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11 お通夜と幽霊

 学校が終わって祥ちゃんと一緒に家に帰ると、小母さんが黒い服を着て待ってた。

「6時半からだって言うから、少し何か食べて置きなさい、あたしは先にお手伝いに行くから」

「うん、わかった」

 そういって小母さんを見送ると、祥ちゃんは部屋に入って、そのまま着替えずにベッドに座る。

 6時半って何?

「あんたのお通夜でしょ」

「あ、そうだったね、行くんだ」

 絶対行かないって言うかと思ってた。

「世間的には根岸美也が亡くなったのは事実みたいだから、親友のあたしが行かないなんて言えないでしょ」

 世間的に?

「そ、あたし的には美也はここにいるし、話もできるもの。それに一日中一緒だしね」

 確かにこの二日間はべったりだもんね。他に話す人いないしさ。



 祥ちゃんは夕方になる前に用意してあった早めの夕飯を食べて出かける。

 もちろん、あたしには用意してないし、お腹もすかないので、食べないけど。

 昨日も行った斎場に向かう。

 時間まで少しあるのにもう人が集まってる、それも制服の集団。

 和ちゃんが集団を抜けて寄ってくる。

「よ、一緒?」

 多分正確には「美也も一緒?」なんだろうけど、ここでは名前を出さないほうがいいって思ったのかな。

「うん」

 祥ちゃんが言葉少なく答える。

「何か人、多いね」

 和ちゃんが隣に立つとつぶやいた。

「美也、友達多いもんね」

「そうだっけ?」

 あはは、祥ちゃんは相変わらず。あたしの交友関係とか全然興味ないんだよね。

 周りを見回すと、見慣れたあたしたちと同じ制服だけじゃなくて、隣の中学や私立の見慣れないブレザー姿もちらほらと見える。

「そーだよ。ほら、あっちの制服、うちの小学校の同級生。確か同じ幼稚園のら」

 和ちゃんが隣の中学の制服を着た一団を指して言う。その動きで気づいたのか数人が軽く手を上げてひらひらと挨拶を交わす。

「あっちのブレザーは、ショコ見覚え有んじゃない?」

 和ちゃんの言葉に祥ちゃんが怪訝そうにブレザーの集団を見る。

 あれは、同じ小学校から私立の中学校に進んだ子達。

 祥ちゃんは殆ど話した事無いかな。

「見た事は有るかな」

「2年生の時一緒の班だったじゃない」

 一応教えてあげる。

「2年生の時に同じ班だったらしいけど、名前なんて全然覚えてない」

 和ちゃんに説明してくれる。

「あたしは覚えてるよ。ちゃんと毎年年賀状も出してるし、会えばお話してたし」

「何話すの」

「んー、近況報告かな?」

 きっと、小2のときに同じ班になった事が有るだけの女子と何話すことが有るんだよ?とか思ってるんだろうなぁ。



 しばらくして、制服の集団が動きを見せた。

「そろそろ始まるみたいね」

 祥ちゃんが、さっきよりも確実に増えた制服の集団を見回して言う。

 かねの音が大きく鳴り、お経が始まる。

 何だかちょっと音楽みたいなお経。南無阿弥陀仏って言ってるのかな?踊り念仏ってもしかしてこんな感じ?

 ナンマンダーが繰り返す中、かなり待ってようやく外の制服の集団にお焼香の順番が回ってくる。

 祥ちゃん達と一緒に建物の中に入った。

 大きな祭壇に花が沢山。そして真ん中に大きな写真。セーラーカラーが見える、あれは多分入学式の時の写真。

 ナンマンダーの繰り返される中、ゆっくりと列が進んでいく。

 右の家族席にお母さんとお父さんが座っている。

「ちょっと、行ってくるね」

 祥ちゃんに断って、二人のところに行く。

「お母さん」

 声を掛ける。

 でも、お母さんは硬い表情でうつ向いたまま。

 あたしの声は聞こえていない。

 手を伸ばして触れようとしても、あたしの手は空を切るだけ。

「お父さん」

 やっぱり、声は聞こえてないし、触れない。

 やっぱり、祥ちゃんは特別なんだ。

「先に死んじゃって御免なさい」

 聞こえてないけど、そういって頭を下げる。

「親不孝な娘で御免なさい」

 だって、祥ちゃんがあたしを見つけてくれた事が、本当に嬉しくて。

「二人の事、思い出さなくて御免なさい」

 二人の事、忘れてたんだ。

「お母さんとお父さんの娘で幸せだったよ」

 うん、それは本当。

「あたしの事はもう心配しないで、二人で仲良く長生きしてね」

 忘れてなんて言えないし、そんな事出来ないだろうけど。

 いつまでも仲良くしてね。



  ◆ ◆ ◆



 頭を上げると、もうお焼香が終わったのか、建物の出口近くで待っている祥ちゃん達が見えた。

 通路に出て、二人の処に向かう。

 まあ、誰にも触れないので、通路に出なくても大丈夫なんだけど。

 何となく、人にぶつかりながら歩くのはちょっとね。


「やっぱり、お母さんたちにも聞こえなかった」

「あそこで、あんたの声が聞こえたら大騒ぎだよ」

 あ、そうね、それは考えてなかった。

 聞こえたらお母さん大騒ぎになっちゃうよね。


 祥ちゃんの小母さんはまだお手伝いがあるんだって。

 和ちゃんは他の友達とお茶して帰るって言って、祥ちゃんも誘われたけど、案の定行かないって答えて。

 だから、陽の落ちた住宅街を二人で歩いて帰る事になる。


 あまり出歩かないあたりの住宅街を二人で歩いている。

 特に話すことは無いので、無言だけどまあいつも通り。

 きっと和ちゃんとかにはあたしは凄いおしゃべりだって思われてると思うんだけど、祥ちゃんと一緒に居るときはそうでもない。

 と言っても、祥ちゃんみたいに放っとくとずっと無言でいるって訳じゃ無いけど。


 住宅街なので街灯は少な目で家が途切れると急に暗くなる。

 いつも通り、一定のペースで歩く祥ちゃんの周りを適当に緩急をつけてふらふらしている。

 少し先行して、くるりと振り返って祥ちゃんを見る。


 あれ、


「危ない!」

 叫んで、祥ちゃんの腕を引っ張る。

 転びそうになりながら、ついてくる祥ちゃんを電柱の脇に引っ張り込む。

 祥ちゃんの後ろを、大きな車が掠めていく。


「何何、何なの!」

 あたしの暴挙に対してなのか、後ろの車に対してなのか祥ちゃんが小さく叫ぶ。

「祥ちゃん、こっち!」

 あたしは、祥ちゃんの手を引いて来た道を戻るように走り出す。

 後ろを見ると、薄闇の中に急ブレーキで止まる大きな車の影が見える。


 祥ちゃんの手を引いて次々に角を曲がる。

 それでも、ヘッドライトの光はしつこくあたし達を追いかけ、角を曲がる度に着実に近づいてくる。

 何度目かに角を曲がると叫ぶ。

「先行って!真っ直ぐ」

「うん!」

 一瞬、呆けた顔をしたあと、理解した表情で祥ちゃんが走り出す。

 ほんの20m先に盛り上がって見えるのは川の土手、手前の遊歩道の入り口には大きな車止め。

 そこまで行けば、車は入ってこれない。


 祥ちゃんが全速力で走り出す。

 鈍足のあたしに引かれて、後ろを気にしながら走っていた時よりずっと早く。

 和ちゃんみたいに長距離は無理だけど、短距離なら結構早いはず。


 けど、車相手の競争は歩が悪い。遅れて角を曲がってきたヘッドライトはみるみる距離を縮め…

 ヘッドライトの明かりの中に人影が写る。え、どうして?

 急ブレーキの音と共に車が止まり、バックで下がっていく。

 一瞬遅れて祥ちゃんが車止めの向こう側にたどり着く。


 ゴール。

続きは明日のこの時間に

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