070. 神妙にお縄につけ
平明神です。
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「もうそろそろかな」
ユーゴが立ち上がると、ピィー、ピィーと警笛が遠くで鳴り響いた。
「よし。来たみたいだな。ほら、行くぞ」
「よ、よせ。離せ!」
ユーゴは錦兵衛を小脇に抱えると、常人離れした脚力で、元の蔵があった位置まで跳躍した。
少し遅れてフィールエルも、ユーゴの隣に綿毛のようにふわりと着地した。
同時に大勢の人間が飛田屋の庭に駆け込んできた。
袴の帯紐に刀と脇差しを差した、奉行所の侍達である。
「某は松風奉行所の琴吹左門である。飛田屋、これは如何にしたことか」
「お、お侍様、これは……」
しどろもどろになる錦兵衛に代わり、ユーゴが答える。
「やぁやぁ皆さんお初にお目に掛かる。東に不正あればこれを正し、西に邪悪あればこれを討つ。天網恢恢疎にして漏らさず。義を見てせざるは勇無きなり。我らは正義の忍者、我が名は黒風!」
「同じく青風よ!」
「同じく桃風だ!」
「またこれをやるんですかぁ……白風ですぅ………」
再び声高らかに名乗った黒風はまたもアゲアゲポーズ、青風も魔法少女ポーズ、桃風はタカラジェンヌのように凛々しいポーズと、それぞれがポーズを決める中、白風だけは羞恥に耐えるように手で顔を隠していた。
「桃風は凄いですね。恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしいな。でもなんか、ドキドキして気持ちが良いんだ」
「そ、そうですか……」
ネルは、同じ聖女であるフィールエルがどこか遠くへ行ってしまったような気がした。
「正義の忍者だと? 戯けたことを吐かしおって。そのような珍妙な格好をした忍びがいるものか。ちんどん屋か、さもなくば気が触れた賊か」
厳しい顔でユーゴたちに吐き捨てた琴吹という侍に、ユーゴは肩を竦めてみせる。
「おいおいおい。賊は賊でも義賊って言ってくれよ」
「義賊だと? どういうことだ?」
「実はな、この飛田屋の錦兵衛くんが、人魚の子供を大陸から攫ってきたんだよ。正確には人を雇って攫ってこさせたんだけど。で、自分でそれを食ったり売ろうとしてたみたいなんだよな。悪いだろ、このジジイ」
ユーゴの言葉に琴吹は気色ばむ。
「何ぃ!? 飛田屋、それは真か!?」
「そ、それは……」
狼狽しきりで答えられない錦兵衛。
「その証拠はここにあるぜ。なぁ青風?」
「そうよ。それ!」
パレアが片手を上げると、庭池の水が吹き上がり、大きな塊となって五個の樽を呑み込んだ。
その樽から、するすると五人の人魚の子供が泳いで出てくる。みなあどけない顔に、不安を浮かべて。
「陸ではほとんど力のないアタシだけど、そこに水があれば話は別。これくらいはお茶の子さいさいよ」
それを目の当たりにした侍たちはどよめき、驚きと戸惑いが、小波のように彼らの中に広がっていく。
「本当に人魚ではないか‼︎」
「あのくノ一、水遁の術を使ったぞ!?」
「しかもあれだけの規模、乙賀の上忍と同等だぞ……っ!」
パレアの水操魔術に、驚愕の声が上がっていった。
「それじゃあこのガキどもは返してもらうぜ」
ユーゴは地面に手を付き、【幽世の渡航者】を発動した。
「行けよ、パレア」
「うん、ありがとう。じゃあ行ってくるわね」
まず水ごと子供たちをゲートに通し、パレアは自らもゲートを潜った。
「消えた!? 面妖な術を使う。……話は理解った。だが飛田屋錦兵衛には奉行所にて尋問を行わねばならん。その者をこちらに引き渡してもらおう」
苦々しい表情を浮かべた琴吹にユーゴは一定の理解を示したが、キリッとした顔で言い放つ。
「まぁお前らの立場は理解る。だが断る!」
「なっ……何故だ?」
「事件はこいつを裁いただけじゃ終わらねぇと思うぜ。それにあんたらに引き渡したら、お偉いさんに揉み消されかねないしな。こいつには、俺が訊きたいことがある」
「ならば致し方ない。賊め、飛田屋もろともひっ捕らえてくれる。神妙にお縄につけ!」
「やーなこった。実力行使上等だ! 白風、このおっさんを頼む」
「はい!」
ネルは祝詞を唱え、自身と錦兵衛を防護壁で包み込んだ。
「皆の者、かかれ!」
琴吹の号令で侍たちがユーゴたちへと掴みかかるが、
「よ。ほ。はっ」
ユーゴは迫りくる侍の手を躱し、相手の勢いと重心を利用して次々と投げ飛ばしていき、フィールエルは少威力の神聖術で弾幕を張り、侍たちを寄せ付けない。
「ぬぅ……我が松風奉行所の精鋭たちがまるで赤子扱いではないか。……待て、止めろ!」
ユーゴ達の実力に端倪すべからずものを感じ、琴吹は呻いた。そして頭に血が上ってユーゴの背後から刀で斬りかかろうとする部下を制した。
しかしその声が届く前に、部下は大上段から一刀両断しようと振り降ろした。
ユーゴの真後ろから脳天めがけて凄まじい速さで迫る刀。
黒装束の賊の脳天が叩き割られる姿を、松風奉行所の侍や飛田屋の面々は想像した。
だが、
「な、なんと……っ! 片手白刃取りだと!? しかも振り向きもせずとは……心眼か」
確かにユーゴは後ろを見ずに、人差し指と中指で白刃をキャッチしていたが、もちろん心眼などではない。種明かしをすれば【千里眼】で周囲の状況を確認していただけである。
ユーゴの芸達者ぶりにたじろぎ、侍たちは攻めあぐねる。
「こんなもんか。桃風、白風、そろそろ次の段階に進むぞ!」
「了解だ!」
「はい!」
ネルが防護壁を解除し、ユーゴが錦兵衛を肩に担ぐと、フィールエルは神聖術で身体強化を施してネルをお姫様抱っこした。
「よっ!」
ユーゴは軽々と高い塀の上に跳び、フィールエルは光の翼を広げて空へと舞い上がる。
その動きに、侍たちのどよめきはさらに増していった。
「飛田屋錦兵衛の身柄は頂いていく。返して欲しくば石彦山の廃寺まで来い! ではさらばだ! んなーはっはっはっは!」
高笑いしながらユーゴは村の家屋の屋根を渡って走り、フィールエルは天高く飛翔して消えた。
「なんと軽捷な、動き……」
「あの桃色のくノ一、天狗か……!?」
その光景に侍も飛田屋の面々も立ち尽くし、抜刀していた刀を取り落とした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ひとまずここまでは計画通りだな。とりあえずこいつを尋問がてら休憩にするか」
紅葉色づく人気のない山寺の境内。そこでユーゴは言った。
「そうだな。今日は朝から忙しかったし、ボクも少しお腹が空いた」
ユーゴの言葉にフィールエルがお腹を押さえながら同意した。
彼女の言葉通り、今日は朝から忙しかった。
朝食を終えたユーゴ達は、それぞれの任務を果たすべく動いた。
パレアは女将から飛田屋の評判の聞き取り、フィールエルは物資の買い出しに出た。
ユーゴはパレアの情報を元に、一度メナ・ジェンドへと移動し、戻ってきた後はある物を手に入れるために歩き回った。
ネルはイリーナの潜入技術を活かして神聖術で姿を隠し、村の電気屋で買った撮影機材を持って飛田屋に潜入した。ユーゴから飛田屋が遣いを出していたという情報を得ていたので、読み通りネルは、悪巧みの一部始終を記録することが出来た。
もう一度旅館に集合し、全員、着替えた。
「着替えたほうが良いんですか?」 というネルの質問に、ユーゴは「変装して義賊という設定を作っておけば後々面倒が少ない」 と説明し。ネルをうまく丸め込んだ。
ネルは唯々諾々と従ったことを今となっては後悔している。
飛田屋の蔵を派手に吹き飛ばして注目を集めている間に、フィールエルが機器を接続するという陽動作戦だった。
子供たちを救出した後はパレアとともに海に逃し、ユーゴ達は人気のない廃寺で錦兵衛を尋問して取引先を聞き出すという段取りで、いまのところ作戦順調に進んでおり、一度休憩となったのだが、
「ん……なんだ?」
遠くから、なにか航空機のジェットエンジン音のような甲高い音が聞こえてくる。
やがて雲を突き破り、何かが地上へとゆっくり降下していく。
とても巨大な何か。それは、戦国武者のような全身甲冑を着た巨人───いや、巨大なロボットだ。
それが二機、どこか遠くの地上へと着陸した。
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