10 無愛想と口寄せ
「で、結局、復活の呪文は効かなかったわけね」
昼休み。
今日はショコと二人でお弁当。
「そうね」
美也が一緒にいない―いや、いるかもしれないけど、あたしには見えないから、二人だけ。
教室中がダンボなのは昨日と変わんない。
「ちなみに、どうして黒田君には美也の声が聞こえるの?」
「・・・さあ?」
相変わらず、愛想のない返事をしてくるのよね、こいつは。
「姿までは見えないって言ってたけど」
「みたいね」
姿は見えないし、呼びかけられるまでは声も聞こえてなかったって、言ってた。
「…ところで、プライベートな質問とやらを教えてくんない?」
この際だから聞いてみる。
「…何のこと?」
あそっか、昼休みの話だから知らないんだね。
「黒田…君に、昨日の事聞いたら、美也がなんか呼びかけてきてプライベートな質問をしたんだって言うのよ、ショコは何言ったか聞こえてたんでしょ、教えてよ」
ショコの動きが停まる。
「知らない」
あ、しらばっくれた。ぜったい知ってるよね、これは。
「…分かった、じゃあ、美也に聞く…って聞こえないか…」
あたしには聞こえないのに、ショコには聞こえる。
黒田にだって聞こえるのに、あたしには聞こえない。
「ずるい」
思わず口をつく。
「なんで、あんたには美也が見えて、話が出来んのに、あたしには見えないし声も聞こえないのよ」
プチ、爆発。
「そんなの、あたしに解る訳無いじゃない」
あたしの怒りを軽く受け流してショコが無愛想に答える。
反応が冷たいのは相変わらず。
「ずるい、絶対変、あたしだって美也と話がしたい、ショコと二人じゃ会話、続かないし」
そうなんだよね。
ここまでの会話でもう十分。
無愛想で、最低限。
美也が居れば、この何十倍も話してくれる筈なんだ。
「そんな事、言っても…え、何、通訳って」
ん?
何だ。
「イタコって…、もう。わかったから」
なにがわかったって?
「えと、美也も和美と話したいって、言ってる…え、何で、…いいよ…わかったから」
だから、なにがわかったのさ
「…あたしも、和ちゃんと話したかったよ」
なに、その棒読み。
ん?和ちゃん、
「…もうさあ、きのうから祥ちゃん以外だっれも話してくれないじゃない。あ、黒田君は別だけど、黒田君肝心なことに答えてくれないし、すっごいつまんないの。あ、でも祥ちゃんちで一緒にお風呂入ってお泊りしたの久し振りで良かったよ」
超棒読みで、続けてるけど、これってもしかして、
「あ、これね、同時通訳?あたしが話したらそのまんま話してって祥ちゃんにお願いしたんだけど、ねえ…もうちょっとらしくはな…あ、うん、これあたしにか、うん、あー頑張るけど、期待しないで」
やっぱり、美也だ。
「お泊りか、よかったじゃん。で、昨日は学校出てからどうしてたの?」
「あーそれね、病院まで行ったんだけど、あたしそこに居なくて、色々聞いて斎場?教えてもらって行ったんだけどね、やっぱり復活の呪文とか知らないからさ、生き返るって無理だったんだ」
何か、美也っぽく話そうとしてるんだろうけど、普段から最低限の会話しかしてないから、表情筋もついてかない。
普段とうって変わって饒舌になったショコに、状況を理解できてないクラスメイト達の視線も集まってくる。
あは、もう、全然違和感しかない。
「それからは、河原でぼーっとして、そのあと祥ちゃん家行って、一緒にお風呂に入って、あ、そうだそん時にね、ちょっと変なことあったんだ」
「変な事ってなに?」
「シャワーがね、持てたり持てなかったしたんだよね。」
持てたり持てなかったり?
そもそも、持てる方がおかしくない?
「いや、何で持てるの」
「え、だって祥ちゃんが冷たいシャワーを向けるもんだからさ、奪い取らないと風邪ひいちゃうじゃない、でシャワーがあったまるまで待ってたら、また手から落ちちゃって拾えないの、そいで祥ちゃんが拾ってくれたんでまた落とすと嫌だからホルダーに乗せて頭洗って、体洗いっこしてたんだけどね」
やっぱ、美也だなぁ、会話の量が桁違いだ。
正直、ショコの顔と、中途半端なテンションで、違和感は凄いけど、言葉の使い方も無駄に饒舌なところも美也そのもの。
ショコが嘘ついて真似てるなんて到底思えない。
「洗いっこって、お子様かい」
「うーん、まあ、久しぶりだしね。あ、でもねスポンジも最初は持てるんだけど、途中で落としちゃってさ、なんで洗いっこてより、もっぱら洗われてたんだけどさぁ。なんで、すぐ落としちゃうんだろうねぇ」
「落としちゃうより、最初に持てる方が不思議じゃないの」
「え、だって、幽霊だって物持てるでしょ、番町皿屋敷のお菊さんだって、お皿数えてたし、ポルターガイストって、幽霊がもの投げる話でしょ?」
ポルターガイストってのは、もの投げる幽霊じゃなくて、騒がしい幽霊なんだけど。
あ、でもそうか。別に幽霊だからって物が持てない訳じゃないのか?
「じゃあ、これは持てる?」
ペンケースからシャーペンを出して多分美也が居ると思われる方に差し出す。
「え、…持てない。何でかな」
やっぱりね。それじゃあ次は…
「ショコ、ちょっとこれ持って」
シャーペンを渡す。
「これなら持てる?」
「あ、うん、持てた」
その声と同時にショコの手からシャーペンが空中に飛び出す。
そのまま暫く空中に留まっていたかと思うと、急に机の上に落ちる。
「…けど、やっぱり落ちちゃうね」
なるほど、ショコから受け取れば暫くは持てるってわけね。
何というか、ブレないね。
「ショコ、手だして」
少し怪訝な表情をしながら、素直に伸ばしてきた左手にあたしの右手を重ねる。
そうして、あたしの左手をシャーペンが落ちた先に伸ばす。
「美也、あたしの手握って」
伸ばした左手に何かが触る。
普通に体温を感じる。
何も見えないのだけど。
確かに、あたしの左手を包んでいる。
そっと、右手をショコの手から離す。
途端に、左手からも感触が消える。
右手を戻すと、左手に感触が戻る。
ほんと、ブレないね。
「ちなみに、黒田君には触れるの?」
聞いてみる。
「ううん、触れなかった。頭叩こうとしたんだけど、スカッて空振りしちゃった」
ショコが触ってないと駄目なのかねやっぱり。
しかし、何で声は聞こえるんだろう。ああ、そういえば。
「で、プライベートな質問って何だったの?」
「さっき、知らないって言ったよね」
あらら、通訳拒否されちゃった。
てことは、
「ショコのプライベートなのね」
「…」
発言拒否かい。ほんと、分かりやすいよね。
※和美に聞こえていない間の美也と祥子の会話です
「えなに、うん、あたしも和ちゃんと話したい」
「そだ、祥ちゃんさ、通訳してよ、通訳」
「そんな事、言っても…え、何、通訳って」
「じゃなくて、えっと、イタコ、口寄せ?なんかそんなのあるよね」
「イタコって」
「ほら、やってよ、和ちゃん待ってるから」
「もう。わかったから」
「じゃ、…あたしも和ちゃんと話したかったよ」
「えと、美也も和美と話したいって、言ってる…」
「そうじゃなくて、あたしの言ったことそのまま話して」
「え、何で、」
「前に見たイタコってそういう風にやってたよ、まるで本人と話してるみたいだって」
「いいよ…わかったから」
続きは明日のこの時間に
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