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4 混乱と喧騒

「あんな事って何?」

 祥ちゃんが少しイラついたように言う。文句ばっかり言ってるけど、前置きって言うか祥ちゃんを責めるだけで何が在ったのかまるで話そうとしないから。

 それでも和ちゃんは言い辛そうに赤く潤んだ瞳を向けている。

 その態度に更にイライラが募ってまた余計な一言を発しそうになった祥ちゃんのセーラーに手を掛けてなだめる様に言う。

「駄目だよ、ちゃんと話聞かなくっちゃ」

「えー、あたしぃ?」

 今のはどっちかって言うと和美の方が悪くない? 肩を引かれて視線を向けた祥ちゃんがそんな風に抗議の声を上げる。

「和ちゃん、どうしたの?ちゃんと話してくれないと判らないよ」

 和ちゃんに視線を向けて出来るだけ優しく言う。

 感情的に突っ走っちゃう和ちゃんと、冷静に理論立てて考える祥ちゃんは色んなところで衝突する。あたしにしてみれば二人とも正しい時も間違ってる時も有ると思うんだけど、二人にとってはいつも相手の方が間違ってるらしい。そんな時、あたしが間に入って仲裁役を務めることも多い。

 あたしには祥ちゃんみたいに理論的に考える事も、和ちゃんみたいに野性の勘で真実を見抜く事も出来ないけど、二人はあたしの平均点以下の脳味噌に理解できるように説明を考える間にお互い自分の意見に有る間違いに気づいたり、実際には殆ど同じ事を主張してたって事がわかったりするみたいで、あたしはふたりの緩衝材として結構役に立っていた筈。この二人が同じ方向を向いてくれればもう事は決まった様なものだってのはこの2ヶ月でクラスのみんなにも解ってた。

「だってさ」

 あたしの言葉に乗っかるように祥ちゃんが続ける。

 今のターンではあたしが祥ちゃんを支持してるって思ってるんだろう。本当はまだどっちも支持してる訳じゃないんだけど、取り合えず祥ちゃんの勘違いはそのままにして置こう。

 あたしの助け舟のつもりの言葉に和ちゃんは視線を動かしもしない。やっぱりあたしには聞かせたく無い話なのかな?

「えっと、和ちゃん言いにくいんだったらあたし席外そうか?」

 その言葉にも和ちゃんは頑なに祥ちゃんに視線を向けたまま、答えようとしない。

「あのさー、和美、話が有るんならさっさと話してよ、美也だって変に気使っちゃってるしさ」

 その言葉に和ちゃんは思いのほか激しい反応を見せた。

「あんたね!何だってそんな平気な顔してんのよ!」

 どんな大事件が起きたのか、和ちゃんの表情は蒼白で、スマホを握り締めた右手が震えてる。

「平気な顔ってどういう事よ?」

 ようやく和ちゃんの様子が普段とは全然違う事に気づいたのか、警戒した表情で祥ちゃんが訊き返す。


「美也が…」

 ようやく開いた和ちゃんの重たい口からは思いがけない言葉が飛び出した。


「美也が死んだってのに!なんでそんな平気な顔してんの!」



 は ? な ん で す と ?



「えー、やっぱり、それ本当?」

「何、じゃあ津村さん知らなかったの?」

 祥ちゃんもあたしも一瞬返す言葉に詰まっている間に、教室の前の方でなにやら話してた文ちゃんと敏恵ちゃんが駆け寄って来て口を開いた。

「夜から掲示板に出てたんだけど、本当かなって話してたんだ」

「でも、津村さん普通だし、デマか何かかなって」

 次々に話しかける二人の相手をしないで和ちゃんは祥ちゃんを見てる。だけど、祥ちゃんは不審そうに黙ったまま和ちゃんと文ちゃん達を睨みつけてる。


 えーっと、みやって誰だろ?あたしの事じゃ無いよね、で和ちゃんがわざわざ祥ちゃんに伝えるってからには二人の知り合いでしょ?2年生の時のクラスメイトの桂木さんは確かみやこって言った筈だけど、和ちゃんは知らないよね、隣町の私立に進学したから中学では会ってないし。それから宮永さんって、桜組だったかなぁ、小学校も中学校も一緒のクラスになった事ないから祥ちゃんは知らない筈だし、和ちゃんも覚えてないかもしれない。

 あ、でも和ちゃんがあたしには何にも話さないのはあたしがその「みや」って人を知らないからかな?二人が良く知ってて、あたしが知らない「みや」って人がどっかに居るのかなぁ?

 なんて、あたしが延々と現実逃避な遠回りをしている間に祥ちゃんは和ちゃんの言葉の意味をきちんと理解していた。


 そして、文ちゃんたちの話もちゃんと聞いたうえで憮然とした表情で言い放つ。

「デマに決まってるじゃん」

 そうよね、デマに決まってる。祥ちゃんと和ちゃんの共通の知り合いで、事故で死んでしまったら平気な顔をしてなんていられないような相手。で名前は「みや」っていう人。そんなの普通に考えたらあたししか居ない。

 でも、あたしは此処に居て、事故に遭ったりなんかしてない。だから、そんな話はデマに決まってる。

 だけど、目の前にあたしが居るのに、和ちゃんはどうしてそんな話をするんだろう。デマだって簡単に判りそうなもんじゃない。

 文ちゃんも、敏恵ちゃんもずーっとあたしが座ってるの見てたのに、何で掲示板に変な噂が載ってるって教えてくれなかったんだろう。


「でも、聞いたのよあたし」

 和ちゃんが食い下がる。

「じゃあ、此処ここに居るのは誰よ!」

 和ちゃんの抗議を断ち切って祥ちゃんはあたしに向けて腕を振る。

 和ちゃんも文ちゃんも敏恵ちゃんも、祥ちゃんの伸ばした腕の行く先を確認するように視線を回す。方向的には確実にあたしの方を向いた3人の視線はあたしを通過して不思議そうな表情を浮かべている。そして呼吸を合わせたみたいに一斉にあたしに向けた視線を祥ちゃんに戻す。

「…誰も、居ないよ」

 代表するように和ちゃんが言う。何で?みんなあたしの方ちゃんと見たのに、全くあたしの事なんか眼中に無いって事?

 何で見えないの?

 何が起きてるの?

「何言ってんのよ!」

 祥ちゃんが立ち上がり、あたしの腕を掴んで引っ張る。

 あたしは、されるがままに引き摺られる様に立ち上がると一歩祥ちゃんに近づく。微妙な違和感、けれどそれが何なのか、判らない。だけど何かとんでもない事が起きてるって事だけは判ったけど、でも何が起きているのか考えたく無かった。

 ううん、考えるまでも無く答えは用意されていたけど、あたしはまだそれを認めたくなかった。

 いつの間にか人数の増えた教室で祥ちゃんは注目を集めてた。もちろん、後ろ扉近くに座る一人の生徒からの視線も立ち上がった祥ちゃんに向いてる。

 でも、そんな事祥ちゃんには関係ない。

「此処に居るでしょ!美也が!」

 祥ちゃんが、祥ちゃんにとっての事実を誰はばかる事無く言い放つ。

 ざわっ。

 教室の空気が一変する。

「ショコ…」

 和ちゃんがゆっくりと視線を回して、祥ちゃんに掴まれたあたしに視線を向ける。

 だけどその視線は確実にあたしを捕らえてはいない。

 あたしをすり抜けてどこか違うものを見てる。

 だけどそれは白昼夢をみてるとか、そんな茫洋とした視線じゃあない。

 授業中でにも見せない本気の真剣な視線。

 やがてその視線を祥ちゃんに向けて、蒼ざめた表情で和ちゃんが言う。

「本気で言ってんの?」

 まるであたしの姿なんて見えなかったみたいな和ちゃんの言葉に祥ちゃんの右腕に思わず力が入る。ちょっと、痛い。

 和ちゃんだけじゃ無い、教室のそこここから囁き声が聞こえてくる。

 それはどれも和ちゃんの言葉を裏付けるだけで、祥ちゃんに味方する声は無かった。

「何よ!みんなして変なこと言わないでよ!」

 不安そうに教室を見回して祥ちゃんが叫ぶ。

「武田さん達まで引き入れて何やってんの!?事と次第によっては本当に怒るからね!」

続きは明日のこの時間に

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