Eメール
送信日時:2001/12/21
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:返事が欲しい
暁月
お前がメールを見ないというのは知ってるが、お前が行きそうな所は全部回って、知人全員に聞いたが、お前の行方がわからないから、ダメ元でメールする。
読んだらすぐ連絡をくれ。
待ってる
泰山
***
送信日時:2002/01/20
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:返事しろ
暁月
どこにいる?
ちゃんと食べて寝てるか?
このメールみたらすぐ連絡しろ。俺のピッチの番号知ってるだろ。
いつも懐に大事に入れてるその手帳に書いてある11桁の番号だよ。
泰山
***
送信日時:2002/02/11
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:返事が欲しい
暁月
元気か?ちゃんと屋根のある所にいるんだろうな?
俺は今日、秋分社に行ってきた。
お前が家出したって言ったら栗田さんびっくりしていたぞ。
なんも言わずに、ちょっと筆を休めるって言ったって?
お前な、ちょっと本が売れてきたからって、そうやって調子に乗ると世の中からすぐ忘れられるんだぞ。
とにかく返信しろ。
栗田より先に俺だ。
泰山
***
送信日時:2002/03/10
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:返事!
暁月
まだメールを見ないのか?
見たらなんでもいい、返事をしろ。
あ、とか、い、とかでも良い
良くはないが、まあ、良い。とりあえず。
生存確認がしたい。
泰山
***
送信日時:2002/04/30
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:いい加減にしろ
暁月
おい、春が終わるじゃねえか。
一体ぜんたいどこをほっつき回ってる?
俺だってそうそう暇じゃねえんだぞ。お前を探してばかりいられねえんだ。
お前は俺の仕事の邪魔するの嫌がってただろ。返事しろ返事!
泰山
***
送信日時:2002/07/30
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:あの猫
暁月
お前の行きつけの喫茶店、神保町の古書店、カレー屋、地下にある紅茶専門店、西日暮里の歩道橋、好きだった道灌山の階段、階段上がって左に曲がったとこにいる猫のとこ、全部何度も行ったがお前はいなかった。猫に至っては、猫も居なかった。
そんでな、行きそうにないとこに行こうと思ってな、逆に。最近流行っててお前が嫌いそうな言葉を使うがな。逆に。
完璧に思いつきだが、丸藤に行ってきた。
あの辺りには不思議と仕事でも縁が無かった。十年ぶりくらいか?驚いたよ、全然変わってて。
結論から言うと、丸藤はもう無かった。
今はでかいマンションが建ってる。
丸藤は随分前に取引先の倒産の煽りを受けて連鎖倒産したらしい。
あの辺りの不動産の登記を取り寄せたが、全部債権者に取られてたよ。
丸藤にいい思い出はあまりないと思っていたが…なくなってみると、なんというか、うーん。
お前のように文才がないから何と言うべきか思いつかん。思いついたら、またメールする。
丸藤の妻名義でマンションを一個見つけたから、今度暇つぶしに行ってみるかね。
お前は絶対いないだろうけどな…。
泰山
***
送信日時:2002/08/12
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:丸藤続報
暁月
丸藤の社長に会ってきた。
あるわけないけどお前が会いに来たか聞いたが、会いに行くわけないな。
あんなやつの話はお前の耳には入れたくないが、あいつ、なんか小さくなってたぞ。持病があるようだ。
顔色が黄色かった。
今ならお前でも勝てそうだ。
あいつには恩もあるが、恨みが勝る。
暁月、メール返してくれ。苦手なら電話でもいいんだ。手紙でもいい、お前のお得意の。お前のあのキッチリした綺麗な字が見たい。
住所、変わってない。この意味わかるか?
泰山
***
送信日時:2002/09/11
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:連絡ください
暁月
どこにいる?
元気でいるのか?
連絡が欲しい。
会いたい
泰山
***
送信日時:2002/9/12
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
俺のメールを見てないのか、見てるが無視してるのか?
見てないんだよな?
泰山
***
送信日時:2002/9/12
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:おい
わかったぞ…
お前、返信の仕方がわからねえんだろう。
右上か右下に矢印があるだろう、そこをクリックするんだ。
カチカチッと押すんだ。
それで、本文を書いて、いや最初は書かなくても良い、送信ってボタンをクリックするんだ。
やってみろ
泰山
***
送信日時:2002/09/16
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:開封
暁月
わかった、お前がどうしてもメールを返したくないと言うなら、このメールの、多分右上とかに「開封確認」というところがあるだろう。それをクリックしろ。
泰山
***
送信日時:2002/10/01
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:実は
暁月
白状するが、
実を言うと、とっくに手紙を読んだんだ。
どうやってあれを見つけたか、わかるか?
俺がお前からあの話をされて、動揺のあまり無言で逃げ出して、帰ってきてお前が居なくなってるのを知って、またその足で近所や駅を探し回った。
それでも見つからなくて、帰ってこなくて、俺は気狂いみたいになって、この部屋で熊みたいに暴れたんだ。
テレビを蹴って(割った)、押し入れを蹴って(破いた)、冷蔵庫を倒して(壊した。氷が作れなくなった)、本棚を引き倒して。
下の階のイライラさんから苦情が来たよ。
怪我もしたんだぞ…。
そんで引き倒した本棚の本から落ちたお前の手紙を見つけた。
それで、話がしたいんだよ。
泰山
***
送信日時:2002/10/26
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:頼む
暁月
お前が今も、どこかで震えてるような気がする。
探しに行ってやるから、居場所を教えろ。
どこにでも行ってやるから。
眠れないんだ。
泰山
***
送信日時:2002/11/02
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:返事
暁月
どうしてって、お前、書いてただろ。
お前が丸藤のに追い出されたときさ。
俺からすれば、なんでそんなこと聞くのかがわからねえ。
俺が生意気やって、丸藤の当時の番頭、あいつ名前なんだったかな、俺らがこっそりデカブツ猿って呼んでた奴、あいつとあいつの腰巾着にボコボコに殴られてヤられそうになった時に、助けてくれたのはお前だっただろう。
お前が、俺がまるで丸藤の落胤みたいに仄めかして、代わりにヤらせてやるって事も無げに言ってさ…。思い出したくないだろうけど、俺は忘れられないんだ。あの時、お前がヤられてる横で、布団に包まって震えてた俺は、誰よりも下衆だった。
それなのに俺は、礼も言えなくて…。
礼どころかお前に酷い言葉を言った。
淫売だなんて、母親に言われたときはどんな大人が相手でもブチギレてた言葉なのに。
忘れてるなら思い出して欲しくないが…。
嫌な話を思い出させた。
会って話したい。
暁月、頼む。
泰山
***
送信日時:2002/12/09
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
一年、もう一年だぞ!
お前というやつは、いつまでパソコンや携帯電話という文明の利器から逃げ続けるつもりなのだ。
それとも俺にあくまで連絡を取らないつもりか?
勝手に出て行って、連絡もしねえ。そんな不義理な奴だったか?
俺がこの一年、どんな気持ちで過ごしたと思う?どんだけ歩き回ってると思う?
それなのにお前というやつは、勝手に自己完結して俺を捨てたんだ。
お前なんか大嫌いだ。
泰山
***
送信日時:2002/12/10
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:ごめん
暁月
大嫌いと言ったのは嘘だ。
Eメールは便利だが、送ると取り返しがつかないのが玉に瑕だ。
いや、俺は思ったことを軽率に口に出しすぎるとよくお前に叱られたっけ。
口に出した言葉も、取り返しがつかないもんなあ。
昔な…。お前に淫売と言った時、言った瞬間に俺は後悔した。
でもお前が、怒りもせずに「だったら?」と言ったので…
なんだか、謝れなかったんだよ。
その日からずっと、謝ろうと思ってお前に近付くんだけど、結局お前の仕事を邪魔してしまって、お前に余計に嫌われてさ。
手紙には、「仲が悪かった」と書いてあったが、俺は少なくとも途中からは、そんなつもりはなかったんだ。本当だぞ。
俺の母親が佐倉重工の会長の愛人だってのは知ってるだろう。
いや、社名までは言ったことなかったっけ?
咲く咲くさくら、佐倉咲く〜の、あのCMの佐倉だよ。
俺は丸藤に行くまで、そりゃあ贅沢に生活していたんだ。
お手伝いさんもいてさ、欲しいって言ったら何でも買ってくれてさ。
母親は、なんかいつもボーッとしてた。俺の母は、芙美子っていうんだけど、佐倉で働いてた平社員の妻だったんだよ。
それが懇親会だかなんかで急に会長に気に入られて、攫われるように離婚させられて、囲われてさ。
俺は時期的にどっちの種かわかんねえらしくて、それもあってか母親は俺には殆ど見向きもしなかったな。兎に角いつもボーッとしてた。俺の記憶だと。
その母親が死んだ時はそりゃ俺も一応悲しかったけどさ、その途端に優しかった大人達が母を「淫売」とか「娼婦」とか言い出して、父親に捨てられて、あんな狭くて臭い雑魚部屋で寝起きさせられて、お前のいう通り俺は激怒してたんだ。
お前のことは、いや、あそこにいる人間全員、俺は最初見下してた。
特にお前は、俺と同い年だと聞いて驚いた程体も小さくて、細くてさ…。
皆の言いなりにハイハイって動いて、本宅の家政婦にさえ良いように使われている。
丸藤の……お気に入りだと聞いた時は、確かに軽蔑したよ。
でも、奥さんに見つかって折檻を受けて水を掛けられて真冬に追い出されてさ…そりゃないだろうって、俺は怒ったんだ。
あんなに小さいやつを思うままにしといて、露見したら「あいつが誘惑した」って…母親が死んだ途端家に来て骨壷を割った叔父にそっくりだと思った。
そう思ったら、俺も、同じだと思い当たったんだ。
お前に庇ってもらったのにお前が俺より弱いからって八つ当たりして、俺は、卑怯だった。
だから礼は、いらん。
とにかく俺は、お前に謝らなければとずっと思ってた。
直接謝りたい。伝えたいこともある。
返事くれ。
泰山
***
送信日時:2003/01/01
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:新年だぞ
暁月
明けまして全然おめでたくねえ。
今年もよろしくしに帰って来いよ!
お前も俺も実家はねえんだ。ここに帰って来るしかねえんじゃねえか?
今年もよろしく(俺は礼儀知らずじゃない)。
泰山
***
送信日時:2003/01/01
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:実家
暁月
実家で思い出した。
夏頃に、丸藤のところに行ったと言っただろう。
その時に実は、お前の親のことを聞いたんだ。
消息は丸藤も知らんと言っていたが…。
お前の親、パチンコと馬に狂ってたらしいな。
お前を好きにしていいと、丸藤から10万借りたんだと…。
10万!
俺は頭がどうにかなりそうだったよ。丸藤を殺してやろうかと思った。首を締め上げたら漏らしたんで、我に返った。
暁月という名は、親が馬から取ったんだってお前は笑ってたよなあ。
それにしちゃあ気取った名前で好きじゃないのだとも。
でも俺は、お前の名前はお前にピッタリだと思っていた。
章を尋ね句を摘み雕虫に老ゆ
暁月簾に当たりて玉弓を挂く
見ずや年々遼海の上
文章何処にか秋風を哭さん
お前の名前を珍しがった夜学の教師が教えてくれた漢詩、お前は覚えているだろうか。
戦乱の世を憂いて、自分の詩に何の力があるのかと簾から漏れる暁月の光を浴びながらふと思う…
みたいな意味だったかな。
あの漢詩は絶望の詩だったかもしれないが、俺は、簾から漏れる暁月の光はさぞ優しかろうと思ったもんだ。
お前の親が、親だろうと、俺の暁月にしたことを俺は許せない。
いなくなって一年過ぎた。
そろそろメールを見る頃合いじゃないのか?
俺はその時を今か今かと待っている。
泰山
***
送信日時:2003/02/21
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:ニュース
暁月
今日はすごいニュースがあるぞ!
実はさ、今日、佐々重さんに会いに行ったんだ。
そう、あの佐々重さん。
そうしたらそこに誰がいたと思う?麗子さんだよ!
あの二人結婚してたんだ!
びっくりだろう。
俺はびっくりしすぎて飛び上がった。事前に電話した時は何も言わないんだもんな。
なんでも、シェアハウスを出たあの後偶然、同じ職場に勤めたらしい。
佐々さんが就職したメーカーに、麗子さんも事務で転職してきたんだと。
偶然って言ってるけど、ちょっと怪しいよな。
麗子さん、策士っぽいもんな。
子供も二人産まれててさ。
佐々さんそっくりの男児二人だよ。
佐々さんそっくりなのに、可愛かったよ。
佐々さん、あの西日暮里のシェアハウスで、最初お前を見た時は男か女かわからなくて、「お嬢さん」って呼んだんだって?
そしたらお前にいきなり金玉握られて、痛くて死ぬかと思った…って、お前そんなことしてたのかよ。
通りで佐々さん、ちょっとお前のこと警戒してたわけだ。
あれは揶揄ったんじゃなく本気でどっちかわからなかったんだ、って言い訳してたけど、それ言ったらお前は余計怒るだろうなあ。
お前の綺麗な顔、俺は好きだったけどな。
お前を見てると誰にも、それこそお前が言ってた金や権力や暴力にも、汚せない美しさというものが存在するのだなという気がしていたよ。
お前は自嘲してたけどさ、お前を汚したつもりでいた男達は一点の染みもお前に付けることはできなかったんだと思う。
話が逸れたな。
佐々重夫婦の住所を許しを得て下記に記す。
手紙なり、電話なり、してやれよ。
会いたがってたぞ。
もちろん、俺にメール返すのが先だ。
泰山
***
送信日時:2003/02/25
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:佐々さん
暁月
忘れてた、なんで佐々重さんらに会えたかって思っただろ?
実は、結構前にシェアハウスにも行ったんだ。あそこに至っては更地になってたからお前には何も言わないでいたんだけどさ。いや、言ったっけ?まあいいや。
オーナーに電話してみたらまだ電話が繋がって、適当に話繋げて、世間話してたら、佐々重さんから未だに手紙が来るって言っててさ。住所聞きだしたの。
こういうのも、個人情報保護法だかが成立すると厳しくなるんかねえ。まあ我が社は、顧客の情報管理はとっくに厳重管理するようにしてるがね。
ちなみにオーナーはお前からの手紙は来てないとさ。
世話になったんだから、手紙くらい送ってもいいんじゃないか?
まあ俺を差し置いてあいつに送ってたら俺は暴れるけどな。
もう出なきゃ。またな
泰山
***
送信日時:2003/03/01
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:小野と子安
暁月
どうしてるんだ?
元気でいるんだろうな?
最近、お前が見込みがあると言っていた、小野と子安を昇進させて、エリアマネージャーなんつうのにしてみたよ。
存外、喜んでたな。
調子に乗って役職手当も付けてやったら俺に一生付いてくってさ。
一生付いてきて欲しいのはあいつらじゃないけど、まあ悪い気はしないよな。
お前が言ってたから、産休育休も整えたよ。ところが小此木さんに「子供作っていいよ」って言ったら空気が凍った。
完璧言い方間違えた。流行りのセクハラになるところだった。
でもさ、小此木さんちょっと目ぇ赤くしてた気がするわ。妊娠したらクビかと思ってたんだって。悪いことしてたなあ。
暁月先生の新刊はまだかよ
お前は仕事サボりすぎだよ
泰山
***
送信日時:2003/04/05
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:くんせい
暁月
疲れた。
昨日は取引先の社長と会食だったんだが、二軒目に行ったキャバクラで榎本社長に出くわしてしまった。
そう、優香里さんの親父さんだよ。
会えたら言おうと思ってたんだけど、優香里さんと結婚するのは止めたんだ。
(なんでかって、気になるならすぐ連絡してこい)
だからもう滅茶苦茶嫌味言われてさ…
俺が悪いから仕方ないんだけどな。
取引先の社長は俺がやり込められてるもんでゲラゲラ笑ってさ、飲め飲めって二人から飲まされて…。
久しぶりにベロベロに酔ったよ。
気付いたら三角公園で寝てたからな…。
まだ身体から燻製の匂いがする。
なんで燻製の匂いがするんだろう。ウィスキーのせいか?
家に帰ってお前が居ないのが寂しいよ。
俺は未だにあのボロアパートにいるんだぞ。
泰山
***
送信日時:2003/04/06
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:取り急ぎ
暁月
おはよう
もう昼だが今起きたからおはよう。
昨日の話だけどな、キャバクラは行きたくて行ったわけじゃないからな。
ただの付き合いだから。お前が多分想像したような、いかがわしい場所とも違うから。
もう行かなきゃならん、
早く連絡くれ
泰山
***
送信日時:2003/06/17
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:雨
暁月
おい、夕立だ。
先月気まぐれに外に干したワイシャツたちを取り込むのを忘れてて、ビチャビチャに濡れてるのを今、見ている。
また晴れて、乾いたら取り込んでいいかな。もう一回洗った方がいい?
お前はどんだけ集中してても、洗濯物干してて雨が降ると鉛筆放り出してベランダに走ってったよな。やっぱり雨水に晒さない方がいいのだろうか。
くだらないメールを打ってしまったが、送る。この雨じゃ、お前だって家に居るだろう。
それとも、お前の今居る場所の天気は違うのか?
泰山
***
送信日時:2003/08/12
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:泰山だ
暁月
まだメールを見てないのか?
俺のメールが全部迷惑メールになってるんじゃないだろうな…。
俺は、
お前の手紙を毎日読み返している。
結婚も止めて相手探しも辞めたら、時間が結構出来てな。
お前が居た時に早くこうやって時間を作って、二人でどっか行ったら良かった。
でもいつだったか二人で東京タワーに行ったっけな。
お前が珍しく、「愚民共を見下ろしに行こう」なんて言って…。なんのことかと思ったら東京タワーとは、恐れ入ったよ。笑っちまった。
二人で階段、アホみたいに笑いながら登ったよな。展望台の景色よりも、途中の階段でお前が「なんでエレベーターに乗らなかったんだ」って百回くらい言ってたのを覚えてるよ。
あの時、俺が…優香里さんにプロポーズしたすぐ後だったよな。
あの時から出て行くことを考えてたのか?
お前が考えてたことを知りたい。
連絡くれ
泰山
***
送信日時:2003/10/05
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
寒くなってきたな。
お前、今どこにいる?
寒がりだから北には行ってねえと思うけど、どうかな…。
泰山
***
送信日時:2003/10/08
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:顛末
暁月
言おうか迷ったけど、言っといた方がよさそうだ。
優香里さんのことな。
お前がいなくなって、俺は本当に、子安いわく気が触れた熊みたいになって、一か月くらい仕事にも行かずにずっとお前を探し回ってたんだ。
一体全体どうしたんだって優香里さんの親父さんに問い詰められて、俺はその時は、自分が何を言うかわからなかったけど、「最初に優香里さんに話をさせてください」と言った。
それで、優香里さんに会って、生まれて初めて土下座をしたよ。
「婚約解消してください」って言って、理由を言って(理由は会ったときだ!気にしろ)、また土下座した。
殴ってくれと頬を差し出した。
優香里さんは殴らなかった。ただ、「いいなあ」と言っていた。
あの人となら結婚できる、と思ってたわけではなかった。あの人なら我慢できる、と俺は思ってたんだと思う。だけど、その我慢してる俺の横には、ずっとお前がいる前提だったんだ。
正式に婚約解消したのはお前が出てって半年後くらいだったかな。
酷いことをした自覚はあるが、婚約解消を後悔はしていない。後悔してるとしたら、見合いなんか最初から俺はするべきじゃなかったってことだ。
泰山
***
送信日時:2003/11/12
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:冬
暁月
お前が嫌いな冬がまた来る。
今年は暖冬だって聞いて安心してる。
でも、あの夜みたいに寒い日は、側に居てやりてえな。
泰山
***
送信日時:2003/11/25
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
まだメールを見ないのか?
もうすぐ二年だぞ。
なあ、俺、お前に言ってないことがあるんだ。
なんでも言ってきたけど、お前によく「垂れ流し過ぎだ」って言われたけど、これだけは棺桶まで持っていこうと思ってたことがあるんだ。
言ってしまったらお前を失いそうで、ずっと言えなかったことが。
気になるだろう?
連絡してくれ、頼むから。
この俺が頼んでるんだぞ。
毎日お前が帰ってるんじゃないかと、下の角を曲がったポストのとこで部屋を見上げるんだ。
電気が付いてると子供みたいに胸を弾ませてダッシュで帰ってさ…。俺の消し忘れで何度喚き散らしたことか。
秘密を教える
連絡をくれ
泰山
***
送信日時:2003/12/05
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:二年
暁月
二年経つぞ。
俺たちが出逢ってから、今まで、こんなに離れていたことがあったか?
ない!
メールを見てないのか?見てて無視してるのか?それだけでも教えてくれねえか?
泰山
***
送信日時:2003/12/30
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:寒い
暁月
お前が好きだったおでん屋が今年も屋台を出してたから、開店から閉店まで見張ってたけど来なかったな。
最初は店で飲んでたけど居座り過ぎて追い出されて、側の階段でずっと座ってたよ。
お前、いつか戻ってくるんだよな?
泰山
***
送信日時:2004/01/01
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
お前の夢を見たよ
お前はどこか海辺のあったかい街にいて、他の男と暮らしてた。何故か可愛い赤ちゃんも抱いてた。
手紙に書いてただろう、「お前が幸せになるのが寂しい」って。
俺もそうだよ。お前に幸せでいて欲しいのに、お前が今俺の知らない場所で俺の知らない男に幸せにされてるかと思うと、大声を上げて窓から飛び降りたくなる。
俺の秘密を言うよ。
俺な、あの夜…、お前が丸藤から追い出された夜、帰って来てからお前の服を脱がせて、風呂炊き直して入れてやってさ。放っとくとお前が気ぃ失っちゃうから、袖濡らしながらお前の身体を支えてやって、傷口洗ってやって
なあ、これで俺を嫌うなんてことはないよな?
本当か?約束しろよ。
じゃあ言うけど、
お前の肌を見て……俺、あの夜から、ずっとお前で抜いてる。
妄想の中で、お前を何十回何百回も抱いたよ。
もしも、お前に「抱いてくれ」って言われてたら、飛び掛かってたんじゃねえかな。なんせ、そういう夢をよく見るから。
お前を襲った大学生を俺はボコボコにしたけど、お前のためじゃないんだ。
俺がお前に他の男の手が触れるのが我慢出来なかっただけだ。
二人で暮らし始めたら益々頭がおかしくなってさ…。
上の棚の皿取るフリして後ろから流しに立つお前を抱き締めたり、酔っ払ったフリしてお前に抱き付いて背中触ったり…。全部ワザとだったんだよ。
あと俺さ、俺、…これも言っても嫌うなよ。約束しろよ。
約束できねえなら読むな。
俺、お前にキスしたことある。
ここで暮らし始めてすぐの冬に、お前が炬燵で寝ちゃって…。
風邪引くと思って起こしたけど全然起きなくてさ。
脇持って炬燵から引き摺り出して抱っこしようと思って、お前を見下ろしたらお前、なんかフッフッフッて笑っててさ。起きたかと思ったら寝ててさ。
そんで…、なんか、ちゅって、した。
唇が柔らかくて…、起きるかもしれない、起きたら一巻の終わりだって、やめようと思ったけど止まれなくて、その後しばらくキスしてた。
そうしたらバキバキに勃っちゃって、慌てて部屋戻って抜いて、もっかい、というか今度こそお前を抱っこしようとしてまたキスしちゃって…。
全然起きねえんだもん…。
その後だよ。遊び半分みたいに色んなとこに声掛けてた見合い、真剣にやろうと思ったの。
いくらなんでも、俺がお前に手ェ出しちゃダメだろって思ってさ。
俺だけは、性欲抜きでお前の側にいなきゃって…。
でも、違ったんだ。
お前の手紙見てわかった。
欲じゃない、愛だったんだ。
ずっと愛だったんだよ。
認める。愛してる。頼むから帰って来てくれ。
泰山
***
送信日時:2004/03/05
宛先:yabunonakanoakatuki@maill
件名:こねこ
道灌山の猫を見つけたぞ。
勝手にウロウロされてお前が帰ってきた時にいなかったら悲しむと思って、追い回したらなんか子供がいた。
子猫って意味な。
アイツ、子猫四匹?五匹くらい産んでたぞ。
子猫連れて帰ったらお前が喜ぶかなって一瞬思ったけど、親子引き剥がしてもいいことないよなあ。
なあ、会いたい。
猫を凝視するお前が見たい。
愛してる。
泰山
***
送信日時:2004/04/05
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:
暁月
気が狂いそう。どこにいる?
俺はどうすればいい?
愛してる。
泰山
***
送信日時:2004/05/03
宛先:yabunonakanoakatuki@mail
件名:3日不在にする
社員旅行で三浦に行く。子安がお前がいるかもだなんて言うからだ。
「なんでそう思うんだ」って言ったらお前の小説に三浦が出てきたことがあったって。
よくよく聞いたらただの海沿いの町の描写だった。適当過ぎるだろ。
でもまあ行くって言っちまったし行ってくる。二泊三日だ、すぐ帰るよ。
どこがノートかっていうこの重たいノートPCも持っていくから、向こうで写真でも送る。
そろそろメールを見ろよ。
愛してる、行ってきます。
泰山
李賀(791-817)
南園十三首 其の六
尋章摘句老雕虫 章を尋ね句を摘み雕虫に老ゆ
暁月当簾挂玉弓 暁月簾に当たりて玉弓を挂く
不見年年遼海上 見ずや年年遼海の上
文章何処哭秋風 文章何れの処にか秋風に哭さん