062. 冥海の魔王ちゃんリターンズ
平明神です。
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「ユーゴを、ボクが抱く……!? え、ちょっとまって欲しい。キ、キミの気持ちは嬉しいし、そういう関係になることはボクもやぶさかではないというかむしろ望むところなんだが、抱くより抱かれる方がいいというかでもボクは一応ミラール教の信徒であってそういうことは順序を踏んでだな……」
「ユーゴさん?」
顔を耳まで真っ赤にしたフィールエルは、突き出した両手を顔の前で振って、一気に捲し立てた。
そしてその横に座るネルは目を細め、何故かフォークを逆手に握り直した。
「? 多分アホな勘違いをしてるぞ、フィールエル。……待てネル。イリーナを引っ込めろ。フォークをテーブルの上に置け。それは食器であって拷問道具じゃない」
「……勘違い? ど、どういうことだ?」
「いや、俺の言葉が足りなかった。つまり、フィールエルが翼を出した状態で俺を抱えて飛ぶ。そんで俺が上空から攻撃して、一気に全滅させる」
「そ、そういうことか。ちゃんと正確に言え。……ちょっと期待しちゃったじゃないか」
「あ、あの。ユーゴさんの車はたしか水陸両用ですよね。それに乗って戦うことは出来ないんですか?」
ユーゴを他の女子と密着させたくないネルは、必死に代替案を提示した。
「それは俺も考えたが、車の真下が無防備になるから危険だ」
「そうですか。というか、そもそもユーゴさん自身は、自力で飛べないんですか?」
「実は飛べる。しかし酷く目立つ。却下だ」
「目立つなんていまさらだろう。何がダメなんだ」
「あまり悪目立ちすると、纏まる話も纏まらなくなるもんだ。人は自分と違いすぎるもの、理解が及ばないものを気味悪がるからな。だから俺は極力、目立たないようにしてるんだ」
「「 …… 」」
しかし聖女たちは知っている。
それが面倒くさくなったり腹が立った時には、あっさり放棄される安いポリシーだということを。
「ま、まぁ、そういうことならボクがユーゴを抱えて飛ぶという案を採択せざるを得ないな」
口ではそんな事を言いつつも、彼女の顔はまんざらでもない。
「いえ、まだです。フィーが一人で飛んでいって、神聖術で掃討できるのでは?」
「意外と食い下がるな、ネル。これは本当のことだが、ボクの神聖術では火力が足りない。流石に海中にいる魔物を空中から倒すのは不可能だ」
「確かにそうですね」
水というものは意外と抵抗力が高い。水中でライフルを撃ってもすぐに弾丸の勢いが削がれ、止まってしまうほどに。それはネルも知っていた。
「ユーゴさんなら……出来ちゃいますよね」
ユーゴが上級魔人五万弱の軍勢を、一気に滅ぼした光景は、二人の記憶に新しい。
「ふと思ったんだがユーゴ。お前がそれをやった場合、周囲の町などに被害は及ばないんだよな?」
「…………」
フィールエルの問いに目をそらしたユーゴ。実はその事を全く考えていなかったのだ。
「被害がでそうなんだな? では却下だな」
打つ手なしである。
「うーん」と三人は頭を抱えた。
食事を済ませたあと、ひとまず海の様子を見てみるかと三人は港へ足を運んだ。
「とりあえず、ボクが上空から探ってみよう───いや待て、何か強大な力を持つものが転移してくる」
その気配を感じ取ったフィールエルは、海上に目を移した。
「ひ、久しぶりね、ユーゴ・タカトー! げ、元気にしてたかしら!?」
声を裏返しながら転移してきたのは、セーラー服を着た青髪のツインテールの小柄な少女。その手には大きな槍を持っている。
冥海の魔王たる、パレア・シンクロンである。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
深い海の底。地上に住まう者が決して手を出せない安寧の地にそれはあった。
一つの小島に匹敵するほどの大きさの貝の殻。その中には幾つもの建造物が立ち並び、大きな都市を形成していた。
世界中の海にはこのような海中都市が幾つもあり、その中でもここは最大級の規模を誇る。
【海王城スレイマーク】
その名が示唆するように、ここは全世界の海を統べるもの、即ち、冥海の魔王の居城が存在した。
パレアがユーゴ達の元へ転移する数時間前のことだ。
海王城の主として君臨するパレア・シンクロンは、海水で満たされたその自室で虚脱していた。
海中に大の字───いや、二本の足ではなく一本の背びれなので十の字でゆらゆらと浮かび、呆け顔。
しかし彼女の名誉と尊厳を守る表現を用いれば、 “物思いに耽っていた乙女の表情” ということになる。
五日前、彼女は大敗を喫した。過去に類を見ないほどの負けっぷりである。
なにしろ敵に背を向け、尻尾もとい尾びれを振って逃げたのだ。
いや、戦いにすらなっていなかった。軽くあしらわれていただけだ。徹頭徹尾ひれ。
しかしそれも仕方のないこと。聞くところによれば、奏星の魔王軍五万を一瞬で壊滅させ、あまつさえあの奏星の魔王グレンを子供扱いで地に伏せさせたというではないか。
それに───
ポッと、パレアは自分の顔が熱くなるのを自覚した。
海水が蒸発するかと思ったほどだ。
何故かあの男の顔を思い出すとこうなる。何か悪い病気に罹ってしまったしまったのだろうか。
これは原因を確かめなければいけない。あの男を探し出さねば、このままでは全身のほてりで煮魚になりかねない。
パレアは問題解決のため行動すべく、転移魔術を使った。
「邪魔するわよ! あ、今日はベルタリオなのね」
メナ・ジェンド獣王国の首都ベルトガルド。
その官邸執務室で部下数人を集め指示を出していたベルタリオ・モンステリオ大統領は、突然の闖入者を見て眉間にシワを寄せた。
周囲の部下たちが、予告なく現れた敵の親玉に緊張感をみなぎらせて戦闘態勢を取ったのも当然のこと。
「おい、パレア・シンクロン。アポイントもなく一国の統治者の元に急に押しかける慮外者よ。一体何の用だ?」
ギロリと睨むベルタリオに、「う……」と鼻白みながらも、パレアは要件を切り出す。
「あの…この間のアイツの事を知りたいんだけど……」
「アイツ……?」
「ほら、何日か前にアンタが連れてきたでしょ? スエナの近くの海岸に」
「……ああ、ユーゴのことか」
そう、ユーゴ。ユーゴ・タカトーだ。
確かにあの時、あの男はそう名乗っていた。
「そう。そいつよ」
「で、ユーゴがどうしたのだ? まさか、先日の報復を考えているのではなかろうな。だとしたら見逃せんな。やつは私の大切な友人なのだ」
剣呑なオーラを発し始めたベルタリオに、パレアは必死で首を振る。
「ち、違うわよ! そうじゃなくて、その……アイツに会わなきゃいけない気がするのよ。何でかわからないけど……」
「……?」
恥ずかしそうにもじもじと喋るパレア。
高飛車なパレアの初めて見る姿に、こいつはなにか変なものでも拾い食いでもしたのかとベルタリオが首を傾げていると───
「ベルタリオ様、もしかすると……」
こしょこしょと主に耳打ちする副官のカルラ。
「……何だと? しかし、あのパレア・シンクロンだぞ。この百年間、精神的にも肉体的にも全く成長しなかった」
「はい。ですがあの様子、まず間違いないかと。女の勘ですが」
「な、何なのよ、アンタたち。目の前でこそこそ話しして。感じ悪いわよ」
「パレアよ。お主のその何故かわからないその原因が何なのか、私たちには判ったぞ」
「え!? なに? なんなのっ? お、教えなさいよ!」
身を乗り出して尋ねるパレアに、ベルタリオは重大な病を宣告する医師のように、深刻な表情で告げる。
「それは───恋だ」
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