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3 早起きと憤慨

 昨日の夜はあんまりよく眠れなかった。

 うとうとすると、直ぐに―

 それで眼を覚ましては、一人で闇の中で震えてた。

 だからいつもなら目覚ましが鳴っても起きないのに、今日に限ってはちゃんと起きてしまった。

 普段より余裕の有る時間に朝御飯を食べながらやっぱりショコの事が心配になって、だからこうして珍しく―ていうか初めて―迎えに来たってのに。


「え、もう学校に行っちゃったんですか?」

 マンションのエントランスであたし叫んでた。そりゃあ何時だってあたしなんかより全然早い時間に着いてるのは知ってたけど、こんな時にまでいつも通りじゃなくたって良いのにさ。

『ごめんなさいね、わざわざ来てもらったのに…』

 おばさんが、すまなそうに言うのであたしは慌てて言いつのる。

「あ、別に約束とかじゃなくて、あたしが勝手に来ただけなんで、じゃあ失礼します。」

 インターフォンに向かって頭を下げると、学校に向かって駆け出す。

 追っかけて追い付けるのかどうか判らないけど。出来れば学校に着く前に捕まえたいからスマホを取り出してリダイヤルする。

「…お掛けになった電話番号は電源が入っていないか電波の届かないところに…」

 だけど、呼び出し音も鳴らさずに相変わらずのメッセージが流れ出す。聞き飽きた録音メッセージを切るとスマホをスカートのポケットに戻す。

「もう、こんな時に何でさっさと学校に行っちゃうのさ…」

 あたしはいつもと違う通学路をいつもよりさらに急ぎながら悪態をつく。メールもメッセも一切応答無し、通話はずっと同じメッセージを繰り返すばかり。きっと電源を切ったままなんだろう。

 気持ちは判らなくも無いけど、連絡ぐらいは寄越せっての。そのくせ、こっちが心配して迎えに行ってみれば、一人で普段通りに学校へ行ったなんて言われるし。

 何だろう、一人で空回ってるみたいで、無性に情けない気持ちになってくる。


 六月のそろそろ蒸し暑くなってきた馴染みの無い住宅街の中を学校に向かってあたしは早足で急ぐ。

 普段ならまだ家でトーストに齧り付いている時間で、ゆっくりと歩いたって予鈴に充分に間に合う時間だけど。朝錬でもないのにこんなに早く学校に行くなんて前代未聞だ。

 勿論、あたしが早起きするような、もっとあり得ないことが起きたからなんだけど、ううんそれを考えるのは止そう。考えてしまうと動けなくなってしまうから、昨夜と同じに丸まって震えてしまいそうだから。

 バス通りを渡る時に視界の隅に入りかけた花束を思いっきり無視して、あたしは更に速度を上げると夏服の生徒の波に飛び込む。

 いつもより格段に人の多い通学路の平和そうな集団の間を縫うように急いで、丁度ラッシュアワーに差し掛かった昇降口に飛び込むと、乱暴に上履きに履き替え階段を駆け登る。

 五分の早足、駆け足に続いて三階までの階段を駆け上がり、流石に呼吸を荒げながら教室へと駆け込む。

 普段よりも人影の少ない教室―ううん、いつもの登校時間よりも早いからそんな風に思ってしまうだけ。

 そんな、半分より少し多い生徒が揃った教室に普段通りのショコの姿を捉える。

 いや、厳密に言えばお互いに初めて見る夏服で、先週迄の重い冬服とは違って教室も明るく見えるけど。あたしはの心は全然明るくなんか無かった。


「ショコ…」

 あたしは、そんな普段通りのショコになんて声を掛けたら良いのか判らなくなってしまい、そのまま固まってしまう。

「早いじゃん、どうしたの」

 そんなあたしにどういう理由わけか、いつもと変わらない表情を見せる。笑顔って訳じゃない、けど普段だってこいつは笑顔全開ってキャラじゃ無い。どっちかって言えば表情に乏しい―一部例外を除くと。そして、あたしは残念ながら―もしくは幸いにも―その例外には入っていない。だから普段通りの仏頂面があたしを迎える。

「何で…」

 そして、その普段通りにあたしは衝撃を受ける。

「そんな元気なんだったら、何でメール一本くれないの!」

 昨日一日随分心配したのに。返信のないメールを何本も打って、クソ忌々しい録音メッセージを覚えるほど聞かされたのは一体なんだった訳さ。

「元気って…」

 ショコは訳が判らないって表情であたしを見る。仕方なくあたしは怒りの原因の一部を説明する羽目になる。

「電話しても全然出ないし!メールもメッセも一つも返ってこないし、いくらなんでも心配するじゃない!」

 荒々しく教室を横切ってあたしはショコに向かう。

 目を丸くして驚いたようにあたしを見たまま、ショコは何も言わない。何か間の抜けた返事の一つでも返ってくれば更に文句を続けられるのに。黙られてしまうとそうは行かない。

 黙ったまま、ショコはスクールバックを開いてスマホを取り出す。メールや着信を示すランプが点いていないからやっぱり電源が切ってあったんだ。

 案の定、ボタンを操作すると可愛らしい起動音が流れだす。

 暫くペチペチと画面を叩いていたかと思うと急に吃驚びっくりしたようにあたしを見る。

 何だか長く懸かりそうな気配にあたしはスクールバックを机の上に放り出すと椅子を引いて横座りする。

 

 散々待たせた挙げ句、ショコはメッセの並んだ画面を此方に向けて間の抜けた声を出す。

「えーっと、何これ?」

 あたしに向けられた画面には朝御飯前に送ったメッセが表示されている。

『おはよう、落ち着いたら連絡ちょうだい。ショコがそんなじゃ美也も安心できないよ。しっかりして!』

 何って、見たまんまでしょ。

「心配したんだよ、美也があんな事になって、あんたは部屋から出てこないって聞いて」

「聞いたって、誰から?」

 妙な処に食い付いてくる。

「小母さんからよ、全然電話繋がんないから昨日心配になってあんたの家行ったんじゃないの、小母さんだって心配してたんだよ。なのに何よけろっと元気そうにして!」

 こんなに説明してるのに、ショコのバカは何とも形容し難い表情を浮かべて口を開く。

「あんな事って何?」

いかがでしたでしょうか、切りの良いところまで連投していますので引続きご覧ください。

感想お待ちしています。

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