12 散歩道と邂逅
短めです。
早めに戻るとシェリーが期待一杯の顔で待っていた。
お通夜に出かける前に一回りしたはずなのに、それはそれ、これはこれなんだよな。
姉ちゃんは帰って無いし、仕方ない。
「おい、そっちじゃないだろ」
土手の上の遊歩道、いつもの散歩道。
シェリーが当然の様に、折り返し地点を無視して進んでいく。
「わかってるくせに、何でお前はいつもそっちに行くんだよ」
嬉しげに尻尾を振りながらシェリーが進んでいく。
まあ、適当に気が済むまで付き合ってやるしかないか。
土手道を下流方向に向かって歩いていく。
シェリーは、右へ行ったり左へ行ったり。好き勝手に進むばかりでUターンする気配はなし。
見下ろす広い河川敷には見覚えのあるサッカー場。
ゴールの向こうに並んだ木立に昔、秘密基地なんてものを作ってたな。
あの頃は津村とも普通に話が出来たんだけど。
今じゃあ毎日威嚇されて話しかける事も出来ない。
今日の通夜にも来ていたけど、本多さんと少し話してたぐらいでほとんど一人だった。
根岸が居なくなって、大丈夫なのかな。
「お、待てったら」
シェリーが急に方向転換して土手を反対方向に降りていく。
お前は良いだろうけど、こんな暗い中急がせるなよ。
車の音がした。
住宅街なのにあんなに吹かして近所迷惑だな。
騒音の方に妙に明るいライトが見えた。
人の声もする。
なんだ、トラブルか?
土手を降り切って住宅街に入る道に差し掛かる。
ハイビームが眩しい。
明かりの中に人影が走ってくる。
急ブレーキの音とともに、ライトが動きを止めて、やがてバックで遠ざかっていく。
なんなんだ?
走って来た人影が、車止めを抜けて疲れ切ったようにへたり込む。
「大丈夫ですか?」
うちの中学の制服をきた女子生徒、って、ええ、つ、津村。
「大丈夫です、はあ、ありがとうございま…」
荒い息を吐きながら顔を上げて、津村が絶句する。
いや、これどういう状況なんだろう。
車に追われてた?なんで?
「あー、やっぱ黒田くんだぁ、どうしたの?散歩?あー可愛いねぇー」
不意に声がした、そうだ津村が居るんだから当然、根岸がいる。
声が聞こえるのか聞こえないのか、シェリーがへたり込んだままの津村のとなりで空中をクンクンと嗅いでいる。
もしかして見えてるのか?それとも何か匂うのかな。
「この子すっごく可愛い、名前は?」
根岸が聞いてくる。
「…シェリー」
津村の表情がちょっと変わる。
どうせ、らしく無いと思ってるんだろ。
「姉ちゃんが付けたんだよ」
つい、言い訳の様に付け加える。
「可愛いね」
そう言いながら津村が、シェリーの小さな頭を撫でる。
そうして、しばらく無心に動かしていた手が、小さく震える。
「祥ちゃん?」
根岸が声を掛ける。
手だけじゃなく、肩も、いや全身がガタガタと震える。
どうしたんだ。
「あ、やだ、今頃になって怖くなって来ちゃった」
「何なんだ、あの車」
「わからない…突然追っかけて来た」
「絶対、祥ちゃんを狙ってたんだよ」
「狙ってって、そうだな、根岸の事故のことも有るし」
「あたしの事故の事って何」
「え、ああ、その、ブレーキの跡が無かったって…」
「あたしも狙われたの!」
いや、自分の事だろ、覚えてないのか?
「…送ってくよ」
「おんぶしてあげて」
「ちょっと美也」
「だって、祥ちゃんまともに歩けないじゃない」
「でも、だからって」
「あ、それともお姫さま抱っこの方が良い?」
いや、お姫さま抱っこで街中歩く勇気はない。
仕方なく、しゃがんでシェリーのリードを津村に渡すと、片膝をついて背中を向ける。
「…えと、失礼します…」
背中に柔らかい重みが乗ってくる。
両肩の上から白い腕がのばされて首の下で合わさる。
腕を回して、スカートの上から足―太腿のあたりを支える。
「!」
背中で、津村が小さく跳ねるように身じろぎする。
「立つよ」
声を掛けて、曲げた膝を伸ばす。
推定四十数キロの加重を背負って立ち上がる。
津村がしがみつくように腕を引く。
背中に密着する柔らかいものを何とか意識しないようにバランスをとる。
「ごめん、重いよね」
耳元で、津村がすまなそうに囁く。
どう答えても嵌りそうな質問に困る。
「…大丈夫」
土手の下を津村の家の方に向かって歩き出す。
普段と違う道に、シェリーは嬉々として短いリードの許す限り前方を進んでいく。
引っ張られるリードに、津村の右手が伸ばされ、しがみつく様に左腕が首元に強く押し付けられる。
背中にも圧がかかる。
「シェリー、停まれって」
呼びかけにも反応しないで、どんどん先へと進んでいこうとする。
あんまり、引っ張られものだから、つい転びそうになる。
「シェリーちゃん、駄目だよ」
根岸の声と共に引かれてピンと張っていたリードが緩む。
津村の右手のさらに先で、引っ張られるリードを誰かが押さえている。
根岸の手は見えないけど、不自然に空中で緩んだリード。
「押さえてるから、祥ちゃん、離さないでね」
離すなって、背負ってるんだから離せないけど、いや、何言ってるんだ。
続きは明日のこの時間に
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