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16 意地悪と初メール

「いや、だって」

 そうあたしは答える、けど美也はふくれっ面であたしを睨んでいるままで、何も言わないでそのままあたしの腕を掴んで立ち上がる。

「だから、なんでよ」

 たぶん傍からみると間抜けな姿なんだろう。あたしは美也に腕を取られて引っ張られるままに教室を抜け出す。

 美也に引きずられるままに渡り廊下に連れていかれる。

 なんとなく、想像した通りあいつが居た。


「…根岸さんがここで待ってろって言うから」

 そんな事、言い訳されなくてもわかってる。

「黒田くん、それに祥ちゃん」

 美也が不意に話始める。

「ごめんね」

 口を挟む余裕も与えずに美也は言葉を続ける。

「二人がこんなふうになったのってあたしの所為だよね」

 何、どういう事?こんなふうって何よ。

「…えっと、悪いけど、何言ってるんだか良くわからない」

 あいつもあたしと同じらしい。良かった一人置き去りって訳じゃなくて。

「4年生の時、運動会の話し合いの時だったよね。あたしが『仲いいね』って言って、それから皆が変な風に囃し立ててそれで二人とも変になっちゃったよね」

 それは、うん、何となく覚えてる。うちの小学校は2年毎にクラス替えが在って、美也とは1年からずっと一緒で、中学のクラスも一緒。で、あいつは3年生のクラス替えで会って、5年のクラス替えで別になった。でもって中学になってクラスに見つけたときは思わず…

 確かに4年の秋に皆に囃し立てられて仲良くなんか無いって言い返して、そんな事してるうちにクラスも別れてあいつとは全然口を利かなくなった。まあ、元から仲良くなんかないけど。

 でも、あの時美也はそんな囃し立てるクラスメイトにあたしと一緒に言い返してくれてたよね?

「あれは根岸さんの所為じゃあ無いよね」

 そう、あたしもそう思う。

「そんな事無いよ、だってあれ意地悪だったんだもの」

 美也は思いがけない事を言う。

「あたし、嫉妬してた、祥ちゃんが易しく説明しなくても黒田くんみんな分かってた。分かった上で反論したり茶化したりしてた。それがすっごく厭だった。」

 だから意地悪したんだって、美也は笑顔で告白する。ってあたしはどんな顔してその告白を聞けば良いわけ?

 そんな憤慨するような酷いことされた訳じゃあないし、別に美也がそんな事言わなくたってどうせ、

「根岸さんが言わなくたって誰かが言ってたさ」

 そう、そうだけど、何であんたが言うの。

「じゃあ、あたしの事許してくれる?」

「許すも何もあんたの所為じゃ無いって言ってるでしょ」

 今度は先を越されないようにあたしは慌てて口を挟み込む。じゃあ、握手。って何だよそれ!

「だって、あたしが何も言わなけりゃ二人はずっと仲良くしてたかもしれないじゃない。あたしの事許してくれるんならほら握手!」

 絶対に無い、仲良くなんて絶対してない!

 そんな言葉が頭の中でグルングルンするけど何故か目の前で笑ってる美也に叩きつける事が出来ない。

「祥ちゃん」

 美也は一歩あたしに近づき耳元でささやく。

「駄目だよ、自分に嘘ついちゃ」

 ちょっと、ここで「駄目だよ」は反則でしょ!

「何時もこっそり見てたの気付かないとでも思ってた?いっそのこと、ここで告ってみれば?」

 美也の馬鹿はニンマリ笑ってとんでもない爆弾を放り投げる。

「バ、馬鹿何言ってんのよ、誰がそんな事…」

 今の美也の爆弾、聞こえてないよね。

 あたしがあいつの事す…だなんてそんな馬鹿な話。

 あ、残念って表情で見るな!美也あんた性格悪くなったんじゃない。

「あのさ」

 一対一タイマン状態のあたし達にあいつがのんびり声をかける。

「握手しよう、根岸さんも一緒に」

 は、あんた今何て言った?

 聞き返す間もなく右手があたしの前に差し出される。そして左手が美也の方に。

「ほれ」

 右手が軽く振られる。

「分かったわよ」

 あたしが触ってやんないとあんた美也と握手できないもんね。あくまでも美也の為で、別にあんたと仲直りとかじゃないんだからね。散々言い訳を並べ立ててあたしは右手を掴む。思っていたより大きくて力強い手。ゴツゴツした男の子の手。

 きのうはこの腕に抱きかかえられてたんだよね。

 う、重くなかったかな…


 美也も両手を伸ばしてあいつの手をつかむ。あいつはすこし目を見開いて不思議そうに伸ばした左手を見ている。あいつ自身には何もつかんでいないようにしか見えないんだろうけど、美也の両手に包まれてあたしにはあいつの手がもう見えやしない。

「友達だよね」

 美也が言う。

「あたしと黒田くんはずっと友達だよ」

 うーん、まあそれはそうなんだろうな。

 あたしが、ずっと冷戦状態だったときも美也は平気で話してたし。

「祥ちゃんとあたしも友達」

 それは宣言するまでも無い話で友達じゃなくて親友でしょ。

 こんな状態で見えて話せて触れるんだから大親友以外の何物でもないじゃない。


「だから、黒田くんと祥ちゃんも友達だよ」

 ちょっとなによその三段論法は!あんたはタモリか小学一年生か!友達百人できるかなじゃないんだからね!

「えと、これは美也が言ってんだからね。あくまでも美也の意見だから、誤解しないでよね!」

 なによ、しっかりと手握って真っ赤になって言っても説得力がないってのは!手握ってんのはあんたの為でしょ!赤いのは暑いからよ!もう夏だから!

「そうか、津村さんは僕となんか友達になりたくないのか」

 え、いや、決してそういう訳でもないんだけど。


「まあ、でも何かあったら頼って欲しいな」

 う、何だろう胸の奥がキュンとする。

 頼って欲しいって、えと、期待して良いのかな。

 いや、期待って何をよ。

「根岸さんには教えてたんだけど、覚えて無いって昨日言ってたから」

 ん?何の話。あいつはあたしの手を離して―え、離しちゃうの。

 スマホを引っ張り出すとこっちに突き出す。

「アドレス交換」

 美也の手があたしのスカートのポケットに伸びる。

 あ、それあたしのスマホじゃないの!勝手な事するなよ!

 ピロン。

 かわいらしい音をたててメッセージアプリのアドレス交換が終わる。




 茫然としたあたしと何だか満足げな美也があとに残される。

「やったね、アドレスゲットだよ!」

 美也は嬉しげにスマホをあたしの胸元に押し付ける。

 受け取ろうとしたスマホをかかえて美也ったらクルッと回ってとっとと校舎に向かって歩いていく。てか、あんた何してんのよ!

「え?お礼のメッセ打ってるの。大丈夫ちゃんと祥ちゃんの名前で打つから」

 ちょっと、何勝手な事してんのよ!あたしが伸ばす手を巧妙にブロックしながら美也はメッセージを打つ。

「はい、送信っと」

 頭上に掲げたスマホの画面にメッセージが表示され、あっという間に既読マークがつく。

 あーもう、なんて送ったのよ!

 スマホを奪い返して画面を見る前に、デフォルトの通知が鳴る。

 うわ、速攻で返して来た!

 恐る恐る、画面を見る。

「無理しなくてもいいので、

 嫌なら今まで通り無視しててください。

 できれば睨まないで欲しいですが。

 根岸さん:なりすましはやめてね」

 うわわわ、嫌ならって、嫌じゃ無いけど、でもこれってあいつが実は嫌だって事なんじゃない?

 ていうか、睨んでないし。

 もしかして怖がられてる。あたし。

「あー、やっぱりばれてるなぁ」

 美也がメッセージを読んで呟く。ていうかあんたどんなメッセージ打った?

 慌てて送信側のメッセージを見る。

「黒田くん

 久しぶりに話せてチョー嬉しかったよ♡

 これからも仲良くしてね(●^○^●)v

                祥子♡」

 うっわ、何これ、こんなメッセージ打つわけ無いでしょ!チョー嬉しいとか、ハートマークとか有り得ないし!

「ばれるに決まってんでしょ!」

「だっていつもの祥ちゃんの文章じゃあ、あんまり女の子っぽくないしさ。急いで打ったからちょっと失敗したけど、次は巧くやるからね」

「やんなくて良いから!」

「そーは行かないよ、あたしには祥ちゃんと黒田くんの健全な交際を見届ける責任が有るんだから」

 責任って何よ。

「スマホ貸してよ、もう一度、祥ちゃんになりきって打つから」

 いや、なりきらなくていいから。

「ほら、早く貸してよ、ちゃんと返さないと失礼でしょ」

「いい、自分で打つから」

 思わずそう叫ぶと美也はあっさりと手を引いた。

 こいつ、狙ってたな。

「そ、じゃあちゃんと打ってね。放課後まで時間あげる。それでも打たないんならあたしが打つからね」

「だから、どうしてそんなに偉そうなのよ!」



 散々口出しされながら、午後の授業一杯内職してようやく短いメッセージを書き上げる。

「まあ、これなら好いでしょ」

 えらそうな美也のコメントにすこしむかつきつつ、あたしはそのままメッセージ送信アイコンを押した。


「睨んでません。目つきが悪くてごめんなさい。

 久しぶりに話しが出来て良かったです。

 また、メッセージ送ります。

 これは正真正銘自分で打ちました。」

続きは明日のこの時間に

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