失うか、拒絶反応を体が示せば強制的にログアウト処理が行われてしまう。そうなれば、この一連のイベントがどう処理されるかわからない。


 「ログアウトは……しませんよ」


 宙に浮かぶ警告パネルを払い退けると、ハヴォイナと視線が交わる。ハヴォイナの表情は見えないが、既に抵抗はしない様で、大人しく壁に張り付けられたままだった。


 それでも、戦闘もクエストもまだ終わっていない。


 荒い呼吸をゆっくりと整える。もし涙や汗、鼻水が再現されていたら、顔はぐちゃぐちゃになっていただろう。


 幸い、欠損表現や流血表現が存在していない為、痛覚フィードバックによる痛みは長くは続かない。

 すぐにとは行かなかったが、十分に落ち着くことが出来た。

 視界を所狭しと埋め尽くしていた警告パネルも全て消えている。


 どさっ。という音と共に、ハヴォイナを壁に縫い付けていた大剣が消える。所有権を保持したまま手を離れたアイテムがインベントリに自動的に仕舞われたのだろう。


 私がゆっくりとハヴォイナに向けて歩みを進めていくのを、ハヴォイナは壁に背を預けたまま、ただじっと見つめている。

 私が広場の中心に置かれた石棺を越えたあたりで、黙り込んでいたハヴォイナが口を開いた。


 「……君は、リヴィディナでは無かった」


 少なくとも戦闘フェーズは終わったようで、ハヴォイナの生気を失っていた瞳には、強い意志を示すような光が戻っている。


 「リヴィディナさんはきっと、大剣なんて使わなかったでしょうね」


 私がそういうと、ハヴォイナはくすくすと声を漏らして笑うが、瞳に悲しみが差し込むように表情が揺らいだ。


 「そうだな。私はどうかしていたんだ、リヴィディナは私が殺してしまった……娘にはもう二度と会えるはずも無い」


 私はゆっくりと彼に近づき、ハヴォイナの前に立つ。ハヴォイナは穏やかな表情で言葉を続けた。


 「戦っている時の顔は魔族と見違えるほど恐ろしかったが、今の君は、少しリヴィディナに似ている。その服も似合っているよ」


 「返しますよ、娘さんの大切なお洋服ですから」


 服も髪飾りも、このブローチも、ハヴォイナとリヴィディナの大切な思い出の欠片に違いない。私はメニューを開いて装備画面を表示させる。


 「いいや。君が嫌じゃ無ければ、そのまま使ってくれ。俺の時間はもう長くない、時が流れて朽ちるよりも、誰かに使ってもらった方がいいだろう」

 

 「そうかもしれません……でも、ただの装備ではなく、貴方と娘の思い出が詰まっている筈です」


 私は装備メニューから眼を離し、もう一度ハヴォイナを見つめた。彼の身体は青白く光り、全身の至る所から光の粒子が零れ落ちて、徐々に消えていくのが見える。


 「俺は一度、リヴィディナを故郷に置いて行ってしまった。あの時、連れて行ってあげたなら、結末は違ったのかも知れない。──どうか娘を、見果てぬ旅の先へ連れて行って欲しい」


 「……それなら、貴方も共に」


 ハヴォイナは既に体の殆どが消えかけている、それでも彼に向けて手を伸ばす。辛うじて形を保ったハヴォイナの腕が、私に触れると同時に、私の身体が青白い光に包まれる。


 「君は、優しいな」


 ハヴォイナはそう言って微笑んだ。同時に彼の全身が光の粒子へと変わり、呆気なく、世界から消えていった。


 残されたのは、広間の静寂だけだった。



 『グランドクエスト〈ハヴォイナの導石〉を終了しました。報酬として、スキル〈ディプラヴィティ〉を取得しました』

 『グランドシナリオ〈五人の英雄〉進行度5/5──各グランドクエスト参加者は新規グランドクエスト〈オルテッサの結界〉を開始します』

 『実績〈黒の魔導士〉〈限界突破〉〈限界超過〉〈乾坤一擲〉〈断機之戒〉を開放しました。スキル〈断機之戒〉を取得しました。レベルが19に上がりました』

 『〈イベント装備:少女の遺装シリーズ〉が〈ユニーク:少女の魔装シリーズ〉に進化しました』

 『〈堕落の魂石〉を入手しました』



 『──イデアオンラインをプレイ中の皆様、現時刻をもってイデアオンライン:ワールドチュートリアルを終了します。オルテッサの街を覆う結界が解除され、地上エリアが全開放されます。また、制限されていた一部機能につきましても開放されています。詳細はメッセージまたは公式ホームページをご確認ください。引き続き、この広大な世界での冒険をお楽しみください』


 『──イデアオンラインをプレイ中の皆様、第一回イベントの開催をお知らせいたします。第一回イベントは全プレイヤー協力型防衛イベントになります。詳細はメッセージまたは公式ホームページをご確認ください』

 

 『全プレイヤーにグランドクエスト〈オルテッサに迫る脅威〉を開始します』

 


 また凄い沢山の情報が流れ込んで来た。

 取り合えず街に戻りつつ、色々と確認しておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ