097. いざ日本へ
フルータル王国王城へと戻ったユーゴ達は、城の門番へネルに取り次いでもらうよう頼むと、あっさり入城することが出来た。話が通っていたのだ。
「ユーゴさん、おかえりなさい」
「おかえり、ユーゴ。何も異変はなかったか?」
フィールエルは雪をチラ見して言った。
「特に何もねぇよ。それよりネル。王様の容態はどうなんだ?」
「それが……」
「何よ。そんなに悪かったの?」
目を逸らして言いよどむネルを見かねて、フィールエルが事情を代弁する。
「違う、パレア。その逆だったんだ」
「逆?」
「確かに陛下は伏せられていた。だがそれが、ネルが帰ってきたと知るなり、急にお元気になられたんだ」
フィールエルの説明でネルの顔は赤く染まり、ついには両手で赤面を覆い隠した。
「つまり王様は、娘に会えない寂しさで気落ちしていただけってことか?」
「……はい。そのようです。お騒がせして申し訳ありません」
謝罪したネルだが、蚊の鳴くようなその声が、慙愧の念を物語っていた。
とはいえ、ネル自身に何の落ち度もなく恥ずべき点もないが、父が起こした騒動は身内である自分の恥と思ってしまう性格なのだ。
「ま、何事もなかったんならそれで良いじゃねぇか。それより、次の目的地がきまったぞ」
「そうなのですか?」
「へぇ……ちなみに、何処なんだ?」
「日本だ」
「「 日本!? 」」
ユーゴの答えに聖女二人は仰天。
その反応を面白くなさそうにしているパレアが、ユーゴに尋ねる。
「さっきカール・デニスも言ってたけど、どこなのよニホンって。フィーとネルは知ってるみたいだけど。アタシ長く生きてるけど、そんな場所知らないわよ」
「私もそんな地名は存じませんわ」
雪も上品に頬に手を添えて言った。
「知るわけないだろ。異世界なんだから」
「「 異世界っ⁉︎ 」」
ビックリ顔の雪とパレアに、ユーゴはいつもより真剣味を増した顔を向ける。
「正確には地球という異世界にある、日本という国だ。俺が生まれた祖国でもある」
「あ。そういえば、ヨウゲンに向かう船の中でその地名を聞いた気がするわ」
「旦那様の故郷……」
パレアは顎に人差し指を当てながらその時のことを思い出し、雪は俄然興味が出てきたように、瞳を輝かせた。
「で、だ。そこで問題が二つある」
人差し指と中指を立てたユーゴに雪が問う。
「と、仰ると?」
「まずは、すんなりと日本に行けるとは限らないということだ。以前どこかで言った気がするが、俺の時空間移動能力【幽世の渡航者】は、俺が以前存在していた世界ならほぼ全てに移動できる。だが異世界の移動は成功率が三分の一だ。だがそれなら、何回か移動を繰り返せば事足りる。問題は次だ。【幽世の渡航者】だが、狙った座標にドンピシャで跳べるとは限らない。下手すりゃ渡った瞬間、命の危険があるかもしれない」
四人の少女を見渡して言ったユーゴに、彼女たちは答える。
「ボクは問題ない。危険はいつものことだ」
「私も問題ありません。覚悟は出来ています」
「アタシもよ! 行った先が海の底なら任せなさい!」
「私も旦那様が向かう所ならば、何処なりとも」
はぁ、と溜息を吐いたユーゴ。
「ま、お前らはそういうと思ったよ。それよりネル。王様は放って置いて良いのか?」
「構いません。また近いうちに戻りますと、誰かに言付ければ大丈夫です……たぶん」
「フィールエルは? スウィンのところに行くんじゃなかったのか?」
「それなんだが、スウィンの実家に問い合わせたら、どうやら少し旅に出ているらしい。また日を置いて行くことにするよ」
「そうか。なら準備でき次第、出発するか」
そして各自の用意が整った後、ユーゴは城内の目立たない場所で幽世の渡航者を発動した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「かかった」
光の存在しない真の暗闇に、神々の姿があった。
深いシワが幾つも刻まれた和装の老神。
銀髪の美女。
象頭の偉丈夫など。
他にも、統一性の無い外見をした神々が計八柱。
その姿は様々だが、共通しているのは、光がなくとも淡く発光しているということだった。
声を発したのは、ミディアム・ロングに伸ばした銀髪の美女だった。
「ほう。例の ”異常ユニット” か?」
老人が問うた。
「そうだ。あの箱庭に閉じ込めた」
「ふん。これでようやく”異常ユニット”の正体がわかるかもな」
そう言ったのは、腰蓑だけの半裸の若い男性神だった。
「うむ。突然ワケのわからんユニットがあの時空へ現れた時は何事かと思ったしのう」
答えた老神に対し、象頭の異形神も同意する。
「うん。お陰で、僕たちの仕込みを幾つも潰されたしね」
更に黒いパンツスーツを着た、ショートカットの美女神が、やれやれと首を振る。
「まぁあの時空間は、今となってはあちらさんの管轄だからね。データを参照できなかったのは仕方ない。だからこそ、【箱庭】に閉じ込められるよう罠を張っていたわけだが、意外に早かったね。余が策を弄するまでもなかった。とはいえもう後は、君が張った罠の中で、じっくりデータを見させてもらうとするか」
「フン。どうせあの新参者共の手先だろうがな」
腰蓑の神が鼻を鳴らし、忌々しそうに吐き捨てた。
「そうだろうね。あとは君の張った罠が、やつらを一気に潰してくれるのをじっくり見物させてもらうとするよ」
男装の美神は、銀髪の女神に視線をやった。
「ああ。幾つか罠は仕込んである。それに、箱庭の最上位守護ユニットは、出力だけなら我々神に迫る。いかに異常ユニットとはいえ、ひとたまりもないだろう。さて───」
発言の後、銀髪の女神は同盟神たちに背を向けた。
そこに老神が問う。
「何処に行くつもりだ?」
「異常ユニットが気にかかる。直接手は出せずとも、あそこならば様子を見ることもできよう。まぁ、罠の最終点検だ」
そう言って女神の姿がフッと消えた。
それを潮に、全ての神々がこの場から消え去った。
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